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大人気シリーズ『世界一クラブ』の大空なつきさんの新シリーズが読める!
だれにも言えない〈神スキル〉を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって、大事件から救いだす! ハラハラドキドキの物語の幕が開く!
(全5回)
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・朝陽 小6〈ふれずに物を動かすスキル〉でも、重いものはムリ!?
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・まひる 中1〈はなれた場所を視るスキル〉ただし、近い場所だけ!?
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・星夜 中2〈人の心を読むスキル〉知りたくないことも聞こえちゃう!?
第4回 まひるのさがしもの!
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そのころ、わたし、まひるは中学校の自分の教室の席に座っていた。
まわりがおしゃべりに夢中なクラスメイトでいっぱいななか、閉じたまぶたの裏には、朝陽(あさひ)の姿が視(み)えている。
「ふんふんふん、ふ〜ん♪」
朝陽は、中学生との3オン1の対決が終わって、友だちとバスケを始めてる。
バスケに夢中の朝陽は気づいていないけど、近くで遊んでいた子たちも、いばっていた先輩(せんぱい)がいなくなって、のびのび遊べるようになってうれしそう。
朝陽、カッコいいじゃない。
しかも、ああいうところでスキルを使わないのが、朝陽のいいところだよね。
スキルで視ていたってわかったら文句を言われそうだから、心の中でほめておこうっと。
「まひるちゃん、どうかしたの?」
親友の桜子に声をかけられて、わたしは、ぱちっと目を開けた。
「ううん、なんでもない。ちょっと目が疲れちゃっただけ」
わたしのスキル――『はなれた場所を視るスキル』は、すごく便利なんだけど、使うときに目を閉じないといけないのが欠点。ま、目に見える現実と二重に見えちゃっても困るけど。
ちなみに大川桜子は、たくさんいる友だちの中でも、特に仲良しの大親友。春休みにも、いっしょにお買い物に行ったり遊んだりしたけど、やっぱり学校でおしゃべりするのも楽しい!
わたしは桜子に、にっこり笑いかけた。
「桜子。さっきの数学の問題、解けた?」
「うん、一回でできたよ。やっぱりまひるちゃんは教えるのじょうずだよね。塾の先生よりわかりやすかった。ありがとう」
話がとぎれた瞬間、クラスメイトの男子が、問題集のページを指さす。
「あ、まひる! この理科の電流の問題も教えて。わからなくてさ~」
「オッケー、まっかせて。えっと、電池はプラスとマイナスで通電するから――」
わたしはノートに、さらさらと図を描いていく。
ついでに、かわいいペンでちょっとデコレーションして……。
お気にいりのクマちゃんも描いて。よし、できた!
「はい。これが電流の基本ね。ほとんどの電気の問題が、この応用でできるから、わからなくなったらこれに戻るといいよ」
「サンキュ、まひる。これで宿題も、ギリギリ間に合いそう!」
「まひる、あたしもそのプリント書きうつしてもいい?」
「いいよ。さあさあ、写すがよい~」
うんうん、やっぱり学校は楽しい! みんなとたっぷりおしゃべりできるよね。
ふふふっ、朝陽や星夜が興味なさそうな話も、友だちとなら何時間でも話せるし!
「そういえば、みんなは春休み何してたの? どこか行った?」
「オレはサッカークラブばっかりだったな。あと、映画を見に行った。春休みに公開したやつ」
「あたし、家族で温泉に行ったよ! はじめて旅館に泊まったんだ〜」
「へえ、みんないいなあ。充実してる〜ってかんじ。わたしは、今年の春休みはあまりお出かけできなかったんだよね。保護者(ほごしゃ)のお兄ちゃんがよく外出してて」
「そうなんだ。そういえば、わたしの行ってる塾の友だちも、家族の仕事の関係でどこにも行けなかったって子がいたよ。すっごく落ちこんでてさ」
「どこにも!? それは悲しすぎる~!」
うちも、春休みはハル兄がやけに忙しそうだったもんなあ。こんなこと今までなかったのに。
……もしかして、今日の放課後の急な待ち合わせに関係ある?
あ~、今からこっそりスキルで調べたい!
いや、ダメダメ。ハル兄にもきっと理由があるはず……。
そう自分に言いきかせていると、となりの席の女子が、急に顔を赤くした。
「わたしも、いい春休みになったんだ。じつは……春休みのあいだに、彼氏ができたの!」
「え――――!? そっ、そうなの―!?」
いいなあ、いいなあ、いいなあ!
わたしは思わずその女の子の肩をつかむと、ぐっと顔を近づけた。
「お願い、教えて! どこで? どうやって? どんなふうに!?」
「ま、まひる、落ちついて。ね?」
「あ、ごめんごめん」
つい、前のめりになっちゃった。
なんとか席に座りなおすと、となりの席の女の子は、うれしそうに話しはじめた。
「ええっとね、相手は同じ塾の人なんだ。違う学校の一つ上の先輩なんだけど、同じ時間に帰ることがあってね。ときどき話すようになって……」
「そうなんだ。それで、どんな人?」
「えっとね、国語と英語が得意で……って、そうじゃないよね。話がおもしろくって、やさしい人だよ。前に消しゴムを忘れたときに貸してくれたんだ」
「わあぁ、いいなあ」
わたしがうらやましがると、となりの席の女の子は、ますますはにかんでいく。
ううっ、その笑顔がかわいい! やっぱり恋をするとかわいくなるって本当!?
「いいなあ、わたしも好きな人がほし〜い! いっそ一足飛びに恋人でもいいのに!」
「まひる、興奮しすぎだよ」
桜子が、くすっと笑った。
「でも、あこがれるよね。わたしも、すてきな人がいたら、つきあってみたいな」
「そう、それが問題だよね。つきあいたいって思える人は、そうそういないし」
「あ、でも、まひるの兄弟は、けっこうかっこいいよね!」
まわりの子たちが、きゃっと声を上げた。
「わかる。朝陽くんと星夜(せいや)先輩、いいよね! 朝陽くんは、運動が得意でカッコいいもん。去年、学校の球技大会でサッカーしてたけど、中学生も軽々かわしてシュートを決めてたよ!」
「星夜先輩は一つ上とは思えないくらい大人っぽいし、クールでイケメンだと思うなあ」
「えー、朝陽と星夜?」
うーん……たしかに、カッコいい、はカッコいいんだけど。
「でも、朝陽は、ギリギリまでテスト勉強しないだらしないところがあるし、星夜もやさしすぎて優柔不断なところもあるよ。わたしは、二人じゃ満足できないかなあ」
「じゃあ、まひるの理想の恋人ってどんな人?」
「よくぞ聞いてくれました。それはもちろんっ」
わたしは、人差し指をぴんと立てた。
「カッコよくてやさしくて、笑顔がさわやかで頭がよくて、キュートで強くってクールで、さりげない気遣いができて、おしゃれでプレゼントのセンスがよくって、でもちょっとドジなところもあって、かわいくて、とにかく、ゾクッとしちゃうくらいのあまくて大人っぽい声で!」
そのとき、まわりのクラスメイトの心に同じ言葉が浮かんだ。
(まひるって頭はいいけど、恋愛に関しては、けっこう夢見がちだなあ……)
シーン――
「? みんな、どうしたの?」
「……い、いやあ、なんでもない。まひる、がんばれよ」「あたしたちも応援してるね」
「ありがとう! あ、そろそろ昼休みが終わるね。授業の準備をしないと」
えっと、理科のプリントはしまって、国語の教科書を出して、と。
ノートを机に出したところで、前の席の桜子(さくらこ)があわてだした。
「桜子、どうしたの? 忘れ物?」
「……手帳がないの」
「えっ」
桜子が、バッグの中身を机の上に広げる。教科書にノートに、ふでばこに……。
たしかに、いつも使ってるドット柄の手帳がない!
「どこにいったのかな? 桜子、今日、手帳を持ってきたのはまちがいない?」
「うん。家を出るときにバッグに入れたから。学校でも持ちあるいてて……どこかで、落としたのかも。どうしよう、まひるちゃん!」
わ、めずらしい。桜子が、すごくあわててる!
とにかく、安心させてあげなきゃ。
「桜子、だいじょうぶ。落とし物として見つかるよ。学校の中にあるんだから」
「でも……手帳の中身を人に見られたくないの。わ、わたし……」
桜子が、今にも消えいりそうな小さな声で言った。
「中に、す……好きな人の写真を入れててっ」
「ええ!?」
それは大変! どうにかして、だれよりも先に見つけなきゃ!
でもでも、もうすぐ授業だから走りまわってさがす時間はないし……。
えーい、朝陽も友だちのためにがんばってた。わたしも困ってる親友を助ける!
「ねえ、桜子。最後に手帳を見たのがいつか覚えてる?」
「えっ、最後に見たのは……移動教室で行った理科室かな。その授業のあと、学級委員の仕事で調理実習室へ行って、帰りに中庭を通って……」
「まかせて!」
スキル連発しなくっちゃ。しばらく、息を止めないと。
わたしのスキルは目を閉じるだけで使えるけど、遠い場所を視ようとしたり、連続して視ようとしたりすると、息を止めるくらい集中しないとむずかしい。
そっと目を閉じる。口も閉じる。
集中。ざわざわする教室の声が遠くなる。宙に浮かんでいるような、変な感覚がしてくる。
準備オーケー。
まずは、理科室!
たしか、一番後ろの席に座ってたよね――。
頭の中に、最初はぼんやりと、だんだんはっきり理科室の映像が浮かんでくる。
リアルタイムの――今の、理科室の映像だ。
次の授業では使わないのか、生徒の姿はなく、理科の先生しかいない。
あ、先生がテストの丸つけしてる。点数が気になる~。
でも、それより桜子の手帳をさがさなきゃ!
桜子が座っていたテーブルの上は――片づけられていて何もない。
引き出しの中――こちらも、空っぽだ。
床のすみずみまで視てみるけれど、落ちているのは小さな紙くずだけ。先生の机にも、ない。
たぶん、他のところで落としたんだ。
「桜子、理科室の次にあやしいのはどこ?」
目を閉じたまま質問すると、桜子がすぐに答えた。
「次? 理科室の次は、調理実習室だけど」
そうそう、調理実習室。特別棟の一階!
こめかみを押して集中すると、まぶたの裏に映る映像が切りかわる。
昼休みでだれもいない調理実習室。
調理台の引き出しの中、なし。調理台の下、なし。
先生の調理台の上には――次の調理実習「ゼリー」のお知らせプリントだけ!?
「う~ん、ここでもないの!?」
じゃあ、ラストは中庭。一階の渡り廊下のすぐ横!
急げ急げ〜!
まぶたの裏に中庭が視えた瞬間、目を閉じているのに思わずまぶしく感じる。
お昼の日差しのなか、中庭を、さっと視まわす。
調理実習室から戻るときに通るなら、ここで曲がって……。
「あっ!」
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ベンチのそばの芝生の上に、きれいな水色の手帳が視える。
ドット柄の、桜子の手帳だ!
「あった〜!」
「えっ、まひるちゃん、どうしたの?」
「え? ああ、ええっと、なんでもない、なんでもない」
さすがに、中庭に手帳があるよ、なんて突然言ったら変だもんね。
「桜子、わたし、朝陽にわたすものを思いだしたの。ちょっと行ってくるね」
「えっ。でも、まひるちゃん、もうすぐ先生が来ちゃうよ!?」
そうだった。
パチっと目を閉じて、こんどは職員室を視る。国語の白石(しらいし)先生は……職員会議が長びいてる。
「だいじょうぶ。たぶん、間に合うから!」
わたしは、さっと廊下に出る。目指すのは、もちろん中庭。
階段を下りて、スキルで視た中庭のベンチへ走った。
「あった、手帳!」
手帳をすばやく拾って、ついていた土をハンカチで落とす。
ふ〜、これで解決! このスキルって、さがしものでは特に便利なんだよね。
ああ、中に入ってる桜子の好きな人の写真が見たい! スキルでこっそり視られるけど……。
ううん、絶対しない。
人のヒミツは、勝手に視ない――それがわたしのルール。
桜子にないしょで視たら、気持ちよくおしゃべりできなくなるから。
「さてとっ。あとはゆっくり教室に帰ろうかな。先生はまだ職員室のはず――ああっ!」
スキルで職員室を視て、ぎょっとする。
いつの間にか、会議が終わってる。先生が職員室を出るところだ!
このままじゃ、教室に着くのが先生より遅くなる。
怒られて、その手帳はなんだって言われたら!?
「急いで帰らなきゃ。あー、でも走ってきたから、もう疲れた〜!」
そう言いながらも、重い足を引きずって教室へ走りだす。
はあ、はあっ……息、きつーい! わたし、運動はきょうだいで一番ダメなんだよね……。
疲れきって、思わず目を閉じる。
先生は、今――もう二階!? うわあ、全速力〜!
ひいひい言いながら、階段を上る。
先生も、別の階段を上ってる。もうすぐ教室のある三階だ。
間に合わない!?
「ううん、あきらめない~!」
三階まで上りきり、あわてて教室にかけこむ。席についた瞬間、先生が教室のドアを開けた。
「みなさん、すみません。職員会議で遅くなりました。今から授業をはじめますよ」
「はあ~~~~……」
ギリギリセーフ。
へなへなと机にうつぶせになると、桜子が不安そうに振りかえった。
「まひるちゃん、だいじょうぶ? すごく苦しそうだよ」
「ぜえ、ぜえっ……ぜんぜんっ! そうそう、これ、桜子の手帳だよね?」
わたしが手帳をとりだすと、桜子が目を見ひらいた。
「これ、わたしの! まひるちゃん、すごい。どこで見つけたの?」
「朝陽の教室に行く途中、中庭でね。えへへ。なんとなく、そこにある気がしたの」
「いつもの〈まひるちゃんのカン〉? まひるちゃんは、すごくカンがいいもんね」
「大川(おおかわ)さん、神木(かみき)さん、授業はじめますよ。教科書を開いて」
「はーい」
あわててページを開く。先生がホワイトボードを向いたところで、桜子がこっそりとささやいた。
「まひるちゃん、本当にありがとう。あとで、何かお礼させて!」
「そんな、気にしなくていいよ」
わたしは桜子の顔に、大きくピースサインした。
あ、そうだ。いいアイディアを思いついた!
「じゃあ、今度ある家庭科の調理実習で、作ったスイーツを交換しよう。きっと、わたしの大好物のゼリーを作ると思うんだ。これも、わたしのカンね!」