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ものがたり

先行ためし読み『超一流インストール』第3回 天才になっちゃった!?


つばさ文庫小説賞《大賞》受賞・吹井乃菜さんの新シリーズが読める! 
超一流プロの頭脳が手に入る極秘(ごくひ)アプリで、芽衣と大地が大事件を解決する!
誘拐事件に巻きこまれて、危機からの大脱出! ドキドキの物語が始まる!

(全5回・毎週火曜更新予定♪)



夏沢芽衣(なつざわ めい) 小6
得意なものも才能もないけど、勇気は――ある!

 



速水大地(はやみ だいち) 小6
クールに見えて、やさしい!?
運動神経がバツグン!



『プロ✕プロ』
超一流プロの頭脳と技が手に入る極秘アプリ!
ただし、3時間だけ!?

 

吹井乃菜さんの新シリーズをどこよりも早くヨメルバで大公開! 
超一流インストール プロの力で大事件解決!?は2024年1月11日発売予定です! お楽しみに♪

 

第3回 天才になっちゃった!?

 つぎの日の朝。
 目が覚めると、ママが言ったとおり、あたしはすっかり元の自分に戻っていた。
 部屋を片づけたくなったりもしないし、朝食を作れるような気もしない。
 パパが用意してくれたトーストと目玉焼きをいつも通りに食べて、学校に行く支度をする。
 研究室の前を通りかかると、ドアが少し開いていた。
 中にはだれもいない。
 ママは夜型人間だから、寝室でまだぐうぐう寝てるんだ。
 あたしは、研究室に入った。
 机の上には、『プロ×プロ』が置かれている。最初に見たときと同じ、時計の画面だ。
 使い方はよくわからないけど、腕時計として見ても、やっぱりおしゃれでかっこいい。
 いいなあ、これ。腕時計持つのって、ちょっと大人っぽいよね。
 時計の針は、今の時刻を表示している。
【8時05分】
(あ、ヤバい!)
 ゆっくりしてたら、遅刻しちゃう!
 あたしは『プロ×プロ』をとっさにポケットに入れて、あわてて家を飛びだした。

      *      *      *

「芽衣(めい)!」
 教室に入ると、友だちと話していた大地(だいち)が、あたしを見つけてかけよってきた。
「昨日、すごかったよな。あのあと、どうなった? 家事の達人になった気分って、まだ残ってるのか?」
 大地はあれから道場に行くためにすぐに帰ったから、気になっていたらしい。
「うーん、もうきれいさっぱり忘れちゃった。ママが言ったとおり、あれって3時間くらいしか効果ないみたい。しかも、あのあとあたし、すごく眠くなってすぐ寝ちゃったんだよね」
 昨日は晩ごはんも食べないうちに寝てしまって、結局、朝まで目が覚めなかったんだ。
「え? じゃあ、宿題は?」
「――あっ!」
 しまった、すっかり忘れてた!
「まさか、やってないとか?」
「うん……」
「うん、って。テストもあるのに、だいじょうぶなのか?」
 だいじょうぶなわけない!
 うちのクラス担任の青山先生、基本的にはやさしいけど、テストに関しては手加減知らずだ。点数が悪かった生徒は、先生お手製の補習プリントを大量にやらされることになる。
 あれを出されると、すくなくとも三日くらい、遊ぶヒマもなくなってしまう。
「どうしよう、助けて大地!」
 あたしはバタバタと教科書を開いた。
「ど、どの問題が出そうかだけでも、教えて!」
「いや、いまさらそんなこと言われても――もう遅い」
 大地が言ったのと同時に。
  キーンコーン、カーンコーン
「はーい、席に着いてくださーい」
 チャイムが鳴って、青山先生が教室に入ってきた。
「仕方ない、実力でがんばれ!」
 大地はそう言って去っていく。
 あたしは頭を抱えて、机につっぷした。
 その実力があれば、最初から困ってないんだよ!

 算数の授業がはじまった。
 テストは、授業の最後にやることになっている。
 悪あがきで、教科書を目で追ってみるけど、さっぱり頭に入ってこなかった。
 宿題さえ手をつけてないあたしは、どの問題もちんぷんかんぷんだ。
(ああもう、なんで寝ちゃったんだろう……)
 いちおう、宿題もテスト勉強も、晩ごはんのあとでやるつもりだったのに。
 百点満点を目指してるわけじゃないけど、あの地獄の追加プリントだけは、さけたかった。
(もしかして、これのせいじゃない?)
 あたしは、そっとポケットの中から『プロ×プロ』を取りだして見た。
 そうだよ。メイドの仕事をあんなにいっぱいしたから、疲れちゃったんだ、きっと。
 ママがじまんするだけあって、効果はたしかにすごかったけど。
 だって、このあたしが、あんなに散らかってた部屋を一人でピカピカにして、お茶の用意までして――。
 しかも、手が勝手に動いただけじゃなく、頭の中には、たくさんの知識があった。
 あのときは、自分がすっごく賢くなったような気がしたもんね。
(ま、今は元通りだけどさ……)
 残念ながら魔法はとけて、あたしは、テストを前にして途方にくれるしかない、ただの無力な小学生だ。
 あーあ……。
 ため息をつきながら、こっそり『プロ×プロ』をいじっていると、ふと、画面の横についていてるボタンに指がふれた。
(昨日は、最初にこれを押したんだっけ……)
 思い出しながら、そっとボタンを押してみた。
 時計の表示が消えて、黒い画面に切りかわって――
『ようこそ』
 うわわわわわわわっ!! いきなり声が出た!!
「ごほっ! ごほごほ、ごほっ!」
 せきこんだフリをして、あわててその声をかきけした。
「? 夏沢さん? だいじょうぶですか?」
 青山先生がこっちをふりむいた。
 ななめ前の席にすわっている大地も、不思議そうな表情でこっちを見たけど、あたしはサッと手を机の下に入れて、『プロ×プロ』をかくした。
「す、すみません、だいじょうぶですっ!」
「そうですか? もし気分が悪かったら、言ってくださいね」
「はい! 全然元気です、お気づかいなく~~~。あっ、でも、ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?」
「わかりました。どうぞ行ってきてください」
 あたしは『プロ×プロ』をポケットにつっこむと、立ちあがって教室を出た。
 だれもいないろうかを足早に歩き、トイレの個室に入ってカギをかける。
 はーー、危なかった。
 だれにもバレなかった、よね……?
 あたしは、ふたたび『プロ×プロ』をポケットから引っぱりだした。
 指先で画面にふれてみると、文章が現れ、昨日と同じ女の人の声がした。
『おはようございます。メイさん』
 一瞬ぎくっとしたけど、トイレはシーンとしていて、だれもいない。
 指でさわったとたんに、あたしの名前を呼びかけてきた。ってことは、指紋で認証(にんしょう)されてるのかもしれない。
 きっと、昨日入力したあたしの情報が、ちゃんと登録されているんだ。
 やっぱり、すごいな。高性能ってママが言うだけのことはある。
(とにかく、音を消しとかなきゃ)
 なんかのひょうしに、勝手にしゃべりだされたりしたら、大変だ。
 画面の横のボタンをつまんで回してみると、スピーカーのマークと目盛りが表示され、適当に回しているうちに、その目盛りがゼロになった。
 たぶん、これで音は消せたはず。
 さらに続けてあちこちさわっていると、【プロモード選択(せんたく)】っていう画面が出てきた。
 なるほどなるほど。
 昨日はママが勝手にメイドを選んじゃったけど、ここからいろんな職業を選べるんだね。
 ずらりと並んでいる職業名をスクロールしていく。
 パティシエ、モデル、アナウンサー……。
(へえ、すてき!!)
 あこがれるような仕事が、たくさんある。
 なんにでもなれるなら、なにがいいかな?
 見ているうちに、ふと、ひとつの職業に、目が留まった。
 ――『数学者』
(数学……?)
 ドキッとする。
 数学。つまり、算数だ。
 それを見たとたん、むくむくと、ある考えが浮かんできた。
 もしかして、これって?
 一度思いついてしまうと、その考えを振りはらうことはできなかった。
(ちょっとだけ……ためしてみるだけ――)
 あたしは、『プロ×プロ』のベルトを、そっと左手首にまきつけた。
 誘われるように人差し指で【決定】のボタンをタップすると、画面に文字が現れた。
『インストールを開始します』
 昨日と同じ、もやもやした不思議な煙のような模様(もよう)が画面にわきあがり、あたしはそれにじっと目をこらした。

 トイレから教室に戻ると、ちょうど、先生がテスト用紙を配ろうとしているところだった。
「さあ、今日はちょっと難しいチャレンジ問題もありますよ! がんばってトライしてみましょう!」
 え~~~!! って悲鳴が教室中から起きる。
 青山先生が張りきれば張りきるほど、テストの難易度(なんいど)が上がるってこと、うちのクラスではみんな知ってる。
 しかも、算数は先生が一番好きな教科らしく、やたら力が入っているテストが多い。
 あたしは席について、配られたテストの問題を見た。
 図形の面積を求める問題や、分数の計算問題。どれもややこしそうな問題ばかり。
 いつもなら絶望しているところだけど――。
(え、なにこれ。かんたんすぎる!)
 どの問題も、「3+2」の足し算くらいのレベルに感じたんだ。
 考えなくても、答えがわかる。
 サラサラとえんぴつを走らせ、一度も消しゴムを使うことなく、あっという間に全ての問題を解きおわってしまった。
(楽勝じゃん!)
 っていうか、かんたんすぎて、時間が余っちゃった。
 教室のみんなはまだ、だれも解き終わっていない。
 斜め前にすわっている大地も、難しい顔をして考えこんでいる。
 算数のテストで、こんなに余裕があるなんて
信じられない。
 ……ヤバいかも。
 この『プロ×プロ』、思ってた以上の効果が
ある。
 あたしは、ひまつぶしに、テスト用紙の裏に
落書きをしながら、時間が過ぎるのを待った。
 初めて味わう、いい気分。                       
 これ、無敵なんじゃない!?



 

      *     *     *

 

 4時間目は、家庭科だった。
 今日は、調理実習だ。
 不器用だから苦手なんだよねえ、料理って。
 料理上手なパパに似たら良かったんだけど。
(あ、そうだ! いいこと思いついた!)
 あたしには、これがあるじゃなーい!
 家庭科室に移動する前、あたしは一人でトイレに行き、『プロ×プロ』を起動させた。
 さっきと同じ手順で【プロモード選択】画面から、料理関係っぽい職業名を探していく。
 よし、使うのはこれ!
 ――『シェフ』
(これでOK――っと!)
 家庭科室について、エプロンをつけていると、仲良しの花音ちゃんがあたしの顔をのぞきこんできた。
「どうしたの? 芽衣ちゃん、さっきからニヤニヤして」
「ふっふっふ。クッキング芽衣ちゃんと呼んで! 花音ちゃん、あたしと同じ班になってラッキーよ! 今日は最高の料理をごちそうしてあげるから、楽しみにしててね!」
「え、芽衣ちゃんが……?」
 やだなあ、そんな不安そうな顔しないで。
 いくら前回の調理実習で、カレーの鍋をこがして、あやうく火事を起こしかけたからって。
 あたしは今、超一流のシェフ! 今日のあたしはひと味違うよ!
「では、調理にとりかかる前に、みなさん前に集まってくださーい」
 家庭科の先生が言った。
 割烹着(かっぽうぎ)が似合うベテラン先生で、いつもピシッとしてるから、家庭科の授業もちょっと気が抜けないんだよね。
「今日は、お魚のバターソテーと、サラダを作ります。まず、お魚は、三枚に下ろして使います。スーパーでは切り身になって売られてるから、下ろすのを見るのは初めての人も多いかもしれませんね。これは難しいから、先生がやります。みなさんは、よく見学していてください」
 まな板の上に置かれた、魚を見たとたん。
 ――あたしの中で、何かのスイッチが入った。
「いいねぇいいねぇ! 最高に新鮮なアジじゃねえか!」
 あたしの口から、威勢のいい言葉が飛びだした。
「・・…芽衣ちゃん?」「どうしたの?」
 みんながザワついて、あたしを見る。
「ちょいとゴメンよっ!」
 集まってきた視線も気にせず、あたしは先生のそばに置いてあった一匹のアジを手に取ると、その身にスッと包丁を入れた。
 内臓をきれいにサッと取りだし、背骨をはずすと、あっという間にアジの三枚下ろしのできあがり!
 おお―――、とみんなから歓声があがった。
「み、見事ですね、夏沢さん。どこでそんな包丁さばきを……」
 いつもはきびしい先生も、びっくりして目を丸くしている。
「へへっ、まだまだ!」
 あたしは自分の班の調理台に戻ると、切り身にしたアジをさらに小さく切る。
「芽衣ちゃん、なにやってるの?」
 花音ちゃんたちがあわてている。だけど、あたしの手は止まらなかった。
「まあまあ、任せてくんなって!」
「っていうか、なんでそんな変なしゃべり方なの?」
 たしかに、江戸っ子の職人みたいなしゃべり方になっちゃってる。これ、昨日ママが言ってた、余計な情報が入りすぎちゃってるっていうバグかも? 自覚はあるけどやめられない。 
「腕が鳴るぜぃ!」
 あたしは、調理台に並んだ材料を見まわした。炊飯(すいはん)ジャーからごはんをボウルによそうと、ササッとお酢と砂糖をまぜて、そこに入れた。
 そして、まもなく。
「ヘイ、いっちょあがり!」
 できあがった料理を前に、あたしは、得意満面。
 アジのにぎり寿司、厚焼き玉子のお寿司、キュウリの入ったかっぱ巻き。
 シャリはぴかぴかに輝いて、形もほれぼれするくらい美しい。
「ねえ芽衣ちゃん…・・、課題は魚のバターソテーとサラダなんだよ……?」
「へ?」
 そういえば、そうだっけ。
「どうしよう。よくできてるけど、課題とは違うよね」「減点されちゃうんじゃない?」「先生に聞いてくる!」
 班の子たちが困惑して、みんなでバタバタと先生を呼びに行った。
 あれれ? おかしいな、すご腕シェフになって、みんなに絶品料理をふるまうはずだったのに。
 一人取り残されて首をかしげていると、となりの班にいた大地が近よってきて、小声で言った。
「芽衣、さっきからおかしいぞ。なにやってるんだよ」
「おっ、いいところに来たね、ダンナ。どうだい、ひとつ味見してみるかい?」
 あたしは大地に寿司のお皿を差しだした。
「ダンナって。なに言って――……。あっ!」
 大地が顔色を変えて、あたしが手首につけていた『プロ×プロ』を指さした。
「それ、昨日の! まさか、使ったのか!?」
「へへ、あったりめぇよ。こんないい道具、使わない手はねぇってんだ」
「いや、だめだろ!」
「まあまあ、そう固いこと言いなさんなって。ほらよっ」
 あたしは、大地の口の中に、できたてのアジのにぎり寿司を、ぽいっと放りこんだ。
「…………」
 もぐもぐもぐ。ごくん。
「う、うまい……‼」
 寿司を飲みこんだ大地は、ぼうぜんとして、ふるえていた。
「なんだこれ……シャリがほろりと口の中でほどけて、このアジとの相性も最高で――」
「じゃあ、これは?」
 ぽいっ、と今度は玉子の寿司を口に放りこむ。
「おおおお……こ、これは……すばらしい焼き加減……ほんのりと甘い玉子に、出汁(だし)の香りがきいて……」 
「ありがとよ! かっぱ巻きも食べるかい?」
「うん、ぜひ――――――って、いやいやいや! そうじゃないっっ!」
 大地は、我に返って、ぶんぶんと首をふった。
「おかしいだろ! なんでこんなことになってるんだよ!」
「こんなこと?」
 あたしは、『プロ×プロ』の画面を見て、ぎょっとした。
「あっ!」
  【使用中モード 寿司職人(すししょくにん)】
 うわあ、失敗したーーーーーっ!
 料理関係の職業が並んでいたから、まちがって、「シェフ」のつぎにあった「寿司職人」を押しちゃってたんだ!
「夏沢さん。これはいったい?」
 班のみんなに連れられて、先生がやってきた。
 バターソテーやサラダの材料が、すべて寿司になってしまっている。
 先生はこわい顔であたしを見た。
「どういうことです? ふざけているのですか?」
「いやあ、こんな新鮮な魚を見たら、寿司にせずにはいられなくて――あははは、どうです先生、おひとついかがですか?」
 笑ってお皿を差しだした、そのときだった。
「……あれ?」
 なんだか急に、頭がボーッとしてきた。
 目の前で怒っている先生の顔が、ゆらゆらしている。
「ね、ねむい……」
 突然、猛烈(もうれつ)な眠気におそわれた。
「夏沢さん!?」
「うわ、どうした、芽衣!」
 先生と大地が叫んでいる声が聞こえたけれど、返事はできなかった。
 パチン、と電気のスイッチがオフになるように、まぶたが閉じた。
 そしてそのまま、倒れるように眠りこんでしまったのだった。

次回、第4回「取り扱いは要注意!」は1月2日公開予定です♪

れんさいを読んだ、みんなの感想を聞かせてね。感想はコチラ

【書誌情報】

つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作! 超一流プロになって大事件を解決!
芽衣はふつうの小6で、大地はスポーツも得意な人気者! 二人は誘拐事件に巻きこまれてしまうが、超一流プロの頭脳が手に入る極秘アプリ『プロプロ』で大事件を解決する! つばさ小説賞《大賞》受賞作家の新作!


作:吹井 乃菜  絵:逢坂 レイ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322715

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