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絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。
ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。
「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」
なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!
2 中学デビュー、早くも失敗!?
「みくにちゃん! 授業終わったし、いっしょに部活の見学行こう!」
クラスメイトたちから声をかけられて、わたしはハッと顔を上げた。
「……うん! 行こう~!」
急いで笑顔を作って、みんなのところに走る。
入学してから、一週間たった。
たくさん友だちもできて、毎日楽しく学校に通っている──つもり、なんだけど……。
「今日は吹奏楽部にしようか~」
「でもここの吹部、めっちゃ練習キツイらしいよ」
「え~、楽器やってみたいけど、悩むなあ」
みんながとっても楽しそうに話しているうしろを、ぼんやりとついていく。
──わたしは中学デビューのために、あることをヒミツにして、できるだけおしとやかに過ごすことに決めていた。
でもそれがなんだか、思った以上に、疲れる感じ……。
「ね、みくにちゃん。サク中って部活たくさんあるから、迷っちゃうよね」
入学式の日に配られたパンフレットを見ながら、ひとりの子がわたしのほうにふり向いた。
「ほら、見て。じゅ──」
「じゅ!?」
ちょ、ちょっと待って!
「わ、わわわ、わたし、そういうのは……!」
「ジュエリークラブ! アクセサリー作ったり、宝石の研究したりするんだって! ……あんまり好きじゃない?」
「じゅ……ジュエリー……」
そんな部活まであるの? ドキドキして損したよ……!
「みくにちゃん、大丈夫? ちょっと疲れてる?」
「ううん! 全然、元気だよ!」
みんな、優しくていい子。
でも……だからこそ。やっぱり、ヒミツは守らなきゃ。
わたしはここで、キラキラの中学生活を送るんだから……!
「おい、ふざけんなっ!!」
突然、荒々しい声がきこえて、みんなピタッと足を止めた。
「首席だかなんだか知らねーが、調子にのってんじゃねーよ!」
廊下の向こうに、なんだか人だかりができてる。
「あれ……西方(にしかた)くんじゃない? ほら、入試一位だった人」
いっしょにいた友だちのひとりが、指さす先。
体の大きな先輩たちに囲まれても、ひょうひょうとした感じで一歩も引かず、ひとりの男の子が立っている。
そしてそのすました横顔を、わたしはよく知っている。
(あれって……伊織(いおり)じゃん!)
彼の名前は、西方伊織──同じ小学校からいっしょにサク中に進学してきた、数少ない生徒のひとり。わたしにとっては幼なじみでもあるから、すごく長いつきあいになる。家が近所で、保育園のころから兄妹みたいに育ってきたんだ。
実は、出願直前まで、伊織は『サク中を受ける』なんてひとこともいってなかったんだけど──受験勉強はほとんどせずに、サラッと首席で合格したんだよね。
「西方くんって、クールな感じでカッコいいよね」
「生徒会長さまもカッコいいけど、どうせ近づけないし、西方くんのこと狙ってる子多そうだよね~」
「でも、先輩にからまれちゃってかわいそう……あの人たち、力が強そうだし、怖そう……」
友だちがみんな、心配そうになりゆきを見守っている。
(伊織って、もしかして大人気!?)
「ジャマだから」なんていって、中学からメガネを取ったせいかな?
わたしからしたら、ただただ口うるさくて頭が固い、ひとこと多い系男子なんだけど──。
「一年なんだろ、先輩に道をゆずれ!」
「俺は廊下の端を歩いてましたよ。あんたたちが広がって歩いてたんでしょう」
伊織は淡々とした声でいい返してる。
ふつうの人だったら引くところを、伊織は引かない。自分が一番正しいと思ってるから。
「おい……柔道地区大会優勝のオレたちに向かって、よくそんなこといえるな?」
「それを自慢するようじゃ、地区大会止まりでしょうね」
ああ! やっぱり余計なこといってる!
「こいつ……!」
なんだか、どんどん雰囲気が悪くなってきてる。
このままじゃ、よくないことになりそう……!
──なんて思ったそのとき、一番がっしりした体格の先輩が、伊織にズイッとつめよった。
「おい! オレたちに歯向かうとどうなるか、教えてやろうか!」
グッと乱暴に胸ぐらをつかまれて、伊織がよろめく。
(あっ!)
それを見て、無意識のうちに体が動いていた。
「えっ……みくにちゃん!?」
うしろから友だちの驚いた声がするけど、ふり返らない。
人ごみをすり抜けて、ふたりのあいだに割って入る。
「みくに? なんでここに……」
胸ぐらをつかまれたままの伊織が、眉をひそめた。
「なんだ、てめえは」
先輩がジロリと、こちらを向く。
「素人に手を出すなんて! 武道の心得がある人とは思えません! やめてください!」
わたしの二倍くらいはありそうな太い手首をぎゅっと押さえると、先輩の眼光がギラリとするどさを増した。
「なんだと? 説教するつもりなら、まずはオレに勝ってみろ」
「わ、わたしは別に、そんなつもりは……」
「だったら強がりででしゃばってくんじゃねーよ! なめんな!」
今度はわたしの両肩に、ガシッとつかみかかってきた。
「あ、やめといたほうがいいですよ。俺の幼なじみは──」
「うるせえ!」
伊織が止めようとするのをふり切るように、先輩の腕に力がこもる。
周りの人たちから、小さな悲鳴が上がるのがきこえる。
でも──。
(スキだらけだよ!)
制服を着くずして、ボタンを開けてくれていたのがありがたい。
えり元をグッとつかみ返して、そのまま身をひるがえす。
力まかせな相手の動きに逆らわなければ、その体重はフッと軽くなって──。
「どりゃあああ!!」
決まった! わたしの一番の得意技、背負い投げ!
「『柔よく剛を制す』! なめてるのはあなたのほうだよ!」
体が小さくたって、相手の力を利用すれば、こうやって投げとばせる!
力だけがすべてじゃない。
これぞ、柔道の極意! わたしの信念!
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「……なん、だと……」
床にひっくり返った先輩は、なんとか受け身を取ったみたいだけど、ぼう然としている(一応手加減はしたから、ケガはさせてないはず)。
「まったく……」
わたしたちの横で、伊織は小さくため息をついた。
「だから忠告しようとしたのに。みくには道場で大人に勝つこともあるんだぞ」
「お……大人に……?」
倒れたまま、先輩は力なくうめく。
「何あの子?」「強すぎない?」「投げとばしてたよ」「すごい」
ざわざわと、周りの人たちの声が耳に入ってきたところで──。
わたしはようやく、我に返った。
サーッと、血の気が引いていくのを感じる。
(や、や、や……やってしまった~~~~~~っ!!)
そう。
これこそが、中学デビューのために隠していた『ヒミツ』。
うちは有名な柔道の道場で、お母さんはオリンピックで銀メダルを取ったことがある柔道家。
わたしも四歳のころから柔道づけで、お母さんからきたえぬかれてきた。年齢のせいで黒帯は取れないけど、その辺の大人より強い自信がある。
でも、『お花なんか似合わない』って笑われたとき、わたしは考えた。
いつも傷だらけだし、練習ばかりでオシャレも苦手だし。
それに何より、『柔道をやってるから強そう』って思われるのが、よくないんじゃないかって。
だから、絶対に絶対に絶対に、中学では隠しとおすつもりだったのに!
──ざわめきが広がっていく中。
倒れていた先輩がむくりと体を起こし、わたしをにらみつけてきた。
「なんだよコイツ……ゴリラかよ」
「えっ」
『ゴリラ』という単語が、頭の中で何度もひびく。
わたしが目指している『お花の似合うステキな人』の対極──それがゴリラだといっても、過言ではない……。
「くそ、覚えてろよ!」
お手本のような捨てゼリフを吐いて、柔道部の人たちが立ち去っていく。
ざわめく人だかりのまん中に、ポツンとひとりでとり残される。
「あの……みくにちゃん、大丈夫? ひどい先輩だったね……」
遠慮がちに、友だちのひとりが声をかけてくれた、けど──。
「えっと、私たち、先に行くね……」
「みくにちゃん、柔道部入ったほうがいいんじゃない……?」
そういってみんな、そそくさと離れていっちゃった。
「あ──」
待って、といいかけて、口をつぐむ。
「……ビックリしたね」
「うん、イメージと違った……」
ヒソヒソいっているのが、きこえちゃったから。
(……だから、ヒミツにしてたのに)
昔のことを思い出して、胸がズキリと痛んだ。
──実はわたし、小学校に入学してすぐ、人にケガをさせてしまったんだ。
あのときも、おとなしい伊織が、イジワルな子たちに囲まれていた。
何も気にしていない様子の伊織に、イタズラがどんどんひどくなっていって──ついに階段からつきおとされそうになったのを見て、わたしは急いで助けに入った。
でもそのとき、少しだけ、力加減をまちがえたんだ。
相手は足首をくじいてしまって、いろんな人に「みくにちゃんにやられた!」っていい回ったから、それはもう、大変なさわぎになった。
お父さんやお母さんも、わたしといっしょにたくさんの人に謝ってくれた。あのときから、わたしは絶対に素人には手を出さないって決めてるし、誰にもケガはさせてない。
でもその事件以来、わたしはすっかり『力の強い暴れん坊』ってイメージになっちゃって。
『お花が似合わない』っていわれちゃうのも、お花屋さんになる夢を笑われちゃうのも、当たり前で。
だからこそ中学デビューで、自分を変えようと思っていた。
いまだって、相手が柔道部の人じゃなかったら、絶対に手は出さなかった。
だけど──。
(やっぱり、やり返すべきじゃなかった……)
立ちつくしているわたしの肩を、誰かがうしろからとんとんと叩いてきた。
「みくに。大丈夫か」
ふり返ると、騒ぎの張本人──伊織が、ちょっと気まずそうな顔で立っている。
「……伊織こそ、大丈夫だった?」
「俺は別に……それにしても相変わらず、きれいな背負い投げだったな」
感心したようにうなずいているけど、いまはほめられたって嬉しくない。
「どうせ、わたしはオランウータンだから」
「ゴリラだろ」
「あっ、伊織までわたしのことゴリラっていうの!?」
「いや、みくにがオランウータンとかいう第二の動物を出すから」
伊織は大まじめな顔をしている。
「それに、ゴリラはすごいぞ。力が強いのに優しいし、賢いし。……俺は好きだけど」
ど……どうしてここでゴリラの肩を持つの!?
ひどい! ひどすぎるよ!
自分ばっかり中学デビュー成功して、モテモテになって!
「ううう……もう、知らない! 伊織なんて、助けなければよかった!」
「おい、待てって!」
引きとめようとしてきた伊織の手をふりきって、わたしはその場からかけだした。
<第3回へつづく>
【書誌情報】
絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?
▼気になる2巻も発売中だよ!
部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!
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