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ものがたり

『はなバト!』1巻無料公開! 第3回


 

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!

わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。

ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。

「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」

なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!

 

3 運命の再会!?

 友だちにヒミツがバレちゃった。
 しかも、たぶんなぐさめてくれようとした伊織に、八つ当たりまでしちゃった。

 モヤモヤした気持ちを抱えたまま、広い中庭に出た。
 この中庭は、南棟と北棟のあいだにある。レンガ敷きになっていて、たくさん木や花が植えてあって、ベンチもあって──お昼休みは大人気スポットだけど、放課後は日陰になるせいか、人は全然いない。
 まん中の大きな白い噴水のふちに腰かけて、わたしはしばらくぼーっとしていた。
「……はあ……」
 髪の毛をまとめていた、かんざしをはずす。がんばって伸ばした長い髪の毛が、パラリと顔にかかる。
 わたしの目標とあこがれがつまった、大事なお守り。
(やっぱりわたしに、『お花の似合う子』は無理なのかな……)

 ──このかんざしについている『鏡』を拾ったのは、小学三年生のとき。将来の夢を発表する授業があった日の、放課後のことだった。
 わたしは、『お花屋さんになりたい』っていう夢を笑われて、すごく悲しい気持ちだった。
 まっすぐお家に帰って柔道の練習をするのがイヤだった。自分の短い髪の毛も、傷だらけの体も、何もかもがイヤだった。
 だからしょんぼりしながら、家から反対の方向に歩いていったんだ。
 気づけば、うす暗い、木に囲まれた細い道に入っていた。
(ここ……どこだろう?)
 不安になりながらしばらく歩いていると、視界がぱっと開けた。
 そこでわたしは、小さな池のほとりにある、こわれかけの『ほこら』を見つけたの。
 木でできた扉もささくれていて、はずれかけていて。
 誰がどう見たってボロボロで、りっぱな神社とは全然違ったんだけど──。
 なんだかここにいる神さまなら、わたしの言葉をちゃんときいてくれる気がしたんだ。
 だからわたしは、いつもだったら照れちゃってできないお願いを、いってみることにした。
「神さま! わたし、白沢みくにっていいます!」
 ぱん、ぱん! と手を打って、おじぎ。
「お花が好きっていっても、笑われなくなりますように! いつか誰かに、『お花が似合うよ』っていってもらえますように!」
 そして帰る前に、もう一度おじぎをしたとき。
 足元で、何かがぴかっと光ったの!
 拾ってみると、光ったように見えたのは、小さな丸い鏡だった。
 わたしにはそれが、神さまからの贈りものに思えて……すぐにランドセルに入れて、大事に持ってかえったんだ。
 そしてお父さんに頼んで、かんざしにしてもらった。
 髪を伸ばせば、少しでも、『お花の似合う子』に近づける気がしたから──。

(この鏡、拾ったときはピカピカだったのに)
 最近、なんだかすごくくもってる。
 汚れちゃったのかと思ってふいてみたこともあるけど、全然きれいにならないんだ。
(そうだ、水でぬらしてふいてみようかな?)
 わたしはかんざしで髪をまとめなおして、立ちあがった。
 水道って、どこにあったっけ……と考えながら、校舎に入って廊下を歩く。
 突き当りを、曲がろうとして──。
「きゃ~~~~っ!」
「えっ?」
 いま、遠くのほうから、女の子の悲鳴がきこえたような?
(……なんだろう)
 思わず立ち止まっていると、今度はすぐ近くで「うわっ!?」と男の子の声がした。
 続けて、ばっしゃーん! と水をぶちまけたような音。
 ふり返ると──細身な男の子が、大きな花瓶を抱えて、水たまりの中でひっくり返っている!
「ええええ!? 何があったの!? 大丈夫!?」
 あわてて手をさしのべると、その男の子はよろよろと体を起こした。
「うん、大丈夫……人がいると思わなかったから、転んじゃっただけで……」
「あっ、わたしがこんなジャマなところに立ってたからだよね!?」
 廊下の角なんて、見とおしの悪いところに立ち止まってたから。
 遠くで悲鳴がきこえた気がするのは引っかかるけど、それより、このびしょぬれの男の子をなんとかしてあげなくちゃ。
「ケガはない? 保健室、いっしょに行こうか?」
「……ぼくは平気だけど……きみこそ、水はかかって──」
 そういいながら立ちあがった男の子は、ハッとした顔になった。
「あああっ! きみ、入学式のときの……!」
「ん? ……あああっ!」
 涼しげできれいな、青みがかった瞳。
 ささやくような小声なのに、不思議ときき取りやすい、耳に優しい声。
 この人、入学式の日にお花の前で出会った、あの男の子だ!
「ずっと探してたんだよ、きみのこと……!」
 色白なほっぺを赤くして、男の子は身を乗りだしてきた。
 前髪からぽたぽたと、水がたれている。
「え?」
「この一週間だけじゃなくて……本当に、ずっと、探してたんだ……」
 そういうと、男の子はふと視線を下げた。
 そこには、大きな水たまりと、散らばったお花。
「いろいろ話さなきゃいけないことがあるんだけど……でも、先にこれを片づけないと……」
「確かに! わたしのせいだし、手伝うよ!」
 急いでしゃがんで、とりあえずお花を集める。
 淡い紫色の小さなお花が、たくさん稲穂みたいについた枝。
 甘い香りがする、このお花は──。
「本当にごめんね。こんなにきれいなライラック……ダメにしちゃったかな」
 すぐそこの掃除用具入れからぞうきんを取ってきた男の子が、わたしの言葉をきいて、長いまつげをしばたたかせた。
「……ライラック、知ってるんだね」
「もちろん! ライラックの花言葉は『初恋』だよね! かわいい見た目と香りにピッタリ! ステキな出会いがあるかもね!」
「………………」
 あっ、『どこがステキな出会いだよ』っていいたそうな顔をしている!
 そういえばこの人は、わたしに再会したせいで、びしょぬれになってるんだった!
「えっと……まあ、そういう説もあるよ、ってことで!」
「……このあいだも、ハーデンベルギアを知っていたし……やっぱり、花が好きなんだね
 なぜかなつかしそうな顔をしながら、男の子がいった。
「えっ、と──」
『うん』って答えればいいはずなのに、声が出てこない。
 また、『似合わないね』っていわれるんじゃないかって、胸の奥がもやもやしてくる。
「──あの、その……幼なじみが、お花屋さんで! 自然と、詳しくなっちゃって!」
 けっきょく、いいわけみたいな言葉が口をついて出てくる。
 別に、ウソはいってない。実際、伊織のお家はお花屋さんをやってる。
 伊織自身もよくお店のお手伝いをしていて、すごくお花に詳しい。花言葉を初めて教えてくれたのも、伊織だったんだよね。
「……そうなんだ」
 男の子はぞうきんで床をふきながら、キョトンとした顔になった。
「うん……」
 ──ウソはいってないけど、なんだか胸が痛い。
 さっき、あの柔道部の先輩に『ゴリラ』なんていわれたせいかも。
 柔道やってることだけじゃなくて、お花が好きってことまで、いいづらくなっちゃった。
 なんだかとっても、気まずい空気──。
「あのさ……」
 少しの沈黙のあと、男の子がきりだしてきた。
「実はぼく、華道部に入ってるんだ」
 突然そんなことをいわれて、わたしの頭の中は?マークでいっぱい。
「か……かどーぶ?」
「華道……つまり、生け花をする部活のことだよ」
「ああ、生け花ね!」
 それなら、もちろん分かる。花瓶や器なんかに、お花や草木をきれいにかざるんだよね。入学式の昇降口にも、かざってあったし。
(そっか。だからこの人は、ライラックを運んでたんだ)
 集めたお花を束ねながら、ひとりで納得していると。
 わきに置いてあったからっぽの花瓶をかかえて、男の子はゆっくりと立ちあがった。
「よかったら……見学に来る?」
 生け花をする部活があるなんて知らなかったし、すごく興味がある。
 入れるものなら入りたい、けど──。
「……わたしが行っても、いいの?」
 わたしみたいな『お花の似合わない子』がいたら、迷惑になりそう。
 不安に思ってきき返すと、男の子は小さくうなずいた。
 




「大丈夫。部室まで案内するよ……あ、そうだ……ぼくの名前は、竜ヶ水司(りゅうがみず・つかさ)
「へ~、竜ヶ水くん? 強そうな名前でいいね!」
「一応……二年生の、副部長だよ」
「へ~、副部長? すごいね!」
 ──って。
「ええええ!? せ、せ、せ、先輩だったの!?」
 入学式の日にいたから、てっきり一年生だと思ってた!
 思いっきり、タメ口でしゃべっちゃってたよ!
「す、すみません、いろいろ、本当に! 数々の無礼をきれいさっぱり許してくださり、ありがとうございます!」
「許すなんていってないんだけどな……」
 その人──竜ヶ水先輩は、あきれ顔をしてから、ほんのかすかに笑みを浮かべた。
「まあ……別にいいよ。行こうか、白沢さん」
 スタスタと歩きだした先輩を、わたしも急いで追いかける。
 歩きながら、ふと思った。
 ──わたし竜ヶ水先輩に、自分の名前、教えたっけ?

第4回へつづく>

 

【書誌情報】

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?


作:しおやま よる  絵:しちみ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322678

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▼気になる2巻も発売中だよ!

部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!


作: しおやま よる 絵: しちみ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322685

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\ヨメルバで読めるつばさ文庫の作品がいっぱい!/



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