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ものがたり

『はなバト!』1巻無料公開! 第4回


 

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!

わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。

ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。

「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」

なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!

 

4 生徒会長さまと華道部!

 サク中は本当に広い。
 敷地の中にはたくさんの建物が建っていて、本校舎の西側には、りっぱな『部室棟』がある。
 校内と同じようにたくさんの部屋が並んでいて、その全部が、部室や物置として使われているみたい。

 竜ヶ水先輩につれられて、部室棟の一階にある『華道部』と書かれた部屋にたどりついた。
 先輩が静かに引き戸を開くと、ふわっとやわらかな風を感じた。
(あ、お花のいい匂い……)
 中は、小さな教室みたいな感じだった。
 まん中に机とイスが四つずつ置いてあって、壁ぎわには古そうな棚が並んでる。窓辺には一輪ざしの花瓶があって、そこにもライラックがさしてあった。
 机をぞうきんでふいていた男子生徒が、クルリとこちらにふり向く。
「司くん、お疲れさまー……って、えええ!? なんでそんなにびしょぬれなの? 着替えがないなら、ジャージとか貸そうか?」
「いえ……別に平気です」
「ホントに? まあ、もうすぐ下校だし……あれ?」
 その人はそこで、竜ヶ水先輩のうしろにいたわたしに気づいたみたいだった。
「もしかして、新入部員をつれてきてくれたの?」
「ああ、えっと……とりあえず、見学がしたいそうで……」
「そうなんだ。ようこそ、華道部へ!」
 その人がパッと笑顔になると、周りの空気がきらめいたように見えた。
(あっ……この人って)
 光が当たると金色にかがやく、ふわっとした髪。
 小さな顔に、カンペキなバランスで配置されたパーツたち。
 身長が高くて、手足はスラリと長い、バツグンのスタイル。
 甘い感じの声に、スキのない物腰。
 もし「アイドルです!」っていわれても、「ですよね~!」としか思わない、絵本の世界から飛びだしてきた王子さまみたいな人。
「生徒会長さまだ……」
 無意識につぶやくと、その人は少しだけ驚いた顔をした。
「あれ、覚えていてくれたんだ」
 入学式でカンペキな挨拶をしていて、誰よりも目立ってたもん。忘れるわけない。
「改めまして──」
 生徒会長さまはそういって、目を細めてほほ笑んだ。
「──生徒会長兼、華道部部長。三年四組の加治木(かじき)ほむらだよ。よろしくね」
「えっと……わたしは、白沢みくにっていいます! よろしくお願いします!」
 差し出された手を、ちょっとドキドキしながらにぎり返す。
(それにしても……まさか生徒会長さまが部長だなんて)
 生徒会長さまは、見た目だけでもまさに『お花の似合う人』って感じ。
 キラキラで、みんなの目をひくステキな人で。
 華道部に興味はあるけど、ますます、『わたしなんかが入ったら迷惑なんじゃないか』って不安が大きくなる。
『お花の似合わない』わたしなんかが入部したら、足を引っぱってしまいそう──。
「あの……生徒会長さま」
「そんな堅苦しい呼びかたしないで、ほむらでいいよ? ボクも、みくにちゃんって呼ばせてもらうから」
「あ、えっと……ほむら先輩。わたし、その……生け花はやったことないんです。それに、全然、お花とか似合うタイプじゃないんですけど……入部してもいいんでしょうか?」
「もちろんだよ」
 ふふ、と生徒会長さま──ほむら先輩がうなずく。
「去年の三年生が抜けて、うちの部はいま、ボクと司くんと、もうひとり入ってくれた一年生の三人だけなんだ。みくにちゃんが入部してくれるなら、すごく嬉しいな」
「そうなんですか。……ん? もうひとりの、一年生?」
 そのとき、ガラリと部室のドアが開いた。
「加治木先輩、このバケツどこに返したら──」
 げっ!
 この、低くて落ち着いた声は……!
「ああ、ウワサをすれば。もうひとりの一年生、西方伊織くんだよ」
 ふり返ると──すました顔の伊織が、バケツを持って立っていた!
「伊織っ!? な、なぜここに!?」
「みくにこそ、なんでここにいるんだ?」
 がく然とするわたしと、眉をひそめる伊織。
 




 そんなわたしたちを交互に見比べて、ほむら先輩は首をかしげた。
「あれ、知り合いだった?」
「はい、幼なじみです」
 伊織の答えに、ほむら先輩は嬉しそうにパチンと手を叩く。
「そうなんだ! じゃあ、いっしょに入ったら楽しいんじゃない? 人が少なくて、ちょっとさびしいと思ってたんだよね」
「部で使う費用は、部員が少ないともらいづらいみたいですしね」
「伊織くんは現実的だなあ」
 そういえば、いま部員は三人──っていってたっけ。
 思ったより、少ない。
「不思議ですね。ほむら先輩がいる部活なんて、人気になりそうなのに」
 去年の秋にほむら先輩が生徒会長になってからというもの、サク中はさらに優等生が増えて、すごく評判がよくなったってきいたことがある。
 超絶イケメンのカリスマ生徒会長──そんな人が部長なら、入部希望者が殺到しそうなのに。
「ああ……えっと……」
 わたしの疑問をきいたほむら先輩は、笑顔のまま、気まずそうに言葉をにごした。
「逆だ、みくに。この人がいるから、華道部には人が集まらない」
 伊織が『当然だろ』って感じで肩をすくめる。
「おまえ、知らないのか? 女子は結託して、『華道部には入らない』って決めてるんだ。もし入部したりしたら、加治木先輩のファンクラブ会員たちからボコボコにされるぞ」
 あっ! そういえば!
 周りの子たちが、『生徒会長には近づけない』って話、してた気もする!
「そ……そんなに人気があるんですか、加治木先輩は……」
 評判を知らなかったのか、竜ヶ水先輩がとまどった顔をしている。
「ボクとしては、部員が増えてくれたほうが嬉しいんだけどね?」
 美しく苦笑いする、ほむら先輩。
 ファンクラブの存在も、ボコボコにされることも、否定しないんだ……。
「心配ならやめとけよ。無理することない」
「うーん……」
 正直、ファンクラブの人たちがそんなに強いとも思えないし、ウワサは気にならない。
 でも、やっぱり、わたしに『お花の部活』なんて──。
「……迷うってことは、入りたいってことじゃないかな……?」
 竜ヶ水先輩が、遠慮がちな声でいった。
「司くん、いいこというね! みくにちゃん、華道部に興味を持ってくれてるってことは、きっと花が好きなんでしょ?」
 笑顔のほむら先輩にきかれて、答えにつまる。
「えっと──」
 柔道を始めてしばらく、わたしは誰にも勝てなかった。
 最初は、『銀メダリストの娘!』って注目されて、テレビの取材とかも受けて……わたしは期待に応えたくて、つらい練習もがんばって耐えていた。
 でも負けるたびに、たくさんの人に『がっかりした』っていわれちゃったんだ。
「──すごく落ち込んでいたとき、伊織からガーベラの花束をもらって」
 伊織はわたしに、ガーベラの花言葉が『希望』、『前進』だって、教えてくれた。
「あざやかでカラフルな花束を見ているだけで、なんだかとっても、勇気がもらえて……『絶対、前に進みつづけてやる!』って、元気が出てきたんです。だから、えっと……それからすごく、お花は好きです」
「へえ、伊織くんが」
 ほむら先輩が少し驚いた顔をして、伊織にふり向いた。
「意外と、優しいところがあるね」
「……意外ってなんですか」
 伊織はそういって、ぷいっと顔をそむけてしまう。
「そもそも俺は花束なんて、あげてません」
 その言葉をきいて、わたしはビックリした。
「えっ、覚えてないの?」
 記憶力は絶対、圧倒的に、伊織のほうがいいはずなのに。
「……俺がそんなことするわけないだろ」
「えー……?」
 伊織が忘れちゃってるなんて、ちょっとショックかも……。
「それにしても、そんなに花が好きなら、入部してみたらいいのに! 生け花、けっこう楽しいよ?」
「でも……わたしが入部したら、華道部の評判が下がったりしないでしょうか?」
「なんでそんなことを気にするの?」
 キョトンとしたほむら先輩に見おろされて、わたしは無意識に目をそらす。
「だって……」
 ──「え~、みくにちゃん、似合わな~い!」
 あのときのみんなの笑い声が、耳の奥にこびりついてる。
 生け花はやってみたいはずなのに。どうしていいか分からなくて、頭がくらくらしてくる。
「みくにちゃん?」
 うつむいていたら、ぽんと優しく、肩に手が乗せられた。
「もしよかったら、仮入部をしてみない? ちょっと試してみて、やっぱり合わないようだったら辞めていいし。サク中は部活に関してもかなりゆるいから、本入部を決めるのも、あせらなくて大丈夫だし」
「仮入部……」
 それくらいなら──華道部のメンバーに、迷惑かけないかな?
 笑われたりしないかな?
 お花の似合わないわたしにも、許されるかな……?
「とりあえずやってみればいいだろ。加治木先輩がこういってくれてるんだし」
 伊織の言葉に、竜ヶ水先輩もこくこくとうなずいている。
(確かに……)
 こんなにすすめてもらって、ウジウジしてたら……カッコ悪い気がする!
「えっと……それじゃあ──」
 ぎゅっと手をにぎりしめる。
「──仮入部、してみます!」
「よかった!」
 ぱちぱちと小さく拍手してくれるほむら先輩を見て、不安だった気持ちがとけていくような気がした。
「あっ! でも、ごめん……今日の活動はもうおしまいなんだ」
 そういえば、竜ヶ水先輩はライラックをさした花瓶を運んでいたし、ほむら先輩も伊織も、お片づけをしている様子だったっけ。
「だからまた今度、遊びにきてね」
「はい!」
 ──竜ヶ水先輩に、ついてきてよかった。
 仮入部をしてみるって決めたら、なんだかだんだん、ワクワクしてきた!
 それに、華道部ってことは、きっといろんな作法とかも教えてもらえるよね。
『お花が似合う子』に、少しずつ近づけたら嬉しいな!

第5回へつづく>

 

【書誌情報】

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?


作:しおやま よる  絵:しちみ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322678

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▼気になる2巻も発売中だよ!

部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!


作: しおやま よる 絵: しちみ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322685

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