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ものがたり

『はなバト!』1巻無料公開! 第5回


 

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!

わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。

ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。

「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」

なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!

 

5 怪しいウワサ!?

 仮入部を決めてから、しばらくたったころ──。
「はあ……」
 放課後、ほとんど人のいなくなった教室で、ため息をつきながらカバンに荷物をしまっていると。
「だいじょーぶ、みくにゃん?」
 クラスで一番仲良くなった女の子──国分(こくぶ)ヒナちゃんが、心配そうに声をかけてくれた。
 ヒナちゃんは、もともと派手な子が多いサク中でも、かなり目立つキラキラな女の子。
 髪の毛はいつも高い位置でツインテールにしていて、メイクばっちり。制服もアレンジして着ていて、どこにいても一目で見つけられるくらい、とにかく目立つ。
「いろいろ大変やね」
 ちなみに、京都出身らしく、いつもガッツリ関西弁(サク中は寮もあるから、いろんなところから生徒が集まってるんだ)。
「何かうちにできることあったら、いつでもいうてな?」
「うん……ありがとう」
 そしてヒナちゃんのいうとおり、わたしはいま、すごく大変なことになってる。
 ──ほむら先輩のファンクラブが、ガチすぎたんだ。
 わたしが『華道部に仮入部した』っていう情報がいつのまにか出回っていて、ヒナちゃん以外の女子は、みーんなわたしのことを無視するようになっちゃった。
「あっ、また来とる」
 ヒナちゃんの視線の先──教室の外の廊下に、女の子たちが何人か集まっている。
 その中心にいる背の高いポニーテールの子からジロリとにらまれて、わたしはあわてて目をそらした。
 ヒナちゃんは腕組みして、あきれたようにため息をついている。
「あの人らも、ほんまあきずによーやるわ」
 あの女の子たちこそが、『加治木ほむらファンクラブ』の会長および役員たち。
 一回も話しかけられたことはないけど、放課後になるといつもああやって、遠くからわたしのことをにらんでくるんだよね。
 ずっと見はられているから、あれからけっきょく、華道部の活動には一回も行ってない。誘われると気まずいし、伊織や先輩たちにも会わないようにしてる。
 ほむら先輩は『本入部を決めるのも、あせらなくて大丈夫』っていってくれてたけど。もう中間テストも終わったっていうのに、部活を決められてないなんて……なんだか不安になっちゃう。
「あーあ……困ったなあ」
 正直、ほむら先輩の人気をなめてた。
 仮入部するだけでこんな状況になるなんて、思わなかった。
 ヒナちゃんがいつも話しかけてくれるから、なんとか学校がいやにならずにすんでるけど。
 でもやっぱり、メンタルはボコボコにへこんでる……。
「落ちこんでるみくにゃんに、おもしろい話したるわ」
 ヒナちゃんは、ニヤリといたずらっ子みたいな笑顔になった。
「実はサク中では、去年あたりから、変なウワサが流れてんねん」
 ハデハデなヒナちゃん──その本性は、オカルト研究部所属、ウワサ大好き超オカルト少女なの。
 中学生になってから、動画配信にもチャレンジしはじめたみたい。怖い話をしたり、肝試しをしたりするホラー系配信者、『阿鼻叫喚ヒナヒナチャンネル』のヒナヒナとしても活動してる(チャンネル登録者数は現在、わたしを入れて三人)。
 口を開けば、オカルトのことばかり。派手な見た目で近づきがたいのもあるみたいで、あんまり、他の子がいっしょにいるところは見たことがない。
「変なウワサ? 何それ、気になる!」
 ヒナちゃんの話って、いつもおもしろいんだ。
 気持ちを切りかえて、わたしはヒナちゃんの話をきくことにした。
 人差し指を立てて、ヒナちゃんは「ふっふっふ……」と怪しげに笑う。
「放課後、学校にひとりでおるとな……別人に、入れ替わっちゃうんやって!」
「……何それ? どういうこと?」
「よくあるやん。何かにとりつかれて、別人みたいに性格が変わっちゃう、って話」
「よくあるの?」
 あんまりきいたことはない気がするけど、ヒナちゃん的にはよくあることなのかもしれない。
 




「知らん? まあええわ。とにかく去年から、サク中では別人みたいに、『いい人』になっちゃった人がおるんやって!」
「……いい人?」
「うん、いい人。居眠りが多い人はしっかり授業を受けるようになって、部活サボりがちな人は毎日練習に出るようになって……とにかくみんな、いい人になっとるんやって」
 ヒナちゃんの目は真剣だけど。なんか、それって──。
「別に、いいんじゃない?」
 全然、悪いことじゃない気がするけどなあ。
 わたしが首をひねっていると、ヒナちゃんはぐっと声をひそめた。
「そう思われてたんやけど……このあいだついに、目撃されたんよ」
 その迫力に、思わずゴクリとのどが鳴る。
 さすが、ホラー系配信者……! ちょっと怖くなってきたかも……!
「な、何が……?」
「キツネ」
「えっ」
 キツネ? キツネって、『こん!』って鳴く、しっぽがフサフサの、あれ?
「……キツネってかわいいよね。動物園でも見たことないけど」
「日本でキツネを見られる動物園は、割とめずらしいから……って、そんな話はええねん。サク中に出たキツネは、ただのキツネじゃないんやから」
 ヒナちゃんの表情が、どんどん生き生きとしてきてる。
「そのキツネは、バケギツネ……いわゆる『妖狐(ようこ)』ってやつやねん!
「よーこ……?」
「そう! やっぱり、『何かに体をのっとられる』って話なら、キツネにとりつかれる『キツネ憑き』が一番有名やし! 犯人が妖狐だったとしたら、つじつまが合うやん!」
 勢いがすごい! けど、何をいってるのかよく分からないよ!
「しかも、そのキツネを見たオカルト研究部の先輩は、『キツネが逃げるときに、制服を着た生徒の姿に変わった』っていうとったんや! 普段はきっと、生徒に化けとんねん!」
えっと……生徒の中に、人に化けたキツネがいるってこと? そんなことあるかなあ?」
 キツネが人に化けるって話は、絵本とか昔話できいたことがある気がするけど。
 やっぱりそんなの、現実にいるわけない──。
(あっ)
 でもそういえば、このあいだ、廊下で気になる悲鳴をきいたっけ!?
 あのときはいろいろあって、うやむやになっていたけど──この学校で何かが起きているのは、本当なのかも……?
「妖狐の正体は、全力でオカルト研究部が調べとる。いまはとにかく、気をつけたほうがええで」
「うーん、でも、何に気をつけたらいいの?」
「とりあえずこれ、お守り。みくにゃんにもあげるわ」
 ヒナちゃんはそういって、あぶらあげみたいな薄茶色の四角い物体を取りだした。
「何これ?」
「あぶらあげ」
 本当にあぶらあげだった! 流れで受けとっちゃったよ!
「油でベタベタするよおお……」
「それで身を守れるなら安いもんやろ。キツネといえば、あぶらあげやん」
「そうなの?」
「昔から、『キツネの好物といえばあぶらあげ』っていわれとるんよ。ほら、あぶらあげが乗ってるうどんも、キツネうどんっていうやん」
「なるほどー……でもそれって、逆にキツネをおびきよせることにならない?」
「会えたらラッキーやね! 動画に撮れたら、話題になることまちがいなしやわ」
 ヒナちゃんが、サラッと本末転倒なことをいいながら、スマホの画面を見た。
「わわ、もうこんな時間……ほな、うちは部活行くわ。みくにゃん、がんばってな!」
 ヒナちゃんはひらりと手をふって、教室から颯爽と出ていった。
 すごくマイペースに見えるけど、きっとはげまそうとしてくれたんだよね。
(いつもありがとう、ヒナちゃん)
 わたしはハンカチにあぶらあげを包んで、制服のポケットにしまいこんだ。

 

◆◆◆

 

 それからわたしは、ひとりで昇降口に向かった。
 先輩や伊織に会わないように、できるだけこっそり帰ろう──。
「何してるの、みくにちゃん?」
「!!」
 突然うしろから呼ばれて、わたしはカバンをとり落としそうになった。
 あわててふり返る。
「ほ……ほむら先輩」
 そこにいたのは、前に会ったときと変わらず、目を細めて優しくほほ笑む生徒会長──ほむら先輩。
 行事や集会で、よく見かけていたけど……直接会うのは、すごく久しぶり。
「え、えっと、その……帰ろうかな、と!」
「それにしては、歩きかたがあまりにも怪しかったけどね」
 ほむら先輩は苦笑いしてから、首をかしげた。
「あれから来てくれないけど、どうしたの?」
「それは、その……」
「司くんも伊織くんも、みくにちゃんのこと心配してたよ。華道部、興味なくなっちゃった?」
「そ、そんなことはないです! ないですけど、でも……」
 モゴモゴと口ごもると、ほむら先輩は困ったように首をかしげた。
「……ボクのファンクラブから、何かされた?」
「えっと──」
 告げ口みたいなことは、したくない。
 でも、まっすぐ見つめてくるほむら先輩を前に、上手くウソがつける気もしない。
「──ま、まあ……そんな感じかも、しれません……」
 観念して、あいまいにうなずく。
 じっとわたしの目を見ていた先輩は、フッと視線をそらした。
「……ふーん」
 一瞬だけ浮かんだ、氷のように冷たい表情。
 見ちゃいけないものを見た気がして、ドキッとする。
「ほ、ほむら先輩?」
「ああ。ごめんごめん」
 すぐにいつもの笑顔に戻って、ほむら先輩は言葉を続けた。
「つまりみくにちゃんは、ボクのファンクラブから逃げていたから、やたら怪しい歩きかたをしていたんだね」
「あはは……まあ、そうですね……」
 ──本当は、華道部のメンバーに会うのをさけていたんだよね。
 いまみたいに、気をつかわせちゃうだろうな、って思っていたから。
 こんなに優しい先輩に、そんなこといえないけど。
「ねえ、みくにちゃん。もし──」
「加治木くん!」
 ほむら先輩が何かいいかけたとき、うしろから女の人の声がした。
(うわっ……ウワサをすれば)
 ふり向くと、ポニーテールの背の高い女の子──『加治木ほむらファンクラブ』の会長さんが、怖い笑顔で立っていた。
「ちょっといい? 向こうで、行事予定について確認したいって、演劇部の子が呼んでたわよ」
「ホントに?」
 ほむら先輩にたずねられて、ファンクラブ会長さんはギクリと肩をゆらした。
「え、っと……う、ウソなんてつくわけないでしょ、加治木くんに」
「そうだよね。もちろん、疑ってないよ。教えてくれてありがとう」
 ほむら先輩はクスリと笑ってから、わたしに向きなおってきた。
「それじゃ、みくにちゃん。またね」
「あ、はい……また」
 立ち去りぎわ、ほむら先輩がわたしの耳元に顔を近づけてくる。
「……ごめんね。ボクからいろいろいうと、みくにちゃんにもっと迷惑がかかるから」
 申し訳なさそうにささやかれて、ハッとする。
(そっか……)
 先輩は、わたしのことを考えてくれたんだ。
 いまここで、ファンクラブ会長さんに注意することもできたはずだけど──きっと『わたしが告げ口した』って思われないように、何もいわなかったんだ。
 さすが、ほむら先輩──というか、先輩ももしかしたら、ファンクラブの人たちには困ってるのかも。
「……えーっと。それじゃあわたしも、失礼しまーす……」
 ほむら先輩がいなくなって、なんとなく気まずい空気の中、わたしはファンクラブ会長さんの前を通りすぎようとした。
「待ちなさい」
 呼び止められて、仕方なく足を止める。
「なんでしょう……?」
 とりあえず「えへへっ」と笑い返してみたけど、ジロリとにらまれちゃった。
「わざわざ演劇部の友だちに頼んで、加治木くんの足止めをしてもらってるの。いい機会だから話をしましょう」
「話……?」
「屋上に来なさい」
 自分の笑顔が、固まるのを感じる。
 ひ~~~っ!
 これはとっても、面倒なことになりそうだよ~~~っ!

 

◆◆◆

 

 青空の下の、サッカーができそうなくらい広い屋上。
 そんな気持ちのいい場所で、わたしはフェンスを背に、ファンクラブ会長さんからつめよられていた。
「いい加減にしなさいよ。ハッキリいわれないと分からないの?」
「な、何がですか?」
「加治木くんに近づくなっていってるの! 放課後にふたりきりで話してるなんて、どういうつもり!?」
 ガッシャン! とフェンスを叩かれてビックリする。
 正直、すごく面倒くさいよ~~~っ!
(さっさと逃げちゃえばよかった……)
 なんでノコノコついてきちゃったんだろう?
 五分前のわたしのバカ!
「ちょっと、きいてるの?」
「き、きいてますけど……わたし別に、ほむら先輩とは何も──」
「気安く下の名前で呼ぶのをやめなさい! 加治木くんはみんなのものなの!」
 ああ、もう! 何をいっても怒らせちゃうよ!
「みんなが決まりを守っているから、ファンクラブという組織は成立するのよ。あなたみたいな人がいると、私が責任をとらなければならなくなるわ」
「そんなこといわれても……わたしに、どうしろっていうんですか」
「謝りなさい」
 ファンクラブ会長さんが、ずいっと顔を寄せてくる。
「『二度と華道部には近づきません』といいなさい。私もファンクラブ会員も優しいから、ちゃんと頭を下げれば、とりあえず許してあげるわよ」
「…………そんな」
 なんで?
 ただ、大好きなお花の部活に入ろうとしただけで、なんで?

「そもそもあなたみたいな生意気な子に、華道部は似合わないのよ。早く謝りなさい」
 どんどん、胸が苦しくなってくる。
 やっぱりわたしは、お花を好きでいちゃいけないの?
「………………」
 スクールバッグの肩ひもをグッとにぎりしめた、そのときだった。
 誰かが、ファンクラブ会長さんの肩に、ポンと手を乗せた。
「……それ以上は、やめたほうがいいです」
 涼やかな声。
 見覚えのある、不思議な雰囲気の男の子。
 確か、見た目に反して、すごく強そうな名前の──。
「竜ヶ水、先輩」
「……久しぶりだね、白沢さん」
 さわやかな風の中、竜ヶ水先輩はふっと小さくほほ笑んだ。

第6回へつづく>

 

【書誌情報】

絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?


作:しおやま よる  絵:しちみ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322678

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▼気になる2巻も発売中だよ!

部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!


作: しおやま よる 絵: しちみ

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322685

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\ヨメルバで読めるつばさ文庫の作品がいっぱい!/



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