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絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし、白沢みくに!
きれいなお花が大好きで、『花言葉』にくわしい中1だよ。
ある日の放課後、見たことのないバケモノ(!?)がおそってきて
……って、いったいうちの学校で何が起きてるの!?
助けてくれたのは、どこかミステリアスな、華道部の竜ヶ水先輩。
「みんなを守れるのは、『花』を味方にできるきみだけだ」
なんて、そんなのムリです!!!
だけど、友だちにまで危険がせまってきて!?
こうなったら、 『花言葉』がもつ力で、わたしがピンチを救ってみせる....!
6 ウワサのキツネ、現る!
「な……何よ!」
ファンクラブ会長さんは焦った様子で、パッとふり向いた。
「あなた、確か……去年の三学期に転校してきた、竜ヶ水司さんよね?」
じりっとあとずさりながら、ファンクラブ会長さんは言葉を続ける。
「二年六組。出席番号四十一番。華道部の現副部長。図書委員会所属。寮の部屋番号は六〇六。好きな学食のメニューはワカメごはん。中間テストの順位は──」
「な、なんでそんなに、竜ヶ水先輩にくわしいんですか……?」
わたしがたずねると、ファンクラブ会長さんはフッと得意げな顔になった。
「当たり前でしょう。加治木くんの近くにいる人のことは、すべて調べつくしているわ」
怖い人だ……と思ったけど、怒らせそうだからだまっておく。
「ジャマしないでくれるかしら。その子をかばっても、竜ヶ水さんに得はないでしょう」
──ファンクラブ会長さんのいうことは、きっと正しい。
ほむら先輩のファンクラブはガチすぎるから、今後の学校生活を考えるなら、敵に回さないほうがいいに決まってる。ここはとりあえず、この人のいうことをきいておかないと──。
「竜ヶ水先輩、わたしなら大丈夫ですから」
「………………」
じっとだまりこんだ先輩を見て、ファンクラブ会長さんは満足げに笑う。
「竜ヶ水さんは、物分かりがいいわね。白沢さん、あなたもこれくらい素直になったらどう?」
「わたしもふつうに、素直なつもりですけど」
「すぐそうやって、いい返してくるじゃない!」
ファンクラブ会長さんが、もう一度声をはり上げたとき。
「損得で考えるなら……あなたこそ、引くべきだと思いますが」
竜ヶ水先輩が、凛とした声でいった。
決して大きな声じゃないのに、有無をいわせない感じ。
まっすぐな視線で見つめられて、ファンクラブ会長さんはたじろいだ。
「な……何を、いっているのかしら」
「ぼくは華道部の副部長です。あなたが何をしていたか、加治木先輩に伝えておきましょうか?」
今度は、ファンクラブ会長さんがだまりこむ番だった。
「………………」
しばらく、じりじりとにらみ合ったあと。
「……ふん」
長いポニーテールをゆらして、ファンクラブ会長さんはツカツカと、屋上から校舎内に戻っていった。
◆◆◆
少し冷たい風に乗って、反対側の校舎から吹奏楽部の演奏がきこえてきた。
屋上の空気が、一気にクールダウンした感じがする。
ゆっくり一度深呼吸してから、わたしは竜ヶ水先輩に声をかけた。
「先輩、ありがとうございました。助けてくれて」
「ぼくは別に、何も……」
竜ヶ水先輩は表情を変えずに、小さく首を横にふる。
「加治木先輩の名前を出したら引くだろうな、と思っただけだから……」
「そういえば竜ヶ水先輩は、どうしてここに?」
「……たまたま、見かけたんだ。でも、ちょうどよかった」
先輩はそういうと、改まった感じで、軽くせきばらいをした。
「ぼくも、きみに話があったんだ」
「えっ?」
うう、なんだろう?
『せっかく誘ってやったのに、なんで部活に来ないんだ!』とか、怒られちゃうのかな?
「急にこんなことをいうと、驚くかもしれないけど……落ち着いてきいてね」
「……はい……」
真剣な目に少しドキドキしながら、スクールバッグを肩にかけなおす。
「白沢さん。実は……──あっ、あぶない! 伏せて!」
突然、すばやく動いた先輩に頭を押さえつけられて、「へぶっ!」と変な声が出た。
頭上で、ヒュン、と何かが空気を切る音がする。
「なんなんですか!」
ちょっとムッとしながら、顔を上げると。
いつのまにか、屋上のまん中に──美しい金色の毛並みの、大きなキツネが座っていた。
(えっ……なんでこんなところにキツネ!?)
しかも、ただのキツネじゃない。しっぽが九本ある。これって──。
「九尾の妖狐……」
竜ヶ水先輩が、まっすぐ前を見たままつぶやいた。
(まさか、これって……ヒナちゃんがいってたキツネ!?)
本当にいた!
現実感がなさすぎて、全然理解が追いつかないけどっ!!
「白沢さん」
「な……なんですか?」
「こんなときに申し訳ないんだけど、そのかんざしを返してくれない?」
「えっ」
キツネが現れただけでも意味が分からないのに、先輩がもっと意味の分からないことをいってきた。
頭の中がぐちゃぐちゃで、目が回りそうだよ!
「かんざし……? なんでですか?」
竜ヶ水先輩の髪の毛は長めだけど、かんざしを使えるほどじゃない。
一体何のためにこんなことをいってくるのか、全然分からない。
(そもそも、『貸して』じゃなくて『返して』って、どういうこと?)
とまどっているうちに、キツネがしっぽをゆらりとふった。
次の瞬間、宙に浮いた火の玉が、勢いよくわたしたちに襲いかかってくる。
「あぶない、よけて!」
「ひえええ~~~~っ!?」
飛んできた火の玉が、顔のすぐ横を通りすぎた。熱気と髪の焦げるにおいに、心臓がひやりとする。
「しかたない……下がってて、白沢さん。ぼくのうしろから離れないで」
「竜ヶ水先輩! 一体、何が起きてるんですか!?」
「それは──」
先輩が答えてくれようとしたとき、もう一度、キツネがしっぽをふった。
飛んでくる火の玉を、竜ヶ水先輩は素手でふり払っている。
「くっ……」
「先輩! 本当に、大丈夫なんですか!?」
「……だ、大丈夫……」
声が苦しそう。よく分かんないけど、全然大丈夫じゃない気がする!
わたしの野生のカンが、『あぶない』って警告を出してる!
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「竜ヶ水先輩が下がってください! ここは引くべきです!」
「ひ……引くっていっても、何か気をそらさないと……」
確かにそうかも。どうすれば──。
(あっ、そういえば!)
「こんなときこそ! あぶらあげですよ! えいっ!!」
ヒナちゃんからもらったあぶらあげを、ポケットから取りだして投げつける!
食べ物を粗末にするのはイヤだけど、命の危機だから許してほしい!
「な……なんでポケットからあぶらあげが出てくるの?」
竜ヶ水先輩が、ポカンとしている。
「いまはそんなこと気にしてる場合じゃないです!」
九尾のキツネは、あぶらあげに気を取られてる。いまがチャンス!
わたしは竜ヶ水先輩の細い手首を、ギュッとにぎった。
「さあ、逃げましょう!」
「え、ちょっと……!」
あたふたする竜ヶ水先輩の手を引いて、わたしは全力で走りだした。
ためし読みはここまで。
続きは、本で読んでね♪
【書誌情報】
絶対ナイショのパートナーと、 【花言葉】をとなえてみんなを救え!
わたし白沢みくに。柔道がトクイだけど、中学では大好きなお花の似合う"おしとやかな子"をめざそうと思ってるんだ。でも、「学園のピンチをすくえるのは君だけだ」って、ヒミツのおやくめをはじめることに!?
▼気になる2巻も発売中だよ!
部活もおやくめも大ピンチ!? 花言葉でみんなを救うストーリー、2巻め!
華道部が"廃部"の危機!? なのに、伊織もやめるって言い出して……? 七夕まつりでは、竜ヶ水先輩とのペア解散のピンチ!? 花言葉でみんなを救う【おやくめ】ストーリー、トラブルだらけの第2巻!
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