「空ちゃん、よかったね。ちゃんと、解決して」
「……」
「なんか、かたまってない? おーいっ」
フウくんが、わたしの目の前で手をひらひらふる。
「あっ、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」
「つかれたの?」
「ううん。わたし、心強いとか、かっこいいって言ってもらえたの、初めてで……」
それも、一年生のときからわたしを知っている柴くんに。
「なんか、こう……すごくいい気持ちっていうか。今までなったことがない、新しい気持ちっていうか。なんて言ったらいいんだろう?」
「外に出れば、どんな気持ちか分かるだろ」
「そ、外? ハレくん、なんで?」
「いいから、行くぞ」
ハレくんを先頭に、みんなで校庭に出る。
「ほら、見てみろ」
ハレくんは、上空を指さす。それは、きれいな水色の空だった。
おばあちゃんが、わたしの名前の由来を教えてくれたときの空と似ている。
風はやさしい音を立てて流れて、ふりそそぐ太陽の光はやわらかくてあったかい。
「よく覚えておけ。この天気は、今の空の心をあらわしている」
「こんな、すっきりした天気が?」
「そうだ。この天気が──今の天川空の心の天気だ」
「わたしの、心の天気……うん」
素直にうなずけた。今のわたしの心の中をのぞいたら、きっとこんな色をしている。
初めてちゃんと、じぶんの心が天気とつながっているって感じられた。
「スゴい……天気の神さまって、やっぱりスゴいね!」
「スゴいのは、神さまじゃなくて空だ。空があきらめないで、じぶんの気持ちとたたかったから、こんな天気になったんだ」
「えっ、ハレくんがほめてくれてる? もしかして、ぜんぶ夢?」
「オレをなんだと思ってるんだよ。がんばったら、ほめるのは当然だろ。……空、よくがんばったな」
ひとみも声も、いつもよりうんとやさしい。心の底から言ってくれてるって、伝わる。
うれしすぎて、にやにやしちゃう……はっ、だめだめ! 油断するなっておこられちゃう。
「運動会も、こんな晴れにできたらいいね」
「ちがうよ、アメくん。いいねじゃなくて、するんだよ。ぜったい、かなえるのっ!」
「空、お前も言うようになったじゃん」
「そらりん、かっこいい~」
「そうだな。だけど今は教室にもどらないと、遅刻してかっこわるいことになるぞ」
「あっ、ほんとだ! 行こう」
くるっと、回れ右をする。そのとき、雨がふってきた。
「うわ、いきなり? もう梅雨だっけ?」
広げた手のひらに、雨つぶが落ちる。
あれ? この雨つぶ、なにかおかしい……。
「ねえ、みんな。この雨、キラキラ光ってない? 気のせいかな」
「いや、気のせいじゃないよ」
アメくんが、めずらしく顔をしかめている。
「これは、ニセモノの雨──悪天蝶がふりまいている、悪天粉だよ」
「悪天蝶? じゃあ、もしかして──」
みんなで同時に、上を見る。
すっきり晴れていた校庭の空に、黒い雲が集まってきている。
その周りでは、やっぱり悪天蝶が飛んでいた。こんどの悪天蝶は、青く光っている。
「出てきたか……。黒雲を集めて、悪天空をつくろうとしているな」
「でもなあ、こっちは、お前らがジャマしに来るのは分かってて──」
「みんなあれ見て!」
フウくんが、べつの方向の空を指さす。そこにも、悪天蝶が飛んでいる。
「二匹……! ううん、あそこにもいるよっ」
わたしが、反対の方向にも一匹見つける。
「どういうことだ? 今までは、一匹ずつしか見たことないぞ」
「なんで、三匹も……。一匹でさえ、たいへんなのに!」
これじゃあ、運動会が──。
ばたんっ。とつぜん、アメくんがたおれた。
「アメくん! わ……スゴい熱」
顔はまっ赤で、汗が浮かんでいる。息もすごくあらい……。
「アメ! しっかりしろ! どうしたんだ!?」
「はあ、はあ……ぼくは、はあ、だい……」
アメくんは、そのまま気を失った。
「アメくん! アメくん!」
どれだけ名前を呼んでも、もう返事は聞こえなかった。
第10回へつづく