「知らないの? てるてる坊主に顔を描いてかざったら、雨がふっちゃうんだよ」
真央ちゃんは、自慢げに答えた。柴くんは、やれやれってかんじで首を横にふる。
「だーかーら、それはただの迷信だって。うちのばあちゃんが、一人で言ってるだけじゃん」
「ちがうもん! 真央のおばあちゃんが言うことは、ぜんぶほんとうだもん!」
「そんなの分かんないだろ、まったく……。まあ、こういうことなんだ」
柴くんは、まだ気まずそうな顔で、わたしたちの方を向く。
「おれ、家にいるときは、ぜんぜん気がつかなくて。真央が昼休みに、ぜんぶ直したからっててるてる坊主を持って来て、初めて知って……。あっ、でも心配するな。顔は消したんじゃなくて、白い紙を貼りつけただけらしいから。おれが、ぜんぶはがすから」
「だめ! はがさないで! 雨がふっちゃう!」
真央ちゃんが、柴くんのうでにすがりつく。
「ぜったい、ぜったい晴れてほしいの。おばあちゃん、真央の初めての運動会は、ぜったい見に行きたいって言ってたから……」
そっか、ぜんぶおばあちゃんのために……。
「真央ちゃん、えらいんだね」
「えっ? おねえちゃんたち、おこってるんじゃないの?」
「ううん。おばあちゃんが言ったことを守ろうとしたなんて、えらいよ。すごく、えらい」
何回も、強く言う。真央ちゃんなりに、晴れにしようとがんばっただけだ。
おばあちゃんのことが大好きだから。その気持ち、わたしにも分かる。
「ぼくも、顔を描いちゃだめって話は聞いたことがあるよ」
アメくんはしゃがんで、真央ちゃんに笑いかける。
「そういう言い伝えもあるよね。でも、だいじょうぶ。気持ちをこめてつくれば、どんな形でも神さまに伝わる。真央ちゃんの気持ちは、ちゃんと伝わったよ。ね、空ちゃん」
アメくんが意味ありげにウィンクする。
うん! って返事をして、わたしもとなりにしゃがむ。
「すっごく伝わったよ。運動会、きっと晴れるよ」
「ほんとうに?」
「わたしね、クラスでお天気係をやってるの。わたしの予報は、当たるんだよ」
「そうなの? すごいっ。じゃあ……」
真央ちゃんは、紙袋にぜんぶのてるてる坊主をもどして、わたしにさし出す。
「おねがいね! お天気係のおねえちゃん」
「まかせて!」
わたしは、にっこり笑ってうなずく。また、お願いをかなえたい人ができたよ。
「お兄ちゃんも、おねえちゃんにちゃんとおねがいして!」
「いや、おれはそれより……ごめん! おれ、めっちゃ天川のせいにして……」
柴くんは、ちゃんとあやまってくれた。それだけで、うれしかった。
「もう、気にしないで。それより、話してくれてよかった」
「柴。ちゃんと、クラスのみんなにも話せよ。もう逃げるなよ」
「わ、分かってるって……。ああ~」
柴くんが、苦い顔でうなる。
「すげー、はずかしい……。おれ、さんざんさわいでたし。みんな、おこるよな……」
びっくりした。ふだん、明るくって堂々としている柴くんらしくない。
でも、そっかあ。わたしがこわいって思うことは、みんなもこわいって思うんだ。
わたしだけじゃないって知って、柴くんをずっと身近に感じられる。
「だいじょうぶだよ。真央ちゃんも柴くんも、悪いことしたわけじゃないもん。ちゃんと話せば、伝わるよ。わたしも、いっしょに話すから」
「あ、ああ……。なんか、今日の天川、ヘンなかんじするな。教室で、ちゃんとかざったって言い切ったときも思ったけど」
「え! えらそうに聞こえたとか?」
「そうじゃなくて。なんていうか……心強いかんじ? うん。なんか、今日はかっこいい」
柴くんは、うなずきながら言う。
それから、真央ちゃんを教室に送りに、一年生の棟に向かった。