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【期間限定】『呪ワレタ少年』1巻無料スペシャル連載 第1回

見ると、階段の上の天井に、男が逆さまになって張り付いていた。


 イタベタ~ イタベタ~


 男は血走った目をギョロギョロさせて、由紀奈たちのことを探しているようだ。

 由紀奈はさらに千夏を強く抱き締める。

 千夏も目に涙を浮かべて由紀奈にしがみつく。

「あれ、食べたいって言ってるんだ!」

「食べたい?? って、由紀奈ちゃん、静かにして……!」


 カサ カサ カサ カサ カサ……


 男は、由紀奈たちに気づくことなく、角を曲がると、廊下のほうに去って行った。

「よかったぁ。助かった……」

 少年はホッと息を吐く。

「今の内にここから出よう」

 少年はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

 そのとき──、


 カサッ


 音がした。

 少年たちは、同時に音がした方向を見る。


 天井の角に、張り付いている男がいた。


「しまった、罠だったんだ!」

 男は通り過ぎたフリをして、少年たちが姿を現すのを待っていたのだ。

「逃げろ!」

 少年は、千夏を支えると、由紀奈とともにその場から逃げ出した。


 イタベタ~


 男は天井を素早く這いながら、三人に迫って来る。

「嫌! 嫌!」

 由紀奈は必死に走る。

 だが、徐々に距離が縮まる。


 イタベタ~


 男は長細い手を伸ばし、由紀奈を捕まえようとした。


「やめろ!」


 瞬間、少年が由紀奈と手の間に立った。

 少年は、男に捕えられる。

 そのまま、持ち上げられ、逆さまになった男の顔が近づく。

 男は口を大きく開くと、牙のような歯で、少年の肩に噛みついた。

「うああああ!」

 少年の悲鳴が響く。


「そんな!」

 由紀奈は、どうすればいいのか分からずパニックになった。

「な、名前を……」

 少年は苦悶の表情を浮かべながらも、男を見てそう呟く。

 男は、噛みついた口を離すと、声を上げた。


 イタベタ~ イタベタ~ イタベタアァァァ~~


 男は少年を食べようと、大きく口を開いた。

 その瞬間、一瞬の隙ができた。

 少年は、その隙を見逃さなかった。


「今だ」


 少年はポケットの中から、銀色のペンを取り出す。

 刹那、ペンの表面に見たこともない奇妙な模様が浮かび上がる。

 少年がペンを走らせると、宙に青白い炎が現れ、円が描かれた。


 アアアァ!!


 男は怒りの声を上げ、少年を離した。

 少年は天井から落下し地面に着地すると、体勢を整え、円の中に見える男を睨んだ。

 少年の赤い目が光る。

 その目に何かが視える。


 それは、男の『名前』だ。


「すべての災悪を、この光によって打ち消さん! お前の名は──」

 少年は、ペンを走らせ、空中に文字を書いた。


 サ カ サ オ ト コ



 瞬間、逆さ男の動きがピタリと止まった。

 身体を小刻みに震わす。


 ア アア  アアァァァアアァ


 次の瞬間、逆さ男の身体にヒビが入り、光が漏れ出す。

 そのまま、粉々になって消滅した。


「き、消えた……。倒したの……?」

 由紀奈が戸惑いながら言う。

「ぐっ」

 一方、少年は噛まれた肩を押さえ、よろけた。

「大丈夫??」

 由紀奈はあわてて少年に駆け寄ろうとした。

 だがそれよりも早く、少年はフラフラしながらも歩き出そうとした。

「あ、あの」

 そんな少年に、由紀奈は戸惑う。

 少年はわずかに、由紀奈たちのほうに顔をむけた。

 その顔は、どこか悲しそうだった。

「友達のところに行ってあげて。彼は無事だから」

「彼?」

 洋介のことだ。

「ううっ」

 少年は、逆さ男に噛まれた肩を押さえ、苦悶の表情を浮かべる。

「手当てしなきゃ!」

 由紀奈はそう言うが、少年は首を横に振った。

「呪われた少年の名前を言ってしまうと、災悪に襲われる……」

「呪われた少年……」

 由紀奈は、少年をじっと見つめた。

「もしかして、あなたが──」

 少年は由紀奈たちを見た。


「だから、僕に関わっちゃいけないんだ」


「えっ」

 その言葉に、由紀奈たちは戸惑う。

 少年は、悲しそうな表情のまま、耳にイヤホンをつけた。

 傷ついた肩を押さえながら、少年はひとり、その場から去って行った。



第2回へ続く

呪ワレタ少年(6)彼と彼の絆』好評発売中!


作:佐東 みどり 作:鶴田 法男 絵:なこ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322401

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