KADOKAWA Group
NEW ものがたり

【期間限定】『呪ワレタ少年』1巻無料スペシャル連載 第1回

 後ろで、洋介の悲鳴が響いた。

 見ると、千夏はいるが、洋介がいない。

「洋介くん、どこ?」

 見ると、廊下の角に何かが落ちている。

「あれは……」

 千夏は、恐る恐る近づく。

「千夏ちゃん……」

 由紀奈も怯えながら後に続き、角に落ちている物を見た。

 それは、靴だ。


 洋介が履いていたスポーツシューズが、片方だけ落ちていた。


「洋介くん!」

 千夏は名前を呼びながら、角を曲がる。

「千夏ちゃん! だめ!!」

 由紀奈は、焦って千夏を追う。

「えっ」


 角を曲がると、千夏の姿が消えていた。


「そんな!」

 何がどうなっているか分からないが、助けを呼ばなければ。

 由紀奈がそう思ったとき、そばの病室の中で何かが動いた。

「千夏ちゃん??」

 名前を呼ぶが、返事はない。

 由紀奈は怯えながら、病室に近づく。

 そして、ごくりと唾を吞み込むと、中を覗いた。

 薄暗い病室の中に、千夏がいた。

 だが、その身体はなぜか宙に浮いている。

「千夏……ちゃん?」

「助……けて」

 由紀奈は、ゆっくりと顔を上げ、千夏の全身を見た。

 千夏の身体を、大きな手が掴んでいる。

 その手は蜘蛛のように異常に長細い。

 天井に、不気味な男がいる。


 男は、長細い手足を天井に這わせ、逆さまに張り付いていた。



「きゃああ!」

 カサカサカサ

 男は千夏を掴んだまま天井を移動し、由紀奈のほうに迫って来る。

「あ、ああ……」

 あまりの恐怖に、由紀奈は動けない。

 カサカサカサ

 男はさらに迫り、由紀奈を捕まえようと手を伸ばした。

「危ない!」

 瞬間、誰かが由紀奈の腕を掴み、引き寄せた。


 イタベタ~


 男は由紀奈を捕まえることができず、意味の分からない言葉を叫ぶ。

 由紀奈を助けた人物は、そのまま千夏の腕も掴み、引っ張った。

 男の手が離れ、千夏が床に落ちる。

「きゃ!」

「千夏ちゃん!!」

 由紀奈は千夏に駆け寄り抱き締めながら、助けてくれた人物のほうを見る。

 そこには、白い服を着た少年が立っていた。

 左目が赤色のオッドアイ。

「あなたは」


 道ですれ違った、少年だ。


 少年は、天井に張り付く不気味な男を睨んだ。

 そして、銀色のペンを天高く振り上げた。

 だが、男は天井に張り付いたまま由紀奈たちに迫ってきた。

「くっ、これじゃあ確認する余裕がない!」

 少年は、銀色のペンを降ろすと、由紀奈たちを見た。

「ひとまず逃げよう!」

「あ、あの」

「早く! このままじゃ捕まっちゃうぞ!」

 由紀奈は逆さになった男を見つめる。

 その口には、牙のような歯が生えている。

 あの歯に噛まれたらただではすまない。

「千夏ちゃん、立って!」

 由紀奈は、千夏を立たせると、少年とともにその場から逃げ出した。



   ●


「何なの、あの人??」

 階段を駆け下りながら、由紀奈は前を走る少年に尋ねた。

「あれは『災悪』っていうんだ」

「災悪?」

 少年は、階段を駆け下りながら、チラリと由紀奈たちのほうを見た。


「君たちの中の誰かが、『呪われた少年』の名前を言っちゃったんだ」


「それって」

 由紀奈は口に出して言ってしまったのが、自分だと気づいた。

 呪われた少年の話は、本当だったのだ。

「私のせいで、こんなことに……」

 由紀奈は動揺する。

 少年は、そんな由紀奈を見て、なぜか悲しそうな表情を浮かべた。

 そのとき、千夏が小さな声を出した。

「ね、ねえ、何か、聞こえる」

 由紀奈と少年はハッとすると、立ち止まり、耳を澄ました。


 カサ カサ カサ


 何かが動く音だ。

「来た!」

 先ほどの男が、追いかけて来ているのだ。

「早く!」

 少年は、あわてて階段を下りる。

 由紀奈と千夏も一段飛ばしで駆け下りる。


 カサ カサ カサ カサ


 音はさらに大きくなっていく。

 三人は1階に辿り着くが、入り口のドアまではまだ遠い。

「急いで!」

 少年は二人にそう言った。

 しかし、いちばん後ろにいた千夏が「きゃ」と声をあげた。

「どうしたの、千夏ちゃん??」

「あ、足が」

 千夏が足を押さえている。

 どうやら、階段を下りるときに挫いたようだ。

「大丈夫??」

「い、痛い。もう走れないよお」

「くっ、どこかに隠れないと」

 少年は辺りを見回した。

 すると、階段のそばにスペースがあり、ボロボロの棚が倒れるように置かれていた。

「あそこだ!」

 少年は、千夏のそばに歩み寄る。

「僕に掴まって!」

「う、うん」

 千夏は少年の肩を借りる。

 少年は千夏を気遣いながら、棚のそばに向かう。

 由紀奈も後に続き、三人は棚の陰に隠れた。


 カサ カサ カサ カサ カサ カサ カサ

 音がだんだん近づいてくる。

「千夏ちゃん……」

「由紀奈ちゃん……」

 由紀奈は千夏と抱き合い、震えながら身を縮めた。


 カサ カサ カサ カサ


 階段のほうから音がする。

次のページへ


この記事をシェアする

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • LINEでシェアする
ページトップへ戻る