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【大河で大注目!】『紫式部日記 平安女子のひみつダイアリー』スペシャルれんさい 第1回 大人気作家になっちゃった!?

第一章 大人気作家になっちゃった!?

 はぁー……。人生って、むなしいよねえ……。
 あ、ごめんね。いきなりテンション低くて、読むのやめようかな、って思っちゃった?
 でも、おねがい! ちょっとだけ、わたしシキブの、チョーゼツ不幸な人生について、聞いてもらってもいい?

 わたしね、小さいころに、お母さんを亡くしているの。
 お母さんの代わりになって、わたしと弟をかわいがってくれたのが、お姉さん。
 とてもとてもやさしくて、大好きだった。
 ……でも、そんなお姉さんまで、亡くなってしまった。
 しかもね。これまでに、わたしが失ったのは、家族だけじゃないんだ……。
 仲良しだった友達にかぎって、都からはなれて、遠くへ引っこしてしまったり。
 逆に、わたし自身が、お父さんの仕事の都合で、田舎で暮らすことになってしまったり。
 どうしようもなく、さびしくて、かなしい気持ちを、ひとりかかえこんで、すごしてきた。
 それでも、なんとか、がまんしつづけて……やっとやっと都へ帰ってきたの!
 そうしたらね、大好きなカレにも会えた! 不幸の連続だった、わたしのもとに、よ――――やく春が来たー! って思えたよ。
 でもね、その春も、あっという間に終わってしまった。

 大好きなカレまで、死んでしまったの……。

 人の一生って、まるで大きな池に浮かぶ、ちっぽけな水鳥のようだなあ、と思う。
 風が吹いて水面が波うてば、たちまち流されちゃう。
 心もとなくて、無力で、むなしいもの。
 ……そんな風に考えれば考えるほど、気持ちがどんどん、しずんでいき、生きていくことが、ますます、しんどくなっていった。

 いつしか、わたしは、自分の人生に期待しなくなった。
 わたしなんて、望んだところで、いいことなんてあるわけがない。
 わたしなんて、だれからも愛されない。
 わたしなんて、安らげる居場所を、求める資格すらない。
 わたしなんて。
 わたしなんて。
 わたしなんて……。

 はぁー……。
 ため息を、ひとつつくたびに、心が、さらに落ちこんでいく。
 こういうとき、どうしたらいいんだろう……。
 どうしたら気がまぎれるかな。

 ……そうだ。
「小説」を書いてみよう。
 

 小説の世界に、心のモヤモヤを、すべて吐きだしてみよう。
 小説の主人公は……そうだなあ、なにからなにまでカンペキな男子にしようかな。
 とても優秀で、身分が高くて、だれからもあこがれられて、とてつもなくモテモテにして!
 名前も大切だよねっ。キラキラな感じってことで、ヒカルくん……光源氏にしよう。  ヒカルくんはね、たくさんのキラキラなヒロインたちに出会うの。
 小説の出だしは、はなやかな宮中(きゅうちゅう)を舞台にしようかな。
 ヒカルくんは、キラキラ女子たちと、あるときはロマンチックに、あるときはせつなく、あるときはハラハラと、めくるめく恋をしながら、ちょっとずつ出世していくの。
 この小説のタイトルは――『源氏物語』

 軽い思いつきにすぎなかったけど、書きはじめたら、これが楽しくて楽しくて!
 ヒカルくんたちのいる世界に入りこんで、ストーリーを考えている間は、ユウウツなことは、ふしぎと忘れられる。
 まるで、わたし自身が、ヒカルくんに恋してるような気分!
 ひとりで、きゃー! って、盛りあがったり、宮中の優雅で豪華けんらんなイベントを思いえがいて、うっとりしたり。
 もちろん、宮中なんて、わたしには一生、縁のない世界。
 でも、縁がなくても、空想をするのは自由でしょ?
 わたしは、夢中で書きすすめていった。
 ノート一冊ぶん、書いて。
 物語が新しい展開になったら、二冊目に入って、さらに三冊目に入って、四冊、五冊……。
 ほんと、小説を書くのが、こんなにもわくわくすることだって、知らなかったよ!
 だけど、これはあくまでも自分のため。
 ただただ、つらい現実から、目をそらしたいってだけだったの。

 こんな風に、『源氏物語』という夢世界を、楽しんでいたある日のこと。
「シキブちゃん、小説書いてるって言ってたよね? 読ませて!」
「えっ!?」
 突然、ひとりの友達に言われて、わたしはうろたえまくった。
「いやっ、でもっ、そんな見せるほどのものじゃ……」
 そうなのよ、ほんとに、人に見せるものじゃない!
 わたしの心の世界をのぞかれるのと、おなじ! はずかしすぎて絶対ムリ!
 だけど、その友達は食いさがってきた。
「いいじゃん。ちょっとだけ読ませて。ね、ね!」
「う……」
 こまった。めちゃめちゃこまった。
 わたし、こういうとき、きっぱりと断れない性格なんだよね。
 内気で、弱気で、自分の気持ちをはっきり言うのがすごく、すごーく苦手なの……。
「……う……ん。まだ書き途中だけど、それでもよかったら……」
 しかたなく、わたしはノートを手わたした。
 この子にだけだったら、まあ……いいかな。
 それに実を言うとね、どんな感想を聞かせてもらえるか、ちょっと興味もあったんだよね。
 自分では、まあまあ……いや、かなり面白く書けている気がして。
 でもよ、でも。もし、「つまんなかった」って言われちゃったらどうする……!?
 うわあああ、考えただけでも、へこむーっ! 一生、立ちなおれない!
 やっぱり、貸すべきじゃなかったかもーっ!
 こうやってわるい想像をして、いじけ虫になってしまうのも、わたしのダメダメなところなの……。

 それからしばらく、わたしは不安でいっぱいになりながら、感想を待っていた。
 だけど、三日たっても、十日たっても、そのまたさらに十日がすぎても。
 友達からは、なにも連絡がなかった。
 ずーん……。
 どうやら「面白く書けている」って思ったのは、完全にわたしのひとりよがり。
 つまらなかったんだね。
 ……はは……はははは。つらすぎて笑えてくる。
 つづきを書く気にもなれないや。
 いっそ、ここまで書いてきた『源氏物語』、びりびりに破いて捨てちゃおうかな。
 でも、いざ破ろうとすると、その決心すらも、かためる勇気がだせない。
 はぁー……。どーして、わたしってこう、すぐにうじうじ、もんもんとしちゃうんだろう!
 なやみすぎて、なにもできない。
 内気で弱気でいじけ虫。
 こんな自分が、どうしようもなく、いやになるよーっ!

 そのとき。
 なぜか別の友達から、連絡がきた。
「シキブちゃーん! 『源氏物語』、すっごく面白いね!」
「……は?」
 ど、どういうこと!? なんで、この子が読んでるの?
「あれ、シキブちゃん、知らなかった? みんなで順番に貸しあってるんだよ!」
 まわし読みしてたんかーい!!
 わたしは、はずかしさで、くらくらと気を失いそうになった。
 知らない間に、みんなに読まれていたなんてっ。
 うそだよね、おねがいっ、うそと言ってー!!
 その子は、追いうちをかけるように、にこにこと話しつづけた。
「すっごい、うわさになってるよ。口コミでめちゃめちゃ広まってるんだよ!」
 ひぃぃぃ! もうムリ。消えたい。
 いますぐ布団にくるまって、一生だれにも会わずにいたいよー!!

 そのあとも、わたしのもとには次から次へと、『源氏物語』を読んだ感想がとどいた。
 あの子からも、この子からも。
 さらには、まったく知らない人たちからまでも。
「めちゃめちゃ面白い!」
「シキブにこんな才能あったなんて!」
「つづきも読みたい!」
 わーん。はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずかしい、はずか……。

 ……あれ?

 はずかしいことに変わりはないんだけど……それとは別の感情も、心にわきあがっていた。
 なにこれ?
 生まれてはじめて味わう、すごくくすぐったい気持ち。

 わたし……。
 みんなに楽しんでもらえて、うれしい……かも……!

 日々のユウウツを忘れるために、書きはじめたものが、どこかのだれかにとっても、気晴らしや、楽しみにつながっている。
 これって、書き手としては、最高に幸せなことな気がするの。
 はずかしいし、とまどってはいるけれど、このまま小説を書きすすめてみようかな。

 そのあとも『源氏物語』は、うわさがうわさを呼んで、さらにたくさんの人に読まれていった。
 そうしたらね、そうしたら……。
「おおい、シキブ! 大変だ!」
 お父さんが、ドタドタとわたしの部屋へやってきた。
「宮中からの、お使いがいらした!」
「宮中? どこか別の家とまちがっているんじゃない?」
 わたしは、小説を書く手を休めずに答えた。
 きらびやかな宮中から、わたしのもとをたずねにくる人がいるなんて、逆だちしたってあるわけがないもの。
 一方、お父さんは、興奮気味にしゃべりつづけた。
「なにをのんきに構えている!? 道長さまからのお使いだぞ!」
「み、道長さまっ!?」
 思わず、顔をあげた。
 道長さまって、時の最高権力者、あの藤原道長さま!?
「道長さまのもとにまで、『源氏物語』の評判が、とどいているそうだ!」
「ええーっ!?」
 わたしは、サーッ……と青ざめた。
 これは、まずい!
 きっと、「おまえの小説は、けしからん! 実際の宮中では、ありえないことばかり書きおって!」って、お叱りを受けるんだ……! うん、そうにちがいない!
 だが、お父さんは、なぜかうれしそう。
「道長さまは、おまえの才能をみこんで、娘である中宮彰子さまに仕えるようにと、おっしゃっている!」
「……!?」
「彰子さまにお仕えする《女房》として、宮中に参上せよという、ありがたいご命令だ!」
「ええええ!!」
「なんという名誉。よかったな、シキブ……」
「ムリッ!」
 




 わたしは、思わずさけんだ!
 キラキラな宮中の、キラキラなお姫さまのもとに、地味でフツーなわたしがお仕えする!?
 ありえない! 場ちがいすぎるよ!
 息ぐるしくて、つらくて、居場所なくて、一秒だって、つとまるわけない!
 わたし、宮中なんて、絶対行きたくない!!!!!!!!
 どうしたらいいのぉぉぉぉぉ!?

第2回につづく>

 次のお話 
キラキラな宮中で、お姫さまにお仕えすることを命じられたシキブ。
はじめての宮中は、問題が山積みで…?

 

次回更新は12月16日予定、楽しみにしていてね!
 

【書誌情報】

千年前も今も、みんな悩んでいることって同じかも!?
わたしシキブ。こっそり書いていた恋物語がエライ方の目にとまり、キラキラな宮中で働くことに!? 慣れない宮中に問題は山積みで…? 原稿ドロボー、ドキドキひみつのレッスン。悩んで、立ち止まって、前に進む――「源氏物語」の作者が書くもう一つの名作。


作:紫式部  文:福田 裕子  絵:朝日川 日和

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322081

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