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第10回角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作☆
大注目の新シリーズをひと足はやく公開中!
『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』は、2022年11月9日発売予定です!
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あたし大鳥奈央(おおとりなお)。バドミントンが大好きな小学5年生! 二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合。全力でのぞんだ、あたしだったけど……
「やっぱり、だれと組んでも結果は同じだね」
え? どういうこと……。
「今のは奈央(なお)じゃなくてもむりだったよ」
千里(ちさと)はいつもどおりの明るい調子で言った。
なにげなく口にしたのかもしれない。けど、その言葉はあたしの心にずしん、と来た。
千里とペアを組む、最後の試合。
得点は、19-20だった。
バドミントンは3ゲームで一試合。先に2ゲーム取ったほうが勝ちなんだ。
かんたんに言えば、羽根──シャトルが相手のコート内に落ちれば得点になり、21点取った側が、そのゲームの勝者になる。
あたしたちと対戦相手が1ゲームずつ取った第3ゲーム。
先に20点目を取られて敗北寸前の状況だったけど、勢いはこっちにあった。
相手がコート奥へ打ってきた。千里の位置からでは取りに行けない。
でも、あたしなら追いつけるはずだ! 背が低くても手足が短くても、それをカバーするためのスピードと技術をずっと練習してきたんだから。
それが、あたしのバドミントンなんだから!
必死に走って腕を伸ばし、ラケットをシャトルへと差し出す。
が、コート内ギリギリに落ちるシャトルへは、わずかに届かなかった。
シャトルはラケットの向こうへ落ちていく。
あたしは勢いのままに倒れこんでしまった。
主審が試合の終了を告げ、相手ペアがよろこびを爆発させるのが見えた。
負けた。最後の最後で、届かなかった。
あたしなりのベストは尽くした。勝てない相手じゃなかった。
それでも、負けた……。
「千里、ごめん。ごめんね。届かなかった……」
「いいよ、あやまらなくても」
あたしはショックを受けていたのに、千里はケロッとしているように見えた。
そして、立ち上がれずにいるあたしをかかえ起こしながら、言ったんだ。
だれと組んでも結果は同じ、か。
あたしとペアを組む意味って、なかったの?
あたしの背が低いせいだって言われるほうが、まだよかったかも。
涙も出やしない……。ははは、笑うしかないよ、もう!
こうして、全国小学生バドミントン選手権大会(せんしゅけんたいかい)……『全小』の小学五年生以下女子ダブルスで、あたしと鶴巻(つるまき)千里のペアは準優勝に終わった。
あたしは、二日後には東京から四国の香川県へ引っ越すことが決まっていた。
※ ※ ※
「奈央、年賀状ちょうだいよ」
「うん。千里も忘れないでよ。スタンプで済ませちゃだめだよ」
「忘れないってぇ」
千里はそう言ってケタケタと笑った。
ショートカットで背が高くて、よく男の子にまちがえられて、うらやましくなるくらいバドミントンの才能にあふれてる。
それが、鶴巻千里っていう子。
あたしがバドミントンを始めたころからの親友だ。
あたしとママが香川へ出発する日、千里はクラブのコーチといっしょに空港へ見送りに来てくれた。全小が年末に行われたので、今日は十二月二十九日。もう完全に年の瀬だ。
あたし……す、じゃない、大鳥奈央は、今日を最後に東京を離れる。
小学生最後の一年を、生まれてからずっと暮らしてた東京じゃなく、香川にあるママの実家で過ごすことになるっていうのは、事情があるからしょうがないんだけど、複雑な気持ちだ。
ちょっと心配なのは、学校生活よりもバドミントンのこと。
あたしは小学校に入学すると同時にバドミントンのクラブに入って、きびしい練習を続けてきた。クラブでは、絶対にかなわない相手がいつもとなりにいた。
それが千里だ。
千里は、去年も今年も十三歳以下の日本代表候補(こうほ)に選ばれた。
シングルスの全国大会では一年生のころからずっと優勝してて、五連覇(れんぱ)してる。
小学生とは思えない技術と運動能力で試合に勝ちまくり、『神童(しんどう)』って呼ばれてるんだ。
いっぽうあたしも千里とのペアでは良い結果を残してるし、この間は全国で準優勝できた。
でも、それがあたしの実力だ、と胸を張って言うことができない。
千里のおかげじゃないかって、どうしても思ってしまう。
ペアを組むのがあたしじゃなければ、千里は優勝できたんじゃないかという気もする。
周りからも、そんな声が聞こえてくるしね。
『鶴巻じゃないほう』とか『鶴巻のお世話係』とか『鶴巻のおまけの小さい子』とか……。
うるさいっつーのっ!
……千里との差はずっと感じてる。
だからこそ、千里を目標に高いレベルでバドミントンを続けてこられたと思う。
けど、香川へ引っ越しする以上、もちろんクラブもやめることになった。
香川でもバドミントンは続けるけれど、環境が変わっても千里のレベルについていくことができるのかな……?
と、ちょっと考えこんでいると、千里があたしのくるくるした髪の毛をなで回してきた。
「うひゃあっ! やめろぉ!」
払いのけるより先に、千里はすばやく手を放した。
「いやー、このふわふわ感を味わえるのも最後かと思うと、さびしくなって」
「あたしは犬じゃない! ……だいたい、会うのが最後ってわけじゃないでしょ」
そう言うと千里は、
「たしかに、そうだよね。また東京まで遊びに来なよ。ゴールデンウィークとか夏休みなら、だいじょうぶでしょ?」
ママとコーチが話しこんでいるのをちらっと見ながら、千里がにこやかにそんなことを言う。
こいつは、本当にあたしを友達としか思ってないな~。
「……まあね。千里はダブルスはどうするの、これから。新しくペアを組む?」
「そうするよ。シングルスもダブルスも、どっちも強くなりたいからね」
千里はあたしから視線をはずすと、
「でもまあ、いそぎはしないかな。ある程度うまい子なら、だれと組んでも変わらないと思うし」
……あの試合の後の言葉と同じようなことを言った。
千里ほどのずば抜けた実力なら、そう思うのかもしれない。
パートナーがだれだろうと、自分の力で勝ってみせるって。
けど、本当にそうかな?
ダブルスの強さって、単純に選手の実力だけで決まるものなの?
あたしがあこがれたペア……日本初の金メダルを取ったふたりは、そうじゃなかった。
自分の気持ちをどう言えばいいかわからず、だまっていると、
「奈央は? 香川でもバドミントン続けるの?」
そう千里に言われ、口をぱくぱくさせてしまった。
続けるに決まってるでしょ!
……と、すぐに言うことができないあたし自身にドキッとする。
これまでも千里のまぶしいくらいの才能を見て、くじけそうになったことがあるから。
ずっと近くにいたのに、いつのまにか千里を遠い存在だと考えるようになっていた。
実力だけじゃなくて、見ているものもちがう。
千里はあたしなんかよりもずっと先を見ている、と感じる。
あの決勝戦で負けたときもそう。あたしはずいぶん落ちこんだけど、千里はちょっと失敗しちゃった、くらいの気持ちなんじゃないかって思う。
このままじゃ、だめだ。一生、千里に追いつけない。
変えるんだ。
環境が変わるなら、あたし自身の考え方も変えちゃおう!
「決めたぁーっ! あたし決めたよ、千里!」
<第2回へとつづく>(10月24日公開予定)
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
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『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』11月9日発売!
信じてみてよ、二人だからできること!
あたし奈央! バドミントンが大好きな小学5年生。
二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合、あたしのせいで負けちゃった。
けれど、このままじゃ終われない!
転校先で出会ったのは、トクベツな才能(!?)をもった、ことりちゃん。
最高の新しいパートナーを見つけた!
でも「スポーツはもう絶対にしない」って完全キョヒ!?
それには、あたしと同じように、「らしさ」を押し付けられたことが関係していて?
「好き」のために一歩をふみ出したいキミへ、勇気をくれる応援ストーリーです!!
作:平河 ゆうき 絵:むっしゅ
- 【定価】
- 770円(本体700円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322067