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ものがたり

新装版が発売予定の『マジック・ツリーハウス』シリーズ第1話「恐竜の谷の大冒険」丸ごとためし読み! 第3回


みんな知ってる大ベストセラー児童書『マジック・ツリーハウス』は、この11月から4冊連続で〈カラー新装版〉を発売いたします!
カバーイラストは甘子彩菜さんの新規描き下ろし&挿絵フルカラー化、そして巻末には勉強に役立つ学べる資料が大充実。そんなリニューアル版の発売を記念して、第1話「恐竜の谷の大冒険」を丸ごとためし読み公開いたします。

わくわくドキドキ、小学生のみなさんの心をつかみつづけた、ジャックとアニーの大冒険! ぜひお楽しみください。

あらすじ

ジャックとアニーは、アメリカ・ペンシルベニア州に住む、なかよしきょうだい。
ある日、ふたりは、森の大きなカシの木の上に、ふしぎなツリーハウスを見つけた。中で本を見ていると、とつぜんツリーハウスがまわりだし、本のなかの世界へ行ってしまう。
ついたところは、恐竜の時代。本物の恐竜たちと、なかよくなったり、追いかけられたり。ハラハラどきどきの大冒険がはじまった。
はたして、ふたりは、ぶじに帰れるのか!?

※これまでのお話はこちらから

やさしい恐竜


「にげよう、アニー!」

 ジャックは、リュックに、ノートとえんぴつをおしこむと、アニーを、なわばしごのほうに、ドンとおした。

「またね、ヘンリー」アニーが、ふりかえって言った。

「早く!」

 ジャックにおされて、アニーはむっとしたが、それでも、なわばしごをのぼりはじめた。ジャックは、あせっているので、なかなかうまくのぼれない。

 なんとかツリーハウスにたどりつくと、ふたりは、すぐに窓にかけよって、丘のほうを見た。

 恐竜は、木の枝いっぱいに咲いた、モクレンの花を食べていた。

 ジャックは、そのようすをぼうぜんと見つめていたが、やがて、がっくりと肩を落としてつぶやいた。

「ぼくたち、やっぱり、ほんとうに、恐竜の時代に来てしまったんだ」

 丘の上の恐竜は、なんとなくサイににていた。目の上と鼻の上に、あわせて三本の角がある。それから、首のうしろに、えりのようなものが広がっている。

「あっ、あれは、トリケラトプスだ!」ジャックが思いだしてさけんだ。

 アニーがそっと聞いた。「その、トリなんとかって、人間を食べる?」

「調べてみよう」ジャックは、恐竜図かんを開き、ページをめくった。

「あったぞ!」

 ジャックは、トリケラトプスの絵を見つけて、説明を読みあげた。


 トリケラトプスは、白亜紀の終わりごろにいた恐竜で、草や木などの葉を食べていた。

 体重は五〜六トン(五千〜六千キログラム)あったと思われる。


 ジャックは、パタンと本を閉じて言った。

「トリケラトプスは、草や木の葉っぱを食べるけど、人間や動物は食べないみたいだ」

「じゃあ、会いにいってみない?」

「じょうだん言うなよ!」

「たしかめたくないの? 生きたトリケラトプスに会った人間は、きっと、世界じゅうで、わたしたちがはじめてよ」

 たしかに、アニーの言うとおりだ。

「……わかったよ」ジャックは、恐竜図かんをリュックに入れてせおった。

 なわばしごをおりるとちゅう、ジャックは足を止めて、アニーに注意した。

「言っとくけど、あの恐竜は、ぜったいに、なでたりするなよ!」

「わかった」

「だきついたり、キスしたりもしないこと!」

「わかった」

「かってに名まえをつけたり、話しかけたり──」

「わかったから、早く行ってよ」

 ジャックとアニーは、地面におりた。

 プテラノドンが、そのようすを、じっと見まもっている。

 アニーが、プテラノドンに手をふって、さけんだ。

「ヘンリー、おるすばんしててね!」

「しーっ!」、ジャックが、口に指をあてて注意した。

 ジャックが先にたって歩き、そのあとを、アニーがついていった。

 ふたりは、巨大なシダや背の高い草のあいだを、しのび足で進んだ。

 丘の下まで来て、ジャックが、大きなしげみのかげにかくれると、アニーも、そのとなりにしゃがみこんだ。

 アニーはなにか言おうとしたが、ジャックにまた「しーっ!」と言われてしまった。

 しげみのすきまから、トリケラトプスが見える。

 信じられない大きさだ。ダンプカーより大きい。モクレンの花をムシャムシャ食べている。

 ジャックは、ノートを取りだして書きこんだ。


★ 花も食べる


 アニーが、ジャックをつついたが、ジャックは、かまわず観察をつづけた。


★ ゆっくり食べる


 アニーはもういちど、ジャックをつついた。

 ジャックがふりかえると、アニーが、身ぶり手ぶりで、なにか言っている。自分を指さし、つぎに恐竜を指さして、にっこり笑った。

 ジャックには、さっぱり意味がわからない。どうせ、またふざけているのだろうと思って、ほうっておくことにした。

 すると、アニーが、いきなり立ちあがった。

 ジャックは止めようとしたが、アニーは、いきおいよく、しげみからとび出した。でも、つぎのしゅんかん、草の上に、ころんでしまった。

「あーっ!」ジャックは、思わず目をおおった。あれでは、トリケラトプスから、まる見えだ!

「アニー、早くもどってこい!」

 ジャックが、声をおさえて呼んだ。

 そのとき、トリケラトプスが、アニーに気づいた。口にモクレンの花をくわえたまま、じっとアニーを見ている。

 ジャックは、思わず大声を出した。

「早く、もどってこい!」

 アニーが、ふりかえって言った。

「ねえ、やさしい恐竜みたいよ!」

「なに言ってるんだ。角が三本もあるんだぞ。つきさされたらどうする!」

「だいじょうぶ。やさしい恐竜だってば」

 トリケラトプスは、だまってアニーを見つめていたが、やがて、ゆっくりと向きを変えると、かるい足どりで、丘をおりていってしまった。

「バイバーイ!」

 アニーは、トリケラトプスに手をふると、ジャックをふりかえった。

「ね?」

 ジャックは、しぶしぶ、ノートに書きこんだ。


★ わりと、やさしい


「わたし、もっとむこうのほうに、行ってみたいわ」そう言うと、アニーはさっさと歩きはじめた。

 ジャックも、あわてて、あとについていこうとした。

 そのとき、草のなかに、キラリと光るものが見えた。

「なんだろう?」ジャックは、草をかきわけてみた。

 大きな金のメダルだった。ひろいあげてよく見ると、「M」という文字がほってある。それもかざりのついた、おしゃれなMだ。

 恐竜の時代に、メダルが落ちているってことは──。

 ジャックは、メダルをにぎりしめて、つぶやいた。

「ぼくたちの前に、ここに来た人間がいる、ってことだ!」

アニー、あやうし!


「アニー、おもしろいものを見つけたぞ!」

 ジャックがさけんだ。

 アニーは、丘の上で、モクレンの花をつんでいる。

「見ろよ! こんなメダルが落ちてたんだ!」

 でも、ジャックの声は、アニーの耳にはとどかなかった。アニーは、丘のむこうに、なにかを見つけたようだった。

「わあ、かわいい!」アニーは、モクレンの花を持ったまま、丘のむこうがわへ、かけおりていってしまった。

「アニー、もどってくるんだ!」

 そう言われて、もどってくるようなアニーではない。

「あいつ、おぼえてろよ!」ジャックは、ぶつぶつ言いながら、ジーンズのポケットにメダルをおしこんだ。

 そのとき、アニーのひめいが聞こえた。

 つづいて、ブォーッという、巨大なラッパを吹いたような、低い音がひびきわたった!

「アニー、どうした!」

「お兄ちゃん! 助けてぇ!」

 ジャックは、リュックをつかむと、丘をかけあがった。

 丘の上から、むこうの谷を見おろしたジャックは、思わず息をのんだ。

 谷には、恐竜の巣がたくさんあって、どれも、小さな恐竜の赤ちゃんでいっぱいだった。

 アニーは、巣と巣のあいだにうずくまっている。そのうしろに、大きな恐竜が、アニーにおおいかぶさるように立っているではないか!

 口が、アヒルのくちばしのような形をしている。たしかあれは、カモノハシ竜の仲間の、アナトサウルスだ! さっきのラッパのような音は、この恐竜が、おこってほえていたのだ。

「おちつけ、アニー! いま行くから!」

 ジャックは、できるだけ静かに、アニーのほうへ近づいていった。すると、アナトサウルスが前足をもちあげて、またブォーッとほえた。これ以上は近づけない。ジャックは腰をかがめて、アニーに合図した。

「アニー、そうっと、こっちへ来るんだ」

 アニーが立ちあがろうとしたので、ジャックはあわてて言った。

「立っちゃだめだ! ゆっくり、はってくるんだ!」

 アニーは、モクレンの花を持ったまま、ジャックのほうへ、そろそろとはい出した。そのうしろから、アナトサウルスが、ブォーッとほえながらついてくる。

 アニーは、足がすくんで、また動けなくなってしまった。

「だいじょうぶ。おちついて」ジャックが、静かな声で言った。アニーは、ふるえながら、また、ゆっくりと進みはじめた。

 ジャックも、すこしずつ、アニーのほうに近よった。もうすこし、あともうすこし……。

 ジャックが手をのばして、アニーの手をつかんだ。アニーを引きよせると、

「頭をさげて!」と言いながら、地面にうつぶせた。

「なにか、かんでるふりをするんだ」

「どうして?」

「犬におそわれたら、そうしろって、いつか本で読んだ」

「あれは、犬じゃないわ」と、アニー。

「いいから、かむふりをして!」と、ジャック。

 ふたりは地面に頭をつけて、草をかんでいるふりをした。

 やがて、アナトサウルスが、ほえるのをやめた。

 ジャックは頭をあげて言った。「ふう。どうやら、おちついたらしい」

「ありがとう、お兄ちゃん」アニーが言うと、ジャックは、すこしとくいになって言った。

「考えてもみろよ。巣があって、赤ちゃんがいたら、そばにお母さんがいるって、きまってるじゃな──」

 ジャックが言いおわらないうちに、アニーは、もう立ちあがっていた。

「アニー!」ジャックは、また、まにあわなかった。

 アニーは、アナトサウルスにちかよると、モクレンの花をさし出して言った。

「さっきはごめんなさい。赤ちゃんが心配だったのね」

 アナトサウルスは、アニーの手から花を取って、口に入れた。

 そして、もっとちょうだい、とでもいうようなしぐさをしている。

「もうないのよ」

 アナトサウルスは、かなしそうな声をあげた。

「丘の上に行けば、もっとあるわ。わたし、とってきてあげる!」

 アニーは、丘をかけあがった。うしろから、ドシン、ドシンと、アナトサウルスがついていく。

 いったい、どうなってるんだ……。

 ジャックは、気をとりなおして、巣を調べてみることにした。

 アナトサウルスの巣は、地面に土をもりあげ、まん中を、丸くほりさげて作ってある。たまごから出て、もう巣の外へはいだしている赤ちゃん恐竜もいる。

 それにしても、ほかの母さん恐竜は、どこへ行っちゃったんだろう。

 ジャックは、リュックから恐竜図かんを取りだして、アナトサウルスのページを読んだ。


 アナトサウルスは、なん組かの親子が、いっしょに子育てをする。

 一〜二頭の母親が巣をまもり、そのあいだに、ほかの母親が、えさをとりにいく。


 ということは、ほかの母親たちも、近くにいるっていうことだ。

「お兄ちゃーん! ねえ、見て!」

 見ると、アナトサウルスは、すっかりアニーにうちとけて、モクレンを食べさせてもらっていた。

「これも、いい恐竜ね!」アニーが、はしゃいで言った。

 すると、とつぜん、アナトサウルスが、ブォーッとほえ声をあげた。

 アニーは、おどろいて地面にふせた。ジャックは、図かんとリュックをほうりなげて、丘の上のアニーのところへ走った。

 ところが、アナトサウルスは、ふたりには目もくれずに、巣のある谷のほうへ、もどっていってしまった。

 なんだか、とてもあわてているようだ。

「どうして、急に行っちゃたのかしら」と、アニーがざんねんそうに言った。

 そのとき、うしろのほうから、ズシン、ズシンと、かすかな音が聞こえてきた。ジャックが、あたりを見まわした。

 ずっと遠くの野原のほうから、なにかがこっちへやってくる。

 ジャックは、心臓がこおりつきそうになった。

 おそろしい顔をした、巨大な恐竜だ。長くて太いしっぽを、右に左にゆらしながら、二本の足で歩いてくる。短い前足を、からだの前でぶらぶらさせている。

 大きな頭。あごまでさけた口。長くてするどい歯が、ギラギラと光っている。

 ジャックが、ふるえる声でつぶやいた。

「きょ、恐竜の王者、ティラノサウルスだ!」


第4回へつづく


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11月刊『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 恐竜の谷の大冒険』発売予定!


著者: メアリー・ポープ・オズボーン 訳者: 食野 雅子 イラスト: 甘子 彩菜

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784048116558

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12月刊『[カラー新装版]マジック・ツリーハウス 女王フュテピのなぞ』発売予定!


著者: メアリー・ポープ・オズボーン 訳者: 食野 雅子 イラスト: 甘子 彩菜

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784048116565

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☆カバーイラストは、甘子彩菜さん新規描き下ろしの壮大なビジュアルで!
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