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ますます注目の「恐コレ」1巻を、期間限定で特別公開するよ。
もう一度ふりかえり読書して、アニメへの準備をカンペキにしておこう!
※公開期間は2026年8月31日23:59までです。
5つ目の町 杉沢村
青森県の山中にあるとされる村。村にたどり着くための
確実なルートは見つかっていないが、
迷い込んでしまった者は二度と帰ってこないという。
かつて村人皆殺し事件が起きたとされ、
怨霊(おんりょう)がすくっているという噂(うわさ)もある。
* * *
ある夏の日の夕方。緑の木々が続く山道を1台の車が走っていた。
長谷川真由(はせがわまゆ)とその家族が、山へドライブにやってきていたのだ。
「こうやって家族そろってドライブをするのは久しぶりね」
「ああ、仕事が忙(いそが)しくて、なかなか休みが取れなかったからな」
助手席に座る母親の美奈子(みなこ)が、車を運転している父親の正文(まさふみ)に話しかける。
「だけど、山しかなかったよ」
後部座席に座っている真由がそんな両親にボヤいた。
車で山頂まで行ってみたが、周りは山ばかりで、真由はあまりいい景色とは思えなかったのだ。
「そうかな。いい景色だったけどなあ」
「ええ、若い頃(ころ)よくここに来て、山頂までドライブしたわよねえ」
正文と美奈子にとって、この山は思い出の場所らしい。
しかし、真由にとってはただの退屈(たいくつ)な場所でしかなかった。
(どうせなら遊園地とかに行きたかったなぁ)
真由はとなりに座っている兄の和也(かずや)を見た。
和也は先ほどからずっとスマホでゲームをしている。
「お兄ちゃんも退屈?」
「まあね。ゲームをしているほうがマシかも」
中学2年生の和也にとって、家族でドライブをするのはあまり楽しいものではない。
半分嫌々(いやいや)。仕方なく付き合っているという感じである。
一方、小学6年生の真由はドライブを楽しみにしていた。
今まで遠足以外で山へは行ったことがなかったので、ワクワクしていたのだ。
だが、その期待はみごとに裏切られた。
『まさかこんなにずっと同じ風景が続くなんて……』
前の席で盛り上がっている両親をよそに、真由はウンザリした気分になっていた。
やがて、日がかたむき、辺りが薄(うす)暗くなってきた。
すると、なぜか美奈子がソワソワし始める。
「後どれぐらいで町に戻(もど)れそう?」
「そうだな、あと1時間ぐらいかな」
それを聞き、美奈子は困ったような表情を浮(う)かべた。
「5時に宅配便が届くのよ。ねえ、近道とかないの?」
美奈子にそう言われ、正文は頭をかきながら、地図が表示されているカーナビを見た。
「近道ねえ……」
と、急に明るい表情になる。
「おっ、この先にわき道があるみたいだな。ここを走れば半分の時間でふもとの町まで戻れるかも」
真由は後部座席から身を乗り出し、カーナビを見てみる。
カーナビの画面には、山道とは別の細いわき道が真横に延びていて、山をぐるりと回らなければならない山道の半分ほどの距離(きょり)で町に帰れそうだった。
「よし、そっちに行ってみるか」
「ええ、そうしましょう」
真由たちはそのわき道を通って帰ることにした。
「ん、あれは?」
わき道に近づいたとき、ふと、正文が声をあげた。
真由たちがその方向に顔を向けると、わき道の入り口に、ひとりの少年が立っているのが見えた。
「どうしてこんなところに?」
真由は思わず首をかしげる。
今、車が走っている場所は山道をかなり登ったところだった。
まわりには山しかなく、人はおろか、他の車とすらめったに出会わないような場所だったのだ。
「山登りでもしてたのかな?」
真由は正文にたずねてみた。
「多分そうじゃないだろう」
「どうして?」
「だって、あの服装だぞ。とても山登りには見えない」
少年は赤い服を着て赤いフードを被(かぶ)り、普段(ふだん)町を歩いているような服装をしていた。
リュックなども背負っていない。
正文の言う通り、山登りをしていたわけではなさそうだ。
「もしかして、車が故障して助けを求めてるのかも」
前を見ていた和也がふとそう言った。
「故障⁇」
「それは大変!」
真由と美奈子が声をあげると、正文も小さくうなずく。
「そうかもしれないな。よし、声をかけてみよう」
正文は少年の横に車を停車させることにした。
「キミ、どうしたんだい?」
車の窓を開けて正文がたずねると、少年は真由たちのほうを見た。
中学生ぐらいだろうか。
フードの奥(おく)をよく見ると、白い肌(はだ)に、大きな澄(す)んだ目とシュッと通った鼻筋、そして薄く綺麗(きれい)な唇(くちびる)が見えている。
少年は、千野フシギである。
「車が故障したのかな?」
正文はフシギにそう声をかける。
真由も窓を開けて答えを待った。
だが、フシギは首をわずかに横にふると、そうではないことを告げた。
「キミたちは今からこの道を通るのか?」
フシギは後ろに続くわき道のほうをわずかに見る。
「ああ、そうだけど」
正文が答えると、フシギは視線を正文の顔に移した。
「この道は通らないほうがいい。この先には絶対に行ってはいけない禁断の村があるんだ」
その言葉に真由たちは首をかしげる。
「禁断の村というのはどういうことだい?」
一同の疑問を代表するかのように正文がフシギにたずねた。
「そのままの意味だ。その村に入ったら最後、村人たちに襲(おそ)われて二度と村から出られなくなってしまう。今までに何人もの旅行者があの村から帰ってこられなくなってるんだ」
「まさか……」
真由はフシギの言っていることが信じられなかった。
「どうして村の人たちが襲ってくるの?」
「きっと、外から来る人たちを嫌(きら)ってるんだ」
「襲われた人たちはどうなるの?」
「多分、殺されてしまう」
「そんな!」
真由は思わずゾッとした。
「そんな村、あるはずないよ!」
真由は怒鳴(どな)るようにそう言う。怖(こわ)い話が苦手だったのだ。
すると、フシギは表情を一切変えず、真由をジロリと見つめた。
「別に信じてもらいたいとは思わない。だけど行かないほうが身のためだ。ちなみにその村の名は、杉–––」
「だからそんな村ないってば!」
真由は怒ってフシギの話をさえぎると、正文のほうを見た。
「お父さん、元の道に戻ろう!」
「しかし時間が」
「そんなのいいから!」
真由にそう言われ、正文はフシギを見る。
「キミも乗っていくかい?」
その言葉に、フードの陰(かげ)から見えるフシギの口もとがわずかに動いた。
「僕のことは気にしなくていい」
「そうか……」
正文は車内にいる真由たちのほうを見ると、「じゃあ、元の道に戻ろう」と言い、車をバックさせて山道に戻ると、前へと発進させた。
「何なのよ、あの子……」
走る車の中で、真由はひとりイライラした気分になった。
見ると、フシギは真由たちの車とは反対の山道を歩いていっている。
すると、それに気付いた正文が口を開いた。
「やっぱり、わき道を通ってみないか?」
その言葉を聞き、真由は思わず正文を見た。
「どういうこと?」
「確かめてみたいじゃないか。本当に禁断の村があるかどうか」
正文は怖い話や不思議な話が大好きだったのだ。
「そんなの嫌だよ」
「だけど、さっき、真由は村なんてないって言ってただろう? じゃあ、わき道を走っても大丈夫じゃないか」
「それはそうだけど……」
真由がオドオドしていると、となりに座っていた和也が「いいね」と笑った。
「面白そう。行ってみようよ!」
和也も怖い話や不思議な話が好きだった。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
「だって、行かないほうがいいって言われたら、ますます行きたくなるだろう? もし本当にそんな村があったら、すぐに逃(に)げ出せばいいんだよ」
「逃げ出すって……」
真由は美奈子に助けを求めようとしたが、彼女(かのじょ)は正文の言葉にあきれ、すでに文句を言うのをあきらめてしまっているようだった。
「まったく、男の人ってほんとそういうのが好きよね」
「お母さん!」
「村があるかどうかなんて興味ないけど、早く家に帰りたいから、わき道を通ることにしましょう」
美奈子がそう言うと、正文が大きくうなずいた。
「よし、行ってみよう!」
正文は車を止め、Uターンする。
そしてそのままわき道へと入っていった。
真由は行きたくなかったが、他のみんなが賛成してしまい、何も言えなくなってしまっていた。
●
わき道を走って、30分ほどが過ぎた。
先ほどよりさらに日が暮れ、ますます薄暗くなっている。
わき道は車が1台通るのがやっとの細い道路で、草木が壁(かべ)のように両側に茂(しげ)っていた。
「ほんとにこんな道の先に村なんてあるの⁇」
もし村があるとすれば、村人たちがこの道を普段から車で通っているはずだ。
しかし地面には草が生い茂っていて、日ごろ車が通っている形跡(けいせき)はなかった。
「もしかしてあの子、噓(うそ)をついてたのかな⁇」
真由がそう言うと、正文は「たしかにそうかも」と答えた。
「あの子は俺たちを驚(おどろ)かそうとしていたのかも……」
そのとき、前方に何かが見えてきた。
「あれって……」
和也が身を乗り出して、前方を見つめる。
そこには、車が1台通れるぐらいの狭(せま)いトンネルがあった。
「こんなところにトンネルがあるなんて」
トンネルには照明がついていないようだ。
「もしかして、あの先に村があるのかも」
「そうかもな。よし、行ってみるか!」
和也と正文は急に張り切りだし、そのまま進むことにした。
「ちょっと!」
怖がる真由をよそに、車はトンネルの中へと入っていく。
トンネルは狭く長く、そして闇(やみ)に包まれていた。
「暗いな」
正文は車のライトをつけ、トンネルの中を照らす。
しかし、ライトは前方の地面を少し照らすだけで、その先がどうなっているかはまったく分からなかった。
「なんだかすごく長いトンネルだね……」
「ああ、ちょっと不気味だな……」
和也と正文が顔をこわばらせながら言う。
「お母さん、私、怖いよ……」
「大丈夫。もうすぐふもとの町へ着くはずだから」
美奈子はそう言うが、不安がっているようだった。
やがて、前方に外の景色が見え、トンネルの出口が近づいてきた。
「良かった、出口だ!」
真由は思わずホッとして大きな息をはく。
車はそのままトンネルを出て、先ほどと同じような細いわき道を走り始めた。
しかし、道はまだまだ続いているようだった。
「お父さん、まだふもとの町に着かないの?」
「あ、ああ、もう30分近く走っているのになぁ」
正文も不思議に思っているようで、思わず首をかしげた。
「あら?」
ふと、美奈子が声をあげた。
「どうしたの? お母さん」
真由がたずねると、美奈子はカーナビの画面を見ていた。
「これ、おかしいわ」
「おかしい?」
真由は美奈子が見ているカーナビの画面のほうに顔を向ける。
すると、画面にはなぜか、森の中が表示されていた。
道路などはない。車は森の中を延々と走っていたのだ。
「お父さん、どうして森の中を走ってるの?」
「ん? お、おかしいなぁ⁇」
その瞬間(しゅんかん)、突然(とつぜん)カーナビの画面が乱れ始めた。
「なんだ?」
そのまま画面がプツリと消えてしまう。
「どういうことだ?」
正文はあわててカーナビを操作するが、画面はまったく映らなかった。
「故障したの⁇」
「こんなこと今まで一度もなかったのに……」
正文はカーナビのボタンをあちこち押(お)すが、やはり画面は映らない。
それどころか、テレビもラジオもつかなかった。
「どうして⁇」
真由は思わず首をかしげた。
すると、となりに座っていた和也が大きな声をあげた。
「これを見て!」
和也は真由たちに持っていた自分のスマホを見せる。
すると、スマホの画面は真っ暗になっていた。
「急に画面が消えて電源が入らなくなったんだ」
和也はスマホのボタンをあちこち押すが、まったく映らない。
「バッテリー切れなんじゃないの?」
「いや、さっき見たときは大丈夫だったんだ」
それを聞き、真由が不思議に思っていると、今度は美奈子が口を開いた。
「私のもだわ!」
電源が入らなくなったのは、和也のスマホだけではないようだ。
調べてみると、正文のスマホも電源が入らなくなっていた。
「一体どういうことなの……?」
真由たちは不気味さを感じた。
「何か変だよ。早く戻ろう!」
「あ、ああ、帰ろう!」
正文はあわててUターンできる場所まで車を走らせようとした。
そのとき––、
ガタンッ!
突然、車が大きな音を立てた。
「きゃあ! なに⁇」
気付くと、車体が前のめりになっている。
道が急な下り坂になり、車が一瞬浮いたような状態になったのだ。
「きゃあああ‼」
真由は思わず怖くなって身を縮めた。
「おい、あれを見ろ!」
身を乗り出した和也が大きな声をあげる。
真由が前を見ると、坂を下った先に村が見えた。
「まさかあれって!」
ふもとの町ではない。
見たこともない小さな村である。
真由は運転席を背後から掴(つか)んでゴクリとノドを鳴らした。
先ほど会った少年が言っていたのは、あの村のことだったのではないだろうか?
真由がそう思っていると、車は坂を下りはじめた。
「ねえ、怖いよ」
そうつぶやいた真由はこわばった表情で、ふと道路のわきを見た。
するとそこには、草木に隠れるように看板が立っていた。
ようこそ 杉■村へ!
看板の杉の後の文字は草に覆われて読めない。
だが、最初に「杉」が付くのだけは分かった。
「杉ってたしか……」
真由はフシギが言った言葉を思い出していた。
『ちなみにその村の名は、杉–––』
「やっぱりここだ!」
真由は目の前に見えている村こそが、禁断の村だと確信するのだった。