第17章 間に合わない!
(たしか、出て左、だったよな。そうっと、そっと……)
おれはそう心の中で唱えながら、ドアを開けて通路へ出た。
もう足音は聞こえない。まひるによると、土屋は見張りに戻って建物の外にいる。久遠さんたちがいる部屋まで、おれたちをはばむものはないはずだ。
まひるの案内で、元のルートに戻る。通路のつきあたりの左にあるドアを開け、別の部屋へ入る。あちこちに積まれた荷物を倒さないように、注意して進む。
けれど、心があせって、足が走りだそうとむずむずする。
久遠さんたちの様子、ずっと確認してもらってない。
……だいじょうぶなのかな。
『あとは、奥にあるドアから、部屋を三つ通りぬけて』
久遠さんたちがいる部屋までの、最後の指示だ。
一つ目の部屋、二つ目の部屋、そして次が三つ目!
おれははやりながら、三つ目のドアを開ける。この部屋は、今までの部屋より少し広い。奥に見えるドアも、両開きの大きなものだ。
あのドア──くもりガラスの向こうから明かりがもれている。
人がいる!
『その先の部屋!』
まひるの言葉に弾かれたように、歩くスピードを上げる。
(朝陽、飛びこむな。まずは中の様子を確認してからだ)
(わかってる!)
星夜にそう返事しながらも、やっぱり足が速くなる。
この先に久遠さんたちがいる。ここまで来れば、星夜と二人でなんとかできる。できるはず!
「どっ、どういうことだ!」
これ、久遠さんのお父さんの声?
驚いてドアの前で立ちどまり、耳をすませる。
耳ざわりな、男のうすら笑いが聞こえる。それに──あらい息づかいも。
『……そんな』
まひるの声が震えている。集中しないと聞きとれないくらい、小さな声だった。
『お父さんが……お父さんがデータを水原にわたしちゃった! 二人があぶない!』
「えっ!?」
その時、ドアの向こうから聞こえた大声で、空気が震えた。
「やっ、約束が違うじゃないか! ニセ札づくりに必要なデータをわたせば、む、娘とわたしの無事は保証すると言っただろう!」
「そうとでも言わなきゃ、警察にかけこまれそうだったからな」
「じゃ、じゃあ最初からわたしたちを殺すつもりだったのか!?」
殺す?
(今すぐ助けに)
(ダメだ!)
ドアノブに伸ばしたおれの手を、星夜が強くつかんだ。
(今、飛びこんだら朝陽もあぶない。まひるが中を確認するまで待つんだ!)
(でもっ、早くしないと久遠さんとお父さんが!)
『今、確認してるから待って! ええっと、部屋が、やたら広くて。中には印刷機と、わたしが見つけたニセ札の試しずりもある。部屋にいる犯人は、水原と、もう一人、火村って男。水原は、夕花梨ちゃんのすぐそばにいて、手にナイフを持ってて──』
「まひる、早く!」
「証拠を残さないためだ」
部屋の中から聞こえてきた声に、ハッとする。
本気だ。このままじゃ、二人が殺される!
『朝陽、待って! もう一人の火村は、もっとキケン! 内ポケットにナイフと、それにっ──!』
もう待てない!
「ごめん!」
星夜の手を、ばっと振りほどいて、ドアを押しあける。
広い。バスケットボールのコートくらいあるスペースだ。その真ん中に──。
男二人と、久遠さんとお父さん。水原に、久遠さんが手をつかまれてる!
おれは部屋に飛びこみ、一目散に走る。
久遠さんもお父さんも犯人たちも、予想もしなかったおれの姿を見て、あっけにとられてる。
ここまで慎重に来てよかった!
「おまえっ、だれだ!」
「さあ、ね!」
おれはすばやく走りこんで、水原のふところに入った。ぶんっと大きく振りあげた足が、水原のあごに命中する。そのまま真上までけりあげると、水原が勢いよく後ろへと倒れた。
──まず一人!
『朝陽、ストップ!』
まひるが何か言おうとしてるけど、よく聞こえない。おれは今まで経験したことのないドキドキを感じながら、久遠さんと父親を背にかばうようにして、ひざをかがめて構える。
よかった、二人とも無事だ。
「そこにいて。あと一人も倒す!」
『あっ、だめ!』
まひるの声がもう一度、聞こえたときには、かけだしていた。
さっきのやつより細くて、身長も百七十センチくらい。
これなら──いける!
ぐっとひざを曲げて、もう一人の男、火村の前でかがみ、けりあげようとした瞬間、
『朝陽、そいつは銃を持ってる!』

ガチャッ
火村が取りだした拳銃がおれにつきつけられたのは、まひるの声と同時だった。
えっ!?
目の前に、丸い銃口が見える。
「くっ……」
だめだ。動けない。
恐怖で全身がすくむ。
こんな恐怖が、あるなんて。
「なんでガキが入ってきてるんだ?」
拳銃を構えた火村は、ぞっとするような冷たい顔を見せた。
この続きは、5月23日に公開予定!
朝陽が大ピンチ!? 久遠さんたちを無事に救い出せるのか――!
たのしみに待っていてね!
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