
神バズリ中☆ファン増加率【No.1】の超人気シリーズ「神スキル!!!」1巻がまるごと読める! 「イッキ読み」を公開中!!
朝陽、まひる、星夜の三きょうだいは、
めちゃくちゃすごい能力〈神スキル〉を持っていた!
ただし、「神スキルを秘密にする」——これが三人の約束だ。
新学期、クラスメイトの様子がおかしいことに気づいた、朝陽たち。スキルを使っての初めての調査をスタート!
危ない犯罪組織? 銃? 印刷工場でニセ札!? 大事件の計画を見ぬいた時、クラスメイトがさらわれて…!
「警察も解決できないなら、おれたちが、敵のアジトに潜入して、人知れず助けだす!」
手にあせにぎるドキドキの物語の幕が開く!
※これまでのお話はコチラから
第12章 できること、できないこと
まひると家に帰ると、こわばった顔の星夜(せいや)がリビングで待っていた。
キッチンでは、ハル兄が夕食の準備をしている。
(朝陽、まひる。上に行こう)
星夜に心の中で言われて、三人、無言のまま階段を上がって、星夜の部屋に入る。
星夜の部屋は物が少ない。机にベッド、本棚、ローテーブルが一つ。他の物はクローゼットにしまわれていて、おれやまひるの部屋と違って物が散らかっていない。
今日はカーペットの上のローテーブルに、アイスティーの入ったコップが三つ置かれている。
星夜が用意してくれていたアイスティーを、おれとまひるはぐびぐびと一気飲みした。
「はー、アイスティーで生きかえった~。星夜、もう一杯おねがい!」
まひるの発言に、星夜はあきれて目を細めた。
「生きかえったならよかったけど、そんなのんきなことを言ってる場合じゃないだろ? 事態は深刻で──」
「ごめん、わかってる。星夜がこわい顔をしてたから、少し緊張をほぐしたかっただけ」
ま、たしかにさっきの星夜は、こわい顔だったな。
おれも、星夜に肩をすくめてみせた。
「それで、おれとまひるの成果は、送ったメッセージのとおり。久遠(くおん)さんのお父さんを脅迫していた犯人たちのアジトと、もう一つの拠点の印刷工場を見つけた。まひるが視たところだと、あの人たちは銃も持ってる危ない組織。しかも、印刷工場ではニセ札を作っていた」
「読んだ。久遠さんの父親は、ニセ札作りのために、お札の製造に欠かせない重要なデータを提供するように脅迫されている──ということだろうな」
「……たぶん」
まさか、こんな大事件につながっていたなんて。
おれが黙ると、まひるが、おずおずと手を挙げた。
「じつは、帰りに夕花梨ちゃんの家に寄ってきたの。とはいっても、家の外から〈視た〉だけ。いちおう、裏取り──調査した情報を確認したほうがいいと思ってね」
「それで、結果はどうだった?」と星夜。
「まちがってなかったよ。ちょっと失礼して、夕花梨ちゃんのお父さんの部屋にあった名刺を、もう一度視て確認したの。夕花梨ちゃんのお父さんは、お札の製造に関する仕事をしているみたい。だから、お札の印刷技術についても特別な知識があるんだと思う」
ふうん、世の中っていろんな仕事があるんだな。
「ええっと、じゃあ、久遠さんのお父さんは本物のお札を印刷する仕事をしてるってこと?」
「ううん、たぶん違うと思う。お金を製造する仕事にもいろいろあるから。お札を作ってるのは国の行政組織、国立印刷局なんだけど、お札を製造するだけでなく、製造技術や偽造防止の方法も研究しているの。お金って、その国の経済の基礎になる大事なものだから、いろんな技術が開発されているわけ」
まひるがスラスラと答えた。さすが勉強家。
「お金は社会に大きな影響を与えるから、勝手にニセモノのお札を作られちゃうと世の中が大混乱するの。お金の偽造は、いろんな犯罪の中でも特に罪が重いんだから」
「そうなんだ。知らなかった」
「久遠さんの父親は、紙幣の印刷を手がける組織に所属しているわけじゃないから、セキュリティが少しあまくて、ねらわれたのかもな。問題は……これからどうするかだ」
星夜が、さっきより深いため息をついた。
「あのお父さんは、家族が犯罪組織にねらわれることを心配して、警察へ相談できずにいる。もし相談したとしても、犯人が逮捕されるまでには時間もかかるし、犯罪組織の全員が捕まるかもわからない。けっきょく、どう動いても危険な目にあうかもしれない」
まひるが、ハッとした。
「でも! このままにしておくのもマズくない? 夕花梨ちゃんのお父さんがどこまで知ってるかわからないけど、あの男たちはあぶないよ。話は聞けなかったけど、事務所の中でも言いあらそいをしてた。犯人たち、すごくあせってるよ」
「それってつまり……何をするかわからないってこと?」
おれがそう聞くと、星夜が静かに言った。
「そうだな。それに、もし久遠さんの父親が家族を守るためにお札の特別な情報やデータをわたしてしまったら、本人も犯罪に協力したことになる。重い罪になる可能性もあると思う」
「そんな!」
あのお父さんには、ニセ札作りに協力する気持ちなんて少しもないのに!
重苦しい空気に、三人とも黙りこむ。

まだ夕方なのに、部屋の中はもう真夜中みたいにしずまりかえった。
しんとすればするほど、ここ数日のできごとが、つぎつぎと頭に浮かんでくる。
家族を守ろうと必死な、お父さん。
不安のなかでも、お父さんを心配する久遠さん。
お互いに家族を守ろうとしてるだけなのに、このままじゃ、二人とも無事ではいられない。
「星夜、まひる。おれたちでなんとかしよう!」
おれは、その場に勢いよく立ちあがって言った。
「放っておけない。何かできることがあるはずだ。警察に通報するとか、久遠さんのお父さんや、久遠さん本人に伝えるとか」
「それは絶対ダメ!」
まひるが、あわてて言った。
「わたしたちが警察に通報しても信じてもらえないよ。神スキルを使って知ったことは、証拠にはならない。わたしたちはウソをついていないけど……」
「だけど!」
「それだけじゃない。もっと危険な事態になる可能性もある」
星夜が、鋭い目で宙を見つめた。
「オレたちが通報すれば、犯罪組織のメンバーは、あの父親が警察に通報したと思うだろう。そうしたら……二人が無事ではすまなくなる」
「それは……」
「それに」
(下手なことをすれば、オレたちきょうだいの神スキルが、人に知られる可能性もある)
おれたち三人の──約束。
「……わかってる」
わかるよ。
星夜とまひるが言いたいことはわかってる。
おれたち三人で──いや、おれたちじゃなくても、大人や警察でも、この事件を解決するのはむずかしい。
それに関わろうとすれば、おれたちのスキルや、おれたち自身だって危なくなる。
スキルを使って、二人が調査に協力してくれただけでも、すごくうれしかった。
そう思わなきゃって、わかってる。
「でも……本当に、何もできないのかな」
スキルがあっても、なんでもできるわけじゃない。それはわかってるけど……。
「朝陽、まひる、星夜。ごはんできたよ~」
一階から明るい声がする。ハル兄だ。
ポンと肩に手を置かれて顔を上げると、星夜がぎこちなくほほ笑んでいた。
おれは心を読めないのに、なぜか胸がチクッとした。
「とりあえず、もう少し考えてみよう。な?」
「……うん」
でも──今のおれには、いい案なんて思いつきそうな気がしない。
それでも、ただ、小さくうなずくしかなかった。