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スペシャルれんさい『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』第4回


だれにも言えない<神スキル>を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって大事件から救いだす! どの巻から読んでもハラハラドキドキ、神オモシロイ☆大人気シリーズ! 物語の幕があく第1巻を、今だけ無料でトクベツ大公開![全7回/2026年1月12日23:59まで]


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※これまでのお話はコチラから

 

第10章 はじめての調査!


 オレ、星夜(せいや)は玄関から外に出ると、周囲に目を向けた。

 土曜日の早朝。朝の日差しがまぶしいくらい、気持ちいい晴れだ。

 とはいえ、心には心配がのしかかっている。

「困っている人のためとはいえ、他人のことを調べるのか……緊張するな」

 久遠(くおん)さんの父親──あの人には何かある、と思う。その予想は、たぶんまちがいない。

 毎日ふつうに暮らしているだけで、悩みや心配は生まれるものだけど、あの時に感じた心は、今までにないものだった。

 そう、あえて名前をつけるなら──息もできないような恐怖心。

「でも、こわがりな人も中にはいるから、やっぱり調査はオーバーのような。だいたい、他人の事情に首をつっこんでいたらキリがないし──」

「だから、まひる。その眼鏡は目立ちすぎだって」

 ……ああ。

 大声にあきれつつ後ろを振りむくと、朝陽(あさひ)が、まひるのダテ眼鏡を指さしている。

 すれちがった人が振りかえってしまうくらいの、オレンジ色の派手な眼鏡だ。

「調査するのに、そんな派手な眼鏡じゃ目立つだろ。変装なら、もっと地味な色にしたら? 銀色とか茶色とか」

「え~? 変装でもかわいさはゆずれないの。はー、朝陽にはこの良さがわからない?」

「わかんない。むしろ、ちょっとバカっぽい」

「ひっどい! わたしに成績で一度も勝ったことないくせに~」

「はあ~!? 体育はいっつも勝ってる! あと、たぶん家庭科も勝てる!!」

 はあ……。

 オレは、二人に見えるように、くちびるに人差し指をあてた。

「その調子で調査をするのか? 朝陽もまひるも、もう少し静かに」

「「はーい」」

 生返事は二人とも息がぴったりだ。こういうところは馬が合うよな。

「それで朝陽、今日はどう調査するんだ? 昨日、具体的なことは考えておくと言ってたけど」

「久遠さんのお父さんを、尾行しよう」

 朝陽は、きっぱり言った。

「やっぱり、あのお父さんには何か事情があると思うんだ。だから、今日、お父さんのことや行動を調べて、集めた情報からその事情をつきとめよう」

「探偵みたいな調査ってことね。賛成」

 まひるも、ダテ眼鏡を頭の上にかけて言った。

「たしか、夕花梨ちゃんが最初にお父さんをあやしいと感じたきっかけは、土日に仕事が増えたことだよね。それなら、土曜の今日は、お父さんの尾行にもぴったりかも」

「だろ? だから少し悪いけど、星夜には、あのお父さんのあとをつけてもらいたいんだ。星夜なら心の声を聞くことで、かくしている事情まで調べられる。だから……星夜、スキルを使ってもらってもいい?」

「わかったよ。他人の心をのぞくことは、できればさけたいけど、今は緊急事態だと思う」

「ありがとう」

 朝陽が、しっかり目を合わせて言う。

 スキルを使うことでオレがいやな思いをするんじゃないかって、心配してくれているらしい。

 ……自分のためなら、いくらでも他人を利用する人もたくさんいるのに。

 本当にやさしいよな、朝陽は。

「でも朝陽、久遠さんの父さんが、もしも悪いことをしていた場合はどうする? たとえば、家族に黙ってよくないことや犯罪行為をしているとか」

「えっ、そんなことある?」

「まあね。もちろん、そういう可能性もないとは言えないでしょ」

 まひるが、うなずく。まひるのスキルも、偶然、人のヒミツを知ってしまうことがあるから、すんなり納得できるんだろう。

 だけど、朝陽は──。

「……でも、久遠さんを助けたい」

 まっすぐな、強い声だ。

「もし久遠さんのお父さんが悪いことをしてるなら、それを止めたい。久遠さんがもっと不幸になるのを黙って見てるなんてイヤだから」

「……そうか」

 そこまで朝陽が思っているなら、もう迷うことはない。

「行こう。朝陽、まひる──久遠さんの家へ」

「よしっ」「ゴーゴー!」

 朝陽の先導で、三人で久遠さんの家へ向かう。まだ早朝だからか、人通りはまばらだ。

 しばらく歩いて目的の家が見えてくると、オレたちは近くの曲がり角にかくれた。

 明るいレンガ色の家──あそこが久遠さんの家か。

「まひる、家の中を視てくれ。あのお父さんがまだいるかどうか」

「うん」

 まひるが目を閉じる。それだけで、ここから家の中が視えるんだから不思議だ。

 ……オレも人のことは言えないか。

「うーん、夕花梨ちゃんのお父さんは……いる。スマホを落ちつきなく、ちらちら見てる。すでに挙動不審だね。今、上着を着ようとしてる。あっ、ポケットの中に名刺入れがある。名刺を視てみるね。氏名、久遠真也。所属名は財務省って書いてある。今から仕事に行くのかな?」

「もう少し遅く来ていたら、すでに外出していたかもな。間に合ってよかった」

「はー、おれは奇跡的に早起きしたのに、まひるが変装グッズ選びに時間かけるから」

「朝陽の服もコーディネートしてあげたでしょ~」

 はいはい。

 ガチャ

 玄関が開き、コツコツコツというくつ音とともに、久遠さんの父親、真也が家から出てきた。

 せわしない。心を読まなくても、あせっているとわかる動きだ。

 向かうのは勤務先か? 仕事というのがウソでなければの話だけれど。

 尾行はもちろん、スキルを持っていることも父親に気づかれてはいけない。

 ──小さなミスにも注意しないと。

 あやしまれないように、心の中で、まひると朝陽に声をかける。

(オレが先頭で尾行するから、朝陽とまひるは距離をとってついてきて。何かあったらメッセージで連絡。いいな?)

 歩きだそうとした瞬間、肩をたたかれる。振りむくと、朝陽がこちらを見ていた。

(星夜、頼んだ)

(了解)

 うなずきかえして、もう一度、様子を探る。

 父親は──あそこだ、二十メートルくらい先を歩いている。

 これくらいはなれていれば、だいじょうぶか。いや、もっと距離をとるか?

 一昨日、顔を見られているから、見つかりそうになったらかくれないと。

 まずは近くの電柱にかくれて、そうっとのぞいてみる。

 まだ父親は立ちどまっている。曲がり角の前でキョロキョロと周囲を見ている。

 やはり何かを警戒しているのか?

 ……よし、歩きはじめた。

 そろそろ、心を読もう。見つからないためにも、調査のためにも、そのほうがいい。

 すうと息を吸い、父親の背中を見て集中する。姿がはっきり見えるから、これくらいの距離なら問題なく心の声を聞けるはずだ。

(だれも、追ってきていないよな……)

 聞こえた。

 不安そうだ。それに、すでに尾行を警戒してる?

(はあ、家に夕花梨と妻を残してきてだいじょうぶだったか? だが、連れてくるわけにはいかない。これも、二人を守るためだ……ああ、やっぱり心配だ! 一度、家に帰るか?)

 ──振りかえろうとしてる!

 オレは心の動きを読んで、父親が振りかえるより先に、自動販売機を見ているフリをして、顔をかくす。それでも背中に、視線を感じる。

 気づかれたか? ……いや、だいじょうぶそうだ。違うことを考えてる。

(だめだ、家に戻る時間はない! 早く行かなければ。待ち合わせに遅れたら、まずい)

 待ち合わせ? 勤務先に行くんじゃないのか?

 どちらにしろ、このあせり方、ふつうの待ち合わせじゃなさそうだ。

 父親がまた歩きはじめる。信号をわたり、駅に入っていく。どうやら電車で移動するらしい。

 後を追って改札を抜け、すぐやってきた電車に、父親とは別のドアから同じ車両に乗りこむ。

 立っている乗客も多いな。この距離なら顔をかくせる──。

(ここにもやつらはいないよな?)

 父親が電車の中を見まわす前に、オレは、つり革を持ちかえるフリをして父親に背を向ける。

 ……ふう、今のは危なかった。

 けれど、心を読んでいれば、かくれるタイミングはつかみやすい。

 不本意だけど、オレのスキルは尾行に向いているみたいだ。

 その後も隙なく尾行する。父親は、三つ目の駅で電車を降り、別の路線の電車に乗りかえた。

 朝陽たちは付いてきてるか? いや、オレは、あの人に集中しないと。

 あっ。

 父親が、車内を移動してドアに近づいている。次の駅で降りるみたいだ。

 電車を降りると、人波にもまれる。この駅は商業ビルが立ちならぶ、にぎやかな街だ。

 人ごみの中、出口へ向かう父親を追って、オレも駅を出る。

 街へ出ても、父親はきらびやかなショーウィンドウや楽しそうに歩く家族連れには見向きもしない。ただただ、暗い顔をしたまま、黙々と歩いている。

 駅から離れて、人がまばらになるにつれ、オレもだんだんと不安になった。

「……はあっ」

 距離をとっても、道を歩くのがあの人とオレの二人だけじゃ、尾行はむずかしいな。

 どうしよう。もっと距離をとるか? 常に心を読んで尾行していけば、なんとかなるか。

 でも、これ以上スキルを連続して使えるのか?

 こんなに長い時間、連続して使ったのは初めてだ。やけに空腹になって、体から力が抜けはじめる。それだけじゃない。

「うっ……」

 頭まで痛くなってきた。だめだ、そろそろ限界が……!

(……着いた)

 その時、父親のしぼりだすような心の声が聞こえた。

 ここが目的地? この大きな入り口の──、

 広い公園。

 石だたみの道を通って、父親が中に入っていく。さっきはあんなにあせって歩いていたのに、今はゆっくりだ。一歩、一歩が、にぶく重い。

 待ち合わせの相手は、よほどいやな人物なのか。

 それでも会うということは、重要な用事のはず。

 いったい、だれと?

 父親は、のどかな公園の中を、あたりを気にしながら歩き、噴水が見えるベンチに座る。

 父親が座ったベンチの背後に背中合わせになるベンチを見つけて、オレも腰を下ろす。

 ここなら、顔も見られずにそばで見張れそうだ。

 緊張しながら、本を出して開く。

 ……待ち合わせ相手を拝ませてもらう。

 コツッ、コツッ、コツッ

 背後から、くつ音がする。父親はベンチに座っている。待ち合わせの相手か?

 その時、父親のとなりに少し距離をあけて座る男が、視界のはしに見えた。

 ──来た!

 本を読むフリをしながら、わずかに見える、ななめ後ろの男の姿に神経を集中する。

 眼鏡をかけた男だ。背は高い。黒い長そでのシャツに黒いズボン──どこにでもいそうな三十歳くらいの大人の男性だ。

 その、鋭いひとみ以外は。

 その目がこちらに向きそうになって、オレは、さっと視線を本に戻した。

(けっ。後ろのベンチに人がいやがる。本なんて読みやがって。ここだとこいつに会話が聞かれるか? ……まあいい、バレるようなことを言わなければいいか)

「おい、持ってきたか」

「もう限界です、水原さん!」

 久遠さんの父親が、小さな声で叫んだ。

「わたしたち家族に、関わらないでください。一昨日の件も、あなたたちのしわざでしょう!」



 一昨日?

 ……久遠さんが連れさられそうになった!

 あの事件は偶然じゃなかった? やはり父親の事情とつながっていたのか。

 オレは心を落ちつかせようと、無理やり本の文字を目で追うフリをする。

 ──だめだ、鼓動がおさまらない。

 水原と呼ばれた男はニヤニヤと笑っている。その気持ちの悪い笑みに、気分が悪くなった。

「あんたが、いつまでもおれたちを待たせるからだ。もう準備から一年以上かかっていて、こっちも切羽つまってるんだよ。早く持ってきてもらわねえと」

「無理です! どんなに言われても、あれはわたせません。何度もお話ししたじゃないですか!」

「お話で解決できるほど、世の中はあまくねえんだ」

 水原は革ぐつのかかとで、ゴンゴンと石だたみをけった。

「いいか? おれたちはこの計画に金をかけてるんだ。もうそろそろ金をかせがなきゃ、大変なことになる。おれたちは、どんなことだってする。あんたは家族が大事じゃないのか?」

(あのデータが手に入るなら、こいつの家族なんてどうなったって知ったことじゃねえ)

 水原の心の声だ。でも、〝あのデータ〟って?

「だ、だったらわたしは、警察にっ」

 バンッ!

 ハッとする。水原が父親をおどすように、くつのかかとを石だたみに強くたたきつけた。

「おれは一人じゃない。組織だ。警察に話すのと、あんたの家族に何かが起きるのと、どっちがいいかな」

 ……なんてやつだ。家族がひどい目にあうと言っているようなものじゃないか。

 水原はいやな笑いを浮かべたまま、立ちあがった。

「とにかく、早く用意して持ってくるんだ。頼んだぜ」

 カツカツカツと、水原のくつ音が遠ざかると、視界のすみで久遠さんの父親がうずくまった。

「ああ……」

 その背中を見るのもつらい。

 けれど、心を読まないわけにはいかない。今こそ──。

(ああ、どうすれば……家族を守るには、あのデータをわたすしかない。でも、それで本当に助かるのか? それに、もしデータをわたしてしまえば、日本をゆるがす大事件になる!)

 日本をゆるがす大事件!?

 叫びかけた口を、あわてて閉じる。緊張でくちびるが乾いている。気持ちを整理しようと、スマホを取りだしてメッセージを開いた。

 あの水原という男は、何者だ?

 このままにはしておけない。徹底的に、水原を調べる必要がある。

『オレはこのまま、父親を家までつける。朝陽とまひるは、あの男、水原を追ってくれ。

 でも気をつけて。あいつは、キケンだ』

 ──とんでもないことになってきた。

 送信のボタンを押すと、メッセージは目の前の画面から、すぐに消えた。


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