だれにも言えない<神スキル>を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって大事件から救いだす! どの巻から読んでもハラハラドキドキ、神オモシロイ☆大人気シリーズ! 物語の幕があく第1巻を、今だけ無料でトクベツ大公開![全7回/2026年1月12日23:59まで]
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第18章 逃げ場のない絶体絶命
ドンッ!
後ろから、勢いよく突きとばされる。けれど、両手を後ろでしばられてバランスがとれない。
おれは勢いよく、コンクリートの床に胸から倒れこんだ。
「いたっ!」
後ろで手首をしっかりしばられて、ろくに動けない。片手を抜けるかと思ったけど、あまかった。無理に動かすと痛いくらいに固くしばられている。
銃をつきつけられて、形勢は逆転した。火村はすぐに水原を起こし、丈夫なロープでおれの手首をしばらせた。身動きが取れなくなったうえに、敵も二人に逆戻りだ。
なんとかその場に起きあがると、目の前に立つ水原を見あげる。その顔には、おれがけってできたあとが残っていた。
「ちくしょう! さっきはよくもやってくれたな! このっ」
「水原、やめろ。それより、ガキの持ち物を調べろ」
「大したもんは持ってないですよ。スマホと、お菓子ぐらいで、武器もない」
「そのヘッドセットを調べろ」
「それは!」
抵抗する前に、水原の手がおれの頭からヘッドセットをつかみとる。
だめだ、まひる。声を出すな!
ドキドキしながら、ヘッドセットに耳をそばだてる水原を見つめる。
「……だれかと連絡をとってたのか? 何も聞こえねえな」
水原はすぐに興味をなくして、火村にわたす。
よかった。まひるが通信を切ったんだ。
……でも、どうしよう。捕まったときのこと、ぜんぜん考えてなかった。
水原と火村の様子からすると、星夜もまひるも、見つかってなさそうだけど……。
水原は、まだおれをにらんでいる。
一方の火村は、スマホを出して、どこかへ電話をかけはじめた。
すきができるか? いや、ダメだ。水原がポケットに手をつっこんで見ている。たしか、ナイフを持ってるはず。両手もしばられてるし、今、おれ一人でどうにかするのは無理か。
(星夜……まだドアのそばにいる?)
心の中で呼びかけても、返事はない。
星夜はまひるにナビしてもらって脱出したのかも。
それはそれでよかった。少なくとも、二人は無事ってことだ。
……少し心細いけど。
「ああ、わかった」
グシャッ
火村は電話を切ると同時に、床に落としたおれのヘッドセットを踏みつぶす。
いやな目だ──人を見くだしたような目。
にらみかえすと、火村は、すぐに高笑いで返した。
「はは、で? 少年、おまえは、なんでこんなところにいる? どうやって入った。出入り口の見張りに連絡したが、どっちもだれも通してないと言ってる。どっちかがウソをついてるのか?」
ウソじゃない。
でも、スキルで侵入したとは言わないほうがいい。
おれは銃口を気にしながらも、ぷいっと横を向いた。
「はっ、だんまりか。まあ、どうやって入ったかなんてどうでもいい。おまえはなんで、ここに来た。だれの指示で来たんだ?」
「…………」
水原が口をはさんだ。
「こいつ、警察の手先なんじゃないすか。警察がおれたちのことに気づいて送りこんだんじゃ」
「んなわけねえだろ。警察が子どもを使うか。きっと、この一大プロジェクトを横からくすねようっていう別の連中のしわざだ。で、どこまで知ってんだ?」
「…………」
「言うつもりはないか。それなら言わなくてもいい。どうせここで、三人とも死んでもらうことになる」
火村が銃を持ちあげ、ガチャリ、と不気味な音とともに構える。
銃口が、おれ、久遠さん、久遠さんのお父さんへと順番に向いた。
銃を向けられるたびにビクリと震えるお父さんやおれを見て、火村は笑った。
「はは、あはは」
……いやだ。おれが死ぬのも、久遠さんとお父さんが殺されるのも!
ヤバいときこそ落ちつけ。深呼吸。
火村も、水原も笑ってる。もう勝ちを確信した、人をばかにしたような笑みだ。
これくらい油断してるなら、スキルで銃を奪いとれる?
いや、火村の太い手は銃のグリップをしっかりとつかんでる。よほどの不意を突かなきゃ、銃を奪うのはむずかしい。
じゃあ、逃げる?
さっき突入してきた、背後のドアを振りかえる。
ドアは開いてるけど、半開きだ。
それに、両手を後ろでしばられたまま走ったんじゃ、撃たれて終わる。
「くっ……」
戦うのも、逃げるのもダメ、か。
お父さんが恐怖で震えている。その腕の中で、さっき気を失ってしまった久遠さんは、目を閉じて静かに息をしている。
もう、何もできない。絶体絶命のピンチだ。
……やっぱり無理だったのかも。
おとなしく、あきらめるべきだった? どうせ、できないんだったら……。
そう思ったとき、お父さんが久遠さんをぎゅっと抱きしめた。
久遠さんを守るように、力強く。
「……あ」
違う──そういうことじゃない。
できるから、やろうとしたわけじゃない。できないから、そこであきらめるわけじゃない。
──スキルがあるからじゃない。
久遠さん。そして、久遠さんを守ろうとするお父さん。
どちらも助けたいから。
だから、あきらめない……なんとかできる方法を探す!
一瞬でも、相手のすきを作りだす。助けるチャンスをつかむために!
奥歯をぐっとかんで、集中する。
おれは絶対に、あきらめない!
「動……けっ!」
息を止めて全力をこめる。大きな棚がかすかに震える。今までなら、動かせない大きさだ。
でも、今だけは──少しだけでも!
頼む!
ガタン!
たくさんのインク缶が積まれた棚が、少し持ちあがって、大きな音を立てた。
やった!? 瞬間、
バァン!
「うっ!」
反射的に、ぎゅっと目をつむる。
耳が痛い! この音。
銃を撃った!?
震える目を開けると、大きなインクの缶が一つ、床に落ちている。そのインク缶に空いた穴から、赤色のインクがもれだしていた。
火村がまっすぐ伸ばした腕の先の銃口からは、白い煙が出ている。
……撃ったんだ。音がしただけで、一瞬で。
これじゃあ、スキルで大きな物を動かしても撃たれるだけだ!
「ちっ、棚板が割れて、インク缶が落ちてきただけか。おれもイラついてるな。よし、決めた」
カチリ──
銃口がこちらを向く。暗い穴がおれのほうを見た。
「まずは、おまえからだ。一番、生きがいいからな」
はあ、やっぱりそうなるよな。
おれは、後ろでしばられた手をぎゅっとにぎり、肩をすくめた。
「……わかった、いいよ」
「何を言ってるんだ、きみ!」
立ちあがりかけたお父さんに、さっと銃口が向く。
「おっと。座っとけよ。まだあんたの順番じゃない」
「……おじさん、おれはだいじょうぶだから。その子についててあげて。お願い」
「あ、ああ……」
お父さんが久遠さんを守るように抱きしめると、火村が笑った。
「はは、こいつの次はおまえらだけどな。よし、じゃあ、少年、さよならだ」
銃口が、ふたたびこちらに向いた。
ドクン、ドクン
動悸がして胸が痛い。
きっと今が、おれが話せる最後のチャンスだ。
「あー……最後に一つだけ言わせて。おれを殺す前に、ネックカバーを外して、正体を確認しておいたほうがよくない?」
「なに?」
「ほら、おれがこわくなって避けたり身をかがめたりしたら、弾が顔に当たって、おれの正体がよくわからなくなるかもしれないじゃん。それだと、後から困るでしょ」
「……たしかにな」
火村は拳銃を構えたまま近づいてくると、おれの顔を上からのぞきこんだ。
おれは、ひゅっと息を吸う。
これが──最後の勝負。
「最後に、その生意気な顔を見せてもらおう!」
火村の左手が、まひるが用意してくれたネックカバーのはしにかかった。