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※本記事内に出てくる「謎」の文字は、正しくは「二点しんにょう」
さなちゃんの手紙に隠されている、「たんじょうびにほしいもの」は? アイが読み解きます!
※第1~3回を読む
2. たんじょうびにほしいもの
【解決編】
「それ、イチゴの模様でしょ?」
私がそう言うと、リンが「そう言われれば」と、うなずいた。
「小さい子がよく使う柄なんで、気にしてなかった」
「私たちも昔、同じようなレターセットたくさん持ってたよね。便箋と封筒がおそろいの柄の」
「うんうん、懐かしいね」
「たぶん、さなちゃんもおそろいの封筒持ってるんだけど、わざと使わなかったんじゃないかと思うの。便箋の模様とそこに書かれた文字だけに注目してほしくて」
「ってことは、つまり、イチゴの模様だから……?」と、パパが首を捻る。
「最初は、一・五(イチ・ゴ)で、一文字目と五文字目を読んでいくのかな? って思ったの。だけど、それじゃ文章にならなくて。それで、じゃあ十五かなって」
私がそう言うと、リンが「そっか!」と、早速文字を十五ずつ数えて読み始める。
「『さ』…………小さい『つ』…………『か』……あれ、えっと……」
「こうするとわかりやすいよ」
私は事務室から方眼紙を取ってきて、こんなふうに手紙の文章を書き写した。
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「なるほど、これはすごいな!」
パパがうんうんと頷く。
安藤さんはまだ怪訝な顔をしている。
「一番右の行を上から読んでみて」
リンにそう言われて安藤さんが「さっかー……」と読み始める。
「おお、『さっかーぼーるがほしい。』か! なあんだ、そうだったのか。そう言えば春から何かスポーツ教室に通い始めたって言ってたよ。そうかそうか、サッカーボールか」
安藤さんは自分の膝を叩き、顔をクシャクシャにしてしばらく笑った。
「いやあ、かしこいお孫さんですねえ。まるで『グロリアスコット号事件』の暗号みたいじゃないですか」
パパが仕切りに感心する。「グロリアスコット号事件」っていうのは、シャーロック・ホームズシリーズの短編の一つで、恐ろしい警告文が暗号で送られてくる話だ。
「自分の呼び方が変わるのも、簡単な漢字を平仮名で書いてるのも、文字数を合わせるためだったんだね。さなちゃんすごい!」と、リン。
「はは、そんなにほめられると照れちゃうなあ」
安藤さんは自分のことのように嬉しそう。
「だけど、すごいと言えば、アイちゃんとリンちゃんの名探偵ぶりはすごいね。私が全然わからなかった手紙の謎をあっという間に解いちゃうんだもんなあ。二人ともさすがマスターの子だよ」
安藤さんのほめ返しに、今度はパパがちょっと大袈裟すぎるくらいに照れる。
「解いたのはアイで、私は何にもしてないよ」
リンが謙遜する。
「私だって、大したことは……」
私も小さな声で言う。
安藤さんは「ごちそうさま!」と、カウンターにお金を置くと、急いで出ていった。駅前のスポーツショップがまだ開いている時間だから、一番良い子ども用のサッカーボールを買うのだそうだ。
「ただいま」
安藤さんとほぼ入れ違いに、ママが帰ってきた。
「そこで安藤さんに会ったけど、何かあったの?」
「うん、あのね……」
「お孫さんの手紙が……」
リンとパパが口々に説明を始める。
私が方眼紙を事務室に片付けて戻ってくると、ママとパパとリンは、カウンターの金色の照明の下で楽しそうに笑っていた。三人とも背が高くてキラキラしてて、私なんかが入る隙間はないんじゃないかって、ちょっと不安で胸が痛くなる。
「ね、アイ。安藤さんすごく喜んでたね」と、こっちを振り向くリンの顔はママにそっくりで、双子なのに私にはあんまり似ていない。
「うん、よかったね。さなちゃんもきっと喜ぶね」
考えすぎ、考えすぎ。二卵性なんだから似てなくても当たり前。リンに返事をしながら、私は自分にそう言い聞かせる。
だけど、さっき、「二人ともさすがマスターの子」って安藤さんが言った時、パパの照れ方がちょっとわざとらしいって言うか、大袈裟すぎだったような……。
最後のお客さんが帰って、片付けが始まる。リンが椅子をテーブルの上に伏せて置いていき、私は掃除機をかけながらその後についていく。
外はもう薄暗くて、公園通りに面した大きな窓には店内の様子が映っている。
シャツとエプロンとスカーフとベレー帽。カフェの制服を着て窓に映る私たちは、ちゃんと似て見える。大丈夫、大丈夫、気のせいだよきっと。
——もしかして、私はママとパパの本当の子じゃないのかも——
時々頭の中に浮かんできてしまうその疑いを、私は必死で振り払った。
さなちゃんが一生懸命考えた手紙、すごい! そしてどうやら、アイには疑っていることがあるみたい。
次回は傘の謎! 4月28日(金)公開!