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80万部突破の「こわいもの係」や「キミト宙へ」シリーズの
人気作家・床丸迷人さんの新シリーズ「しゅご☆れい探偵」を一足早く公開中です!
しゅご☆れい探偵➀ 床丸迷人・作
『たからさがし』
1 スマホの落としもの
「あっ、秀悟(しゅうご)! 見て見てアレっ!」
ゴールデンウィークを目前にした、うららかな春の日の午後。学校からの帰り道のこと。
今日は宿題が多すぎるだの、今夜の夕食は昨日のシチューの残りだの、たあいのないグチをこぼしながら歩いていた立花玲(たちばなれい)がとつぜん、
「スマホが落ちてるっ!」と、はねるようにダッシュでかけだした。
は?
あっけにとられながら、玲(れい)が走っていく先に目をやると、歩道の上にスマホが一台、ポツンと置いてある。
『落ちている』ではなく『置いてある』。
すこしヘンな表現かもしれないけど、そのときのオレには、そっちのほうが不思議としっくりきていた。
玲は赤のランドセルをカシャガシャ揺らしながらかけていき、なんのためらいもなくスマホを拾いあげた。
「パパとママが使ってるヤツに似てる……けど、見たことないロゴだなぁ。外国のメーカーかな? あ、ロックが掛かってない。セキュリティー意識があまいなぁ、この人。スマホ落とすようなうっかり屋さんで、そのうえ不用心だなんて最低最悪の組み合わせじゃない?」
江品(えしな)小学校六年一組の学級委員長で、学年一の秀才とのほまれも高い彼女だけれど、やや毒舌(どくぜつ)気味なのが玉にキズである。
「……あれ、なんだこれ? ヘンすぎる」
玲は眉間(みけん)に軽くシワを寄せると、スマホの画面に人さし指を伸ばそうとした。
「ちょ、ちょっと待てって」
オレはあわててかけより、その手をおさえた。「だめだめだめ」
「ええ、なんで?」子犬を思わせる、くりっとしたひとみで、キョトンとオレを見る。
「いやいや、『なんで?』じゃないよ。だめだって、勝手に人のスマホいじっちゃあ。もし持ち主がヤバい人だったりしたらマズイだろ?」
「あ……、それはそうだね」
玲は素直にうんうんとうなずいた。「たしかにこのスマホの持ち主って、ちょっとヘンな人みたいだし」
……え?
なんでそう思うわけ?
「ほら見てよ、コレ。アイコンが二つしかないんだよ」と、オレの顔の前にスマホをかざす。
うわ、ホントだ。
液晶画面に受話器とカメラのアイコン。ただ、それだけ。
ふつうスマホのトップ画面には、いろいろなアプリのアイコンがズラリと並んでいるものだ。じっさいオレの親のスマホもそうだし。
それにくらべるとコイツの画面は超スカスカで、なんとも言えない、うらさびしさをかもしだしていた。
「なんだか、しょんぼりした気分にさせられるな」
「『電話』と『カメラ』以外の機能は使わない人なのかな?」
だとしたら、その人にとってスマホを持つ意味は、いったいなんなんだ?
「まぁいずれにせよ、他人のスマホを勝手にいじくり回すのはよくないって」
「じゃ、どうするの?」
と言われて、あたりを見まわすも、相談できるような大人の人は見当たらない。
あ、そうだ……と、ポンと手を打つ。
「交番に行って、おまわりさんに相談しよう」それが一番間違いない方法だ。
「交番? また学校までもどる気?」と、玲はげんなりした顔で口をとがらせた。
オレらが通う江品小のそばにある交番が、一番近い。
「今来た道をまたもどるのって、面倒すぎだよ」
「しかたないだろ。とにかくスマホはオレが預かっとくから、ひとっ走り交番まで行ってきて」
「え? なんで? 二人で持っていけばいいじゃん」
「落とし主がさがしに来るかもしれないだろ。それに勝手に持って行って、持ち逃げの泥棒あつかいされたらイヤだし」
「あ……うーん、そっか。でも、なんであたしが走る役? 将来おまわりさんになりたいって夢がある秀悟が行けばいいのに」
……なんで?
「今のうちから正直でまじめな人間性をアピールしておけば、警察官採用試験の時にぐっと有利に……」
なるわけないだろ。
っつーか、落としものを警察に届けるのは、善良な一般市民ならだれでもフツーにやるべき、あたりまえのことなの!
「玲は走るの得意だろ。春の運動会もクラス代表リレーの選手になる予定だし」
勉強ができる上に、スポーツも万能の玲。
まったく天は二物をあたえすぎだ。同じ小学六年生という立場でこの差って、いろいろヒドすぎると思う。
「ランドセルはオレが持っててやるからさ」
「もう、しょうがないなぁ」
ぶつぶつこぼしつつ、玲が背負っていたランドセルを下ろそうとしたそのとき。
ヴヴヴ……ヴヴヴ……
スマホが振動した。
マナーモードに設定されているようで、着信音は鳴らない。
「はい、もしもし?」
あっ……と言う間もなく、玲が応答した。
オレらはまだ小学六年生なので、自分のスマホはもちろんまだ持っていない。
けど、家では両親のスマホをあっちこっちいじって使いなれている現代っ子だ。ほとんど反射的に反応して出てしまったのだろう、玲の一連の動作はあまりになめらかすぎて、止めるヒマはなかった。
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あぁ、もう! だめだろ、勝手に出ちゃあ。
無言のしかめっつらで抗議の意を示すと、玲は、ゴメンついつい……といった感じに首をすくめ、舌をペロッと出してみせた。
やれやれ。自分だってかなりのうっかり屋じゃないか。まったく。
ま、とは言え、電話をかけてきた人物がズバリ落とし主その人だったりしたら、それはそれで話が早い。仮に本当にヘンな人みたいだったら、スマホを元々落ちてた場所にもどして、さっさと逃げることにしよう。
などと、やや無責任な算段をしていたら、
「……え? あ……あ、はい。います……けど……。はい」
玲がなにやら不思議そうな顔でやりとりしてから、ずいとオレにスマホを差しだしてきた。
「秀悟」
「ん? なに?」
「この電話、秀悟あてだった」
…………は?
口が勝手にパカと開いた。
え、えっと、いやいや意味わかんないけど。
なになに、どういうこと?
「あたしに言われてもわかんないよ。ちいさな女の子の声で、『遠野秀悟(とおのしゅうご)くんに代わってください』って言うんだもん」
え? ええ?
いきなりのトンデモ展開に、オレはただ絶句するしかなかった。
〈第2回へと続く〉
次回の更新は2月14日(月)を予定しているよ☆
楽しみに待っててね!
作:床丸 迷人 絵:雨宮 もえ
- 【定価】
- 748円(本体680円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046321527