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※本記事内に出てくる「謎」の文字は、正しくは「二点しんにょう」
パパとママが作った「謎解きカフェ」の今月の謎、「おかしなラテアート」の解決編。アイの推理を聞いてみよう!
※第1回を読む
1. おかしなラテアート
【解決編】
「こっちのラテは一応見た目通り『時計』を表してる」
エプロンのポケットからボールペンを出して、紙ナプキンに「時計」とかく。
「だけど、この時計の絵はおかしい。6がある場所は普通なら3なはず。それに長針が真下を指す時、短針は真横を指さないものでしょ? でも、こっち向きにすると……」
私は取手を持って、カップをくるりと逆さまに回した。
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「これで、普通の9時ちょうどの形になる」
「次に……」と、もう一つのカップを指差す。
「シロちゃんの方のは、『石』ってかいてあるカフェラテの量がすごく少ない。だから『石』が『少』ないで、『砂』」
さっきかいた「時計」の字の上に、「砂」とかき足す。
「これで『砂時計』。つまりこの絵に何か秘密がかくされているはず」
私は立ち上がり、壁の「砂時計」の絵に近づいた。
「この絵は、このままでもちゃんとした『砂時計』に見えるけど、時計のラテアートを正しい向きで見るには、回さないといけなかった。だから、この絵も……」
額に手をかけて、逆さまになるようにぐるっと回すと、絵は砂時計の砂が落ちている様子に変わり、ひらひらとカードが一枚落ちてきた。
「ほら、無料ドリンク券ゲット」
「さすが、あっという間に解いちゃったね」
ママたちがパチパチ拍手してくれる。
「そりゃまあ、私たち小さい頃からさんざん仕込まれてきたし」
謎解きが大好きなうちの両親は、私とリンにはもちろん、しょっちゅう遊びに来ていたシロちゃんにも、山ほどの問題を出した。おかげで私たち三人は、ちょっとした謎ならすぐ解けるように育ってしまったのだ。
と言っても、何度も練習すれば九九が速くなるのとおんなじで、こんなの大したことじゃない。九九と違ってあまり役にも立たないしね。
「確かに、アイには簡単すぎか」
パパがブツブツ言い出した。
「でも、あのお客さんたちだって、もう少しじっくり考えてくれれば解けたかもしれないし、解けないからって、あんなに怒らなくてもなあ……」
え? それは違うよ。——そう思ったのが顔に出てしまったらしい。シロちゃんがめざとく食いついてきた。
「何? アイには何でお客さんが怒ったかわかるの?」
普段はクールなくせに、シロちゃんは謎が絡むと変に熱心になる。ママもパパもそうだ。こうなると納得するまでしつこく聞かれるから、ちょっと面倒だけどちゃんと説明するしかない。
「お客さんは、謎解きをする前に怒って帰っちゃったんだよ」
私は二つのカフェオレカップを並べてみせた。
「お客さんが二人で来るでしょ? さっきパパがカップルって言ってたから、デートかもしれない。で、二人とも同じカフェラテを注文した。なのに出てきたのは、一人にはおしゃれな時計のかいてあるラテ、もう一人には『石』ってかいてあって、しかも量が半分しかないラテ。……うちが『謎解きカフェ』だってことをお客さんがもし、知らなかったら?」
「……そっか、そりゃ怒るね」
三人がため息をついた。
うちのカフェに来るのはミステリー好きな人が多い。毎月恒例の謎を楽しみに来てくれるお客さんも大勢いる。
でも、全然ミステリーに興味なんかなくて、たまたま通りがかりだったり、スイーツ目当て(うちのスイーツは結構評判がいい)だったりのお客さんも多い。そんなミステリーっ気の無いお客さんに、『石』ってかいた明らかに少なすぎるカフェラテを出したら、気を悪くするに決まってる。
ママもパパも、それからシロちゃんも、謎解きの部分に集中するあまり、こういうあたりまえのことが、たまに見えなくなっちゃうんだよな。
「そうすると、この『石』の謎かけは使えなくなるなあ。うーん、どうしよう?」
パパが天井を見上げる。
「うん、『砂』を表す何か別のものがあればいいんだよね。砂って言えば、……あ、そうだ、ちょっと待っててね」
私は三人をその場に残したまま、カウンターにあるものを取りにいった。
「ほらこれ」
取ってきたもの——紙の包みに入った角砂糖と、水性ペンをテーブルに置いても、みんなキョトンとしている。
「これがどうしたの?」
私は、角砂糖の包みにペンでこうかく。
『−10』
「こうやって、時計のラテと一緒に出せば……」
時計のラテアートがかいてあるカップを最初と同じように逆さまにしてから、ソーサーに角砂糖の包みを置く。
「なるほど。さすがアイだ」
シロちゃんがポンと手を打つ。
ママとパパも笑い出す。
「そっか、こうすればよかったんだ」
「でも、すごいぞ! これなら、ラテを注文するお客さんが一人しかいなくても、謎が出せるじゃないか!」
……わかるよね?
『砂糖』引く『10(とお)』で『砂』ってことだよ。
チリリンと表口が開く音がして、お客さんが入ってきた。
「あの、今日から新しい謎ですよね? 挑戦したいんですが……」
「「「「いらっしゃいませ」」」」
すっかり元気になったママとパパ、それにシロちゃんと私は声を合わせてお客さんを迎えた。
「今月の謎」だけでなく、お客さんが怒ってしまった理由まで解いたアイ。
次回は手紙の謎にいどみます! 4月26日(水)公開!