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映画「天気の子」、ドラマ「ブルーモーメント」の気象監修を務める荒木健太郎氏による、「すごすぎる図鑑シリーズ」の最新作『最高にすごすぎる天気の図鑑』。
最高におもしろくて興味深い気象のトリビアを紹介しつつ、今回は身近なものを使った実験や観察も満載です!
連載第2回は、「すごすぎる空と文化のはなし」の中から「文化の日が晴れやすいって本当?」「『枕草子』を気象学的に考えてみたら」「天気が勝敗を左右した歴史上の戦いがある?」「天気が勝敗を左右した歴史上の戦いがある?」を紹介します!
※本連載は『最高にすごすぎる天気の図鑑』から一部抜粋して構成された記事です。
文化の日が晴れやすいって本当?
11月3日の文化の日は、晴れやすい「晴れの特異日」といううわさがあります。本当か調べてみました。
特異日は、その前後の日に比べて統計的に特定の天気の現れる割合が多い日のこと。そこで過去30年間の東京での天気の出現率から、特異日らしさを調べました。
その結果、東京で最も晴れの特異日らしいのは9月5日で、文化の日は365日中270位と、全然特異日らしくありませんでした。晴れの出現率では文化の日は121位で、1位はクリスマス前日。上位がほぼ12〜2月なのは、西高東低の冬型の気圧配置になると太平洋側は空気が乾燥し、東京が晴れやすいことの表れです。
特異日に科学的根拠はありませんが、もともと11月3日は明治天皇の誕生日で、明治時代はそれを祝う「天長節」の日でした。その後に小説家の夏目漱石や森鴎外も作品中で「晴れの天長節」にふれており、明治の末には文化の日の晴天はことわざになっていたのだとか。
東京の晴れの特異日らしさランキング
東京の晴れの出現率ランキング
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1月10・31日、12月28・29・31日も同列3位。過去に「体育の日」だった10月10日も晴れやすいといわれることがあるが、東京での晴れの特異日らしさは22位、晴れの出現率は103位(60.0%)だった。なお、地域によって出現率や特異日らしさは異なる。
豆知識
9月26日は「台風がやってくる特異日」といわれることがあります。これにも科学的根拠はありませんが、過去に大きな災害をもたらした洞爺丸台風、狩野川台風、伊勢湾台風がこの日にやってきたことに由来しているようです。
『枕草子』を気象学的に考えてみたら
国語の教科書にも登場する『枕草子』。平安時代中期、清少納言が書いた日本三大随筆のひとつです。ここでは、枕草子を気象学的に読み解いてみましょう。
まず、春は曙(日の出前の薄明の空)が素敵で、紫がかった雲が細くたなびいている様子を取り上げています。春で大気中のチリが多くレイリー散乱のよくきく薄明のとき、巻雲などがまだ焼けずに暗めの紫になっている状況と考えられます。夏は雨も趣があるということで、大気の状態が不安定で発達する積乱雲による雨が考えられます。雨の匂いも素敵ですよね。秋は夕暮れというのには同感で、高い空だけに雲が現れやすいので、盛大に焼ける条件も整いやすいです。そして冬は雪だけでなく早朝の霜も風情があるというあたり、清少納言はよくわかっています。
こうして改めて枕草子を読み返すと、清少納言は自然をよく観察し、愛でていたことがわかります。現代でもこの姿勢は見習いたいものです。
清少納言『枕草子』原文
春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる。
夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。螢の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は、夕暮。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
冬は、つとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎ熾して、炭もて渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりて、わろし。
豆知識
平安時代といえば紫式部が『源氏物語』で、実際に体験したと思われる台風(野分)について述べています。とくに暴風の描写がリアルで、光源氏の息子、夕霧の祖母が「この年になるまで経験したことのない激しい野分」と話すほどです。
声に出して読みたくなるかっこいい風と雷の名前
風と雷には、技名のようでかっこいい名前が多いので紹介します。
風のうち地球規模のものでは、低緯度を吹く東寄りの風の偏東風(貿易風)、日本を含む中緯度の上空を吹く西風の偏西風などがあります。季節を代表する風では春一番や木枯らしが有名です。また、ひとしきり吹く風は一陣(いちじん)、終日吹く風は終風(しゅうふう)、海上の暴風は颶風(ぐふう)、上昇気流で渦を巻くつむじ風は旋風(せんぷう)、風が穏やかな状態は凪(なぎ)など、思わず声に出して名前を読みたくなります。
また、雷の名前も多くあります。気象観測では、雷の音を雷鳴、光を電光、音と光が同時に起こっているものを雷電(らいでん)といいます。夏などに地上気温が上がって大気の状態が不安定で発生する熱雷(ねつらい)、寒冷前線に伴って発生する界雷(かいらい)、それらが組み合わさった熱界雷(ねつかいらい)、台風や低気圧の中心付近で起こる渦雷(うずらい)など、発生要因ごとについている名前もあります。
風と雷も私たちの生活に身近なもの。ぜひこの機会に名前も覚えてみてください。
豆知識
主に西日本で春から夏に吹く南風は真風と呼ばれています。その地域では南風は漁に出る際に大事な風だったため、「いちばん重要」という意味の「真」という字をつけたのだとか。マジか(これがいいたかっただけです)。
天気が勝敗を左右した歴史上の戦いがある?
天気で予定がうまくいかないことがありますが、天気が勝敗を左右したと考えられている歴史上の戦いもあります。
たとえば蒙古襲来として知られる元寇です。鎌倉時代にモンゴル帝国と高麗による日本への侵攻が2度行われ、文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)と呼ばれます。この際、2度にわたって暴風が吹き、蒙古の船団が撤退したそう。弘安の役は台風と考えられていますが、文永の役については諸説あるようです。
また、フランス皇帝のナポレオンのロシア戦役にも気象が影響しています。ナポレオンは1812年にロシアに侵攻し、モスクワを占拠。物資の調達ができず10月に退却を決意しましたが、この年はシベリア気団の寒波が強く、多くの犠牲が出ました。このことからシベリア気団は最強のナポレオン軍を破った冬将軍と呼ばれるようになり、現代の天気予報でも耳にします。
天気予報のない時代、いまよりも天気に振り回されやすかったのですね。
気象が関係したといわれる歴史上の戦い
豆知識
18世紀のフランス革命は、王政から議会政治による民主主義への移行のきっかけとなりました。この直前、各地で火山が大噴火し、その影響で農作物がとれず食糧難に。そして民衆の不満が爆発して革命がはじまったのだとか。
防災や減災に役立つ!
天気や気象は、ふだんの生活に直結していること、空は誰でも観察できることからとても身近で楽しい情報が盛りだくさんですよね。その知識は、じつは防災や減災にとっても役立つんです。楽しみながら、防災にも役立つこの本。大人でも十分たのしめる内容ですので、ぜひ親子で読んでみてください。
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