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すごすぎる雲と生活のはなし【『最高にすごすぎる天気の図鑑』試し読み!】


映画「天気の子」、ドラマ「ブルーモーメント」の気象監修を務める荒木健太郎氏による、「すごすぎる図鑑シリーズ」の最新作『最高にすごすぎる天気の図鑑』。
最高におもしろくて興味深い気象のトリビアを紹介しつつ、今回は身近なものを使った実験や観察も満載です!

連載第1回は、「すごすぎる雲と生活のはなし」の中から「雲の形やどうやって決まる?」「曇り空が続くと気分が落ち込むのは気のせいじゃない」「お風呂で再現!発達した積乱雲の頭」「牛乳でわかる空の色の仕組み」を紹介します!

※本連載は『最高にすごすぎる天気の図鑑』から一部抜粋して構成された記事です。

【特別賞を大発表!!】「すごすぎる雲の研究」みんなの研究結果 >>記事はコチラ

雲の形やどうやって決まる?

 空に浮かぶ雲は、じつにさまざまな姿かたちをしています。そのかたちはどのように決まるのでしょうか。

 雲のかたちを決めるのは、空気の流れであるです。雲は上昇気流が強いとモクモクし、弱いとモクモクせず横に広がります。

 低い空のわた雲(積雲)は熱対流による上昇気流で発生し、雲の底はだいたい平らになっています。これは、低い空の空気が持ち上げられ、ある高さで飽和して雲ができはじめるからです(持ち上げ凝結高度)。上空に寒気が流れ込んで空の上下で気温差が大きいなど大気の状態が不安定なら、さらに持ち上げられた空気はある高さを超えると自ら空を昇れるようになり(自由対流高度)、雄大積雲、積乱雲へと発達します。雲の発達できる限界の高さ(平衡高度)に達すると、今度は横に広がります。これがかなとこ雲です。

 代表的な雲の写真をまとめておきました。雲から空の状況を読み取ってみると、空がますます楽しくなります。


積雲。積雲の底がある程度平らで、どの雲も同じような高さにある。これは持ち上げ凝結高度がほぼ同じだから。


 


積乱雲。前線や山の斜面などで空気が無理やり持ち上げられ、自由対流高度を超えて発達。かなとこ雲が美しい。


空気の持ち上げと積雲・積乱雲の発達



  豆知識  

熱対流はフランスの物理学者アンリ・ベナールが1900年に発見し、ベナール・セルとも呼ばれています。お椀に入れたおみそ汁がモワモワと上下に動くのも同じ原理で説明することができます。身近に楽しい物理があるものです。

十種雲形の雲
雲は高さや見た目から10種類にわけられ、積雲と積乱雲に、巻雲から層積雲までの雲を合わせて十種雲形といいます。とくに巻積雲・高積雲・層積雲は風の影響で見た目が大きく変わります。

 


巻雲。すじ雲。氷のつぶでできていて、風に沿って流され、なめらかな見た目。


 


巻積雲。いわし雲・うろこ雲。高い空の上昇気流に伴って発生。小さなつぶつぶに見える。


 


巻層雲。うす雲。前線や低気圧がくる前に高い空に広がる。上昇気流は弱い。


 


高積雲。ひつじ雲。上空の上昇気流に乗って発生。空気が乱れてモクモクしている。


 


高層雲。おぼろ雲。空一面に広がる。雨が降る直前は下降気流で雲の底が乱れる。


 


乱層雲。雨雲・雪雲。雨や雪を降らせ、雲の底は下降気流で乱れていることが多い。


 


層雲。霧雲。地面に近い空に現れる。霧っぽい見た目。気流の乱れで姿がすぐ変わる。


 


層積雲。くもり雲。空を曇らせる代表格。波っぽいところには大気の波がある。


 

風の影響を受けた雲


レンズ雲。上空の強風に乗ってツルッとしやすく、レンズのような見た目。輪郭がはっきりしていることが多く、細長くなることもある。天気がくずれる前ぶれにも。風雲、さや雲とも。


 


大規模なレンズ雲。


 


波状雲。空気の波の山の上昇気流で雲ができ、谷の下降気流で雲が消える。


曇り空が続くと気分が落ち込むのは気のせいじゃない

 空が曇っていると気分が沈みがち……。そんな経験はないでしょうか。じつはこれには理由があります。

 それは、気分や意欲をコントロールしている脳内物質であるセロトニンの分泌量が減るためです。セロトニンには気分が落ち込みすぎたり、興奮しすぎたりするのを抑える働きがあります。目から強い光が入ると目の奥の細胞が刺激され、セロトニンの分泌量が増えることで、気分が落ち込みにくくなります。

 曇り空が続くと、太陽の光が地上を照らす日照が不足する上に、光の弱い屋内にこもりがち。すると、セロトニンの分泌量が減り、気分が落ち込みやすくなるのです。実際に、曇りや雪の多い冬の日本海側では気分が落ち込む人が多いことがわかっています(ウィンター・ブルー)。

 曇りや雨、雪の日でも、太陽のある方向の空を見れば、目に入る光の量が増えます。気分が落ち込みそうな天気でも、屋外で散歩をして空を見上げるのがおすすめです。

 


一面の曇り空


曇り空で気分が落ち込んだら……


光が不足するとメラトニンという脳内物質の分泌量も減り、眠りにくくなる。朝に光を浴びれば分泌量が増えて寝つきが良くなるので、雨や雪の日でも朝にはカーテンを開けて光を浴びよう。


  豆知識  

セロトニンの働きを高めるには約5000ルクス(光の量の単位)の光を30分〜1時間、目に入れると良いそうです。曇りの日の屋外がこのくらいで、屋内では蛍光灯の下でも300〜800ルクス。やはり屋外に行くのが効果的です。

お風呂で再現!発達した積乱雲の頭

 積乱雲は災害をもたらす雲だからこそ、よく知って、上手な距離感で付き合いたいものです。そこで、お風呂で積乱雲のしくみを感じましょう。

 限界まで発達した積乱雲の頭(上部)は横に広がり、かなとこ雲をつくります。非常に発達した積乱雲では、かなとこ雲の上部にモクモクした構造が現れることがあり、この現象はオーバーシュートと呼ばれています。モクモクしている部分はオーバーシューティングトップといい、強い上昇気流が限界を少しだけ突破して、下向きに押し戻されているところです。

 これをお風呂で再現してみます。浴槽に張ったお湯のなかに、お湯を出しているシャワーを入れて上向きにします。すると、シャワーの勢いで水面から少しだけ盛り上がったお湯が重力に引っ張られて、下向きに戻っていく様子を観察できます。これがまさにオーバーシュートです。

 お風呂は積乱雲に加え、湯気や結露で雲や雨のしくみもわかる、素敵な空間ですね。


シャワーヘッドの種類によっては、お湯につけると故障の原因になるものもあるので、事前に確認しよう


 



  豆知識  

お風呂で積乱雲のオーバーシュートの実験をすると、シャワーを中心に水面が波打ちます。この波は重力で生まれたもので、重力波といいます。ナミナミした波状雲ができるのも、大気中の波である大気重力波が原因です。

牛乳でわかる空の色の仕組み

 青い空に真っ赤に焼ける空。そんな空の色のしくみは、牛乳でわかります。

 牛乳の大部分は、カゼインミセルという、可視光の波長の半分以下の大きさのつぶで構成されています。可視光がその波長より小さいつぶにあたると、波長の短い青などの光が強く散らばるというレイリー散乱、そして可視光の波長と同じか少し大きいつぶにあたると色に関係なく散らばるミー散乱が起こります。牛乳に光があたると一度カゼインミセルでレイリー散乱した光が別のつぶでも散らばる多重散乱が起こり、牛乳は白く見えています。

 水を入れた500㎖のペットボトルに牛乳を1滴たらし、何本か並べてライトの光を側面からあてると、ペットボトルがそれぞれ青から暖色に色づきます。これは、カゼインミセルによるレイリー散乱のためで、日中の空が青く、朝や夕方の空が焼けるのと同じしくみです。

 牛乳を飲むとき、ぜひ空の色にも想いを馳せてみてください。

牛乳のレイリー散乱実験


牛乳が白いのは脂肪球によるミー散乱と説明されることがあるが、脂肪球のない脱脂乳も白いので大きな理由はカゼインミセルによる多重散乱。雲の色が白いのはミー散乱で説明できる。


牛乳によるレイリー散乱のしくみ


実際の空では、太陽が高い日中はレイリー散乱で波長の短い青の光が散らばり、空は青く見える(光源の近くのペットボトル)。朝や夕方は太陽光が通る大気の層の距離が長く、赤に近い色が残るために空が焼ける(光源から離れたペットボトル)。


  豆知識  

じつはシロクマは皮膚が黒く、毛は透明です。それでも白く見えるのは、太さが雲のつぶの約10倍の透明な毛によって光がミー散乱を起こし、さまざまな色の光が混ざっているためです。毛なしのシロクマは黒いクマなのです。

防災や減災に役立つ!

天気や気象は、ふだんの生活に直結していること、空は誰でも観察できることからとても身近で楽しい情報が盛りだくさんですよね。その知識は、じつは防災や減災にとっても役立つんです。楽しみながら、防災にも役立つこの本。大人でも十分たのしめる内容ですので、ぜひ親子で読んでみてください。

【書籍情報】


著者: 荒木 健太郎

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046066312

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