1. おかしなラテアート
【問題編】
ちょっと咳払いをしてから、もう一度「ただいま」と言うと、ママたちが振り向いた。
「あ、おかえりアイ」
「何かあったの?」
「いやあ、実は、さっき来てたカップルのお客さんが、いきなり怒って帰っちゃったんだよ。何がいけなかったのか……」
パパが情けない声を出す。
「そうだ、シロ君とアイにも同じ問題出すから解いてみて。二人とも『今月の謎』が何か、まだ知らないでしょ?」
ママがそう言って、私たちを七番テーブルに連れて行った。
カフェにはいろんなタイプの席があって、七〜十番は壁とパーテーションで囲まれた半個室席。ここにはいつも、ちょっと大掛かりな「今月の謎」が仕掛けられる。
他にもメニューやコースター、紙ナプキンなんかに「謎」は仕込まれていて、カウンターや丸テーブルのお客さんにも謎解きは楽しんでもらえるけれど、内装まで使った謎があるのは、この半個室席だけ。
「『今月の謎』が難しすぎたの?」
今日は五月一日——新しい謎が始まる日だ。
昨夜遅くまでママたちが準備していたのは知ってる。でも、私は学校の課題があったし、古本屋の方も手伝ってたしで、謎の中身はまったく見ても聞いてもいない。
「うーん、それがよくわからないの」
七番テーブルを囲む壁には、昨日まであった大きな絵のかわりに、初めて見る小さな絵がたくさん掛かっていた。ママがかいたと一目でわかる(ママは絵も得意なのだ)モダンなタッチの絵で、色紙サイズの額に入れられ、ワイヤーなどで上から吊るされているのではなく、壁に直接くっついている。
絵柄は、
・チェスのナイトのコマ
・かじりかけのリンゴ
・コーヒーカップ
・顔を洗うネコ
・砂が落ちきった砂時計
・しおれた花がいけてある花びん
・足が三本の椅子
・カップケーキ
の、八種類。
「素敵な絵だね」と褒めると、ママは嬉しそうに笑った。
半個室の入口から見て、私が奥、シロちゃんが手前の席に座る。
パパがカフェラテの入ったカップを二つ持って来て、テーブルに置いてくれる。二つともラテアートがかいてある。
私の前に置かれたカップには、しゃれた感じの時計の絵。だけどちょっと変だ。
シロちゃんの前のカップには、「石」という文字がかいてあって、カフェラテが普通の半分くらいの量しか入っていない。

どうやら、この二つのラテアートと、壁の八枚の絵が「今月の謎」の問題らしい。
「どう、解けるかい?」
ママとパパが真剣に見守っている。
シロちゃんと目が合う。その目が(こんなの簡単だろ?)って言っている。
そう、こんなの簡単だ。私はちょっと考えてから、話し始める。
謎解きカフェの「今月の謎」、みんなは解けるかな? 次回は4月25日(火)公開!