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ものがたり

スペシャルれんさい『ぼくらのオンライン戦争』第3回


宗田理さんの「ぼくらシリーズ」書き下ろし新作をどこよりも早くヨメルバで大公開! 
ぜひ、れんさいを読んで、みんなの感想を聞かせてね。感想はコチラ
ぼくらのオンライン戦争』は2023年3月8日発売予定です! お楽しみに♪

 

登場人物


菊地英治

菊地英治(きくちえいじ) 中2 いたずらを考える天才。


中山ひとみ

中山ひとみ(なかやまひとみ) 中2 水泳が得意。


相原 徹

相原 徹(あいはらとおる) 中2 仲間をまとめる。


☆100秒でわかる! ぼくらシリーズの動画はコチラ



第3回

 つぎの日、柿沼(かきぬま)は学校の授業が終わると、おじいさんが入院している病院の病室をまた訪ねた。

「じいちゃん、調子はどう?」

「悪くはないが……。直樹(なおき)、やけに熱心に見舞いに来るんだな」

 ベッドから体を半分起こして座っているおじいさんは、うれしいような困ったような、複雑な顔をしている。

「なに言ってるんだよ。ぼくは、じいちゃんのことが心配だから来てるんじゃないか。はいこれ、食べられるようだったら、おやつに食べてよ」

 柿沼はそう言うと、フルーツがたっぷり入ったゼリーのつめあわせを、ベッドのとなりの椅子に腰かけているおばあさんに手わたした。

「こんなに見えすいたことをしなくてもわかってますよ。別荘(べっそう)のことで来たんでしょ?」

「いや、そんなわけじゃないけど……」

 おばあさんがおだやかに問いかけると、柿沼の声が小さくなった。

「昨日は、あそこでみんなと勉強をしたいと言っていたな」

 おじいさんが言った。

「うん。あの後で、親が進学塾をやっている友だちに話したら、塾の夏期講習に使わせてもらえないかって言うんだ。ただ集まって勉強するよりは、きちんとした塾のカリキュラムに沿ってやる方が効率的(こうりつてき)だし、身につきやすいとぼくも思うんだけど、どうかな?」

「だから、わしは去年家庭教師を頼んだ大学生に頼もうか、と言ったんだ。彼なら、ちゃんと順序立てて教えてくれるぞ」

 おじいさんの口調が少しきつくなったので、柿沼は黙ってしまった。

「まあまあ、あなた、ちょっと待ってください。直樹は友だち同士で勉強したいんでしょ?」

 おばあさんが助け舟を出すと、柿沼がこくりとうなずいた。

「わたしは、自分たちだけで考えながらやるのも悪くないと思いますよ。それに塾のカリキュラムに沿ってやるんなら、無茶苦茶(むちゃくちゃ)なことにはならないでしょう」

「中学生だけでちゃんとできるのかね?」

 おじいさんは半信半疑(はんしんはんぎ)だ。

「今の中学生をバカにしちゃいけませんよ。ねえ、直樹」

「もちろん、しっかりやるさ。あの別荘はすずしくて静かだし、去年、すごく集中して勉強ができたんだ」

おじいさんは何も言わず、腕を組んだまま考えている。

「ぼくらは、来年は中三で高校受験だろ? ぼくが誘拐された時に助けてくれた仲間たちと一緒に、全員が志望校に行けるようにがんばりたいんだよ」

 柿沼は、おじいさんの目を見ながら力説した。すると、おじいさんは、はっと気づいたような顔をして、

「そうだった。直樹を誘拐犯から救いだしてくれたのは同級生たちだったな」

と、つぶやくと、

「そういう仲間なら信用してもいい。よし、別荘を貸してやろう」

と言って、ついに使用を許可してくれた。

「じいちゃん、ほんと?」

「かまわん」

「やったあ、ありがとう!」

「直樹、よかったわね。でもここは病室よ。さわがないようにしてちょうだいね」

 飛びあがってよろこぶ柿沼を、おばあさんが笑顔で注意した。

「ただし条件がある」

「条件ってどんな?」

 おじいさんの低い声に、柿沼が身がまえた。

「わしの骨董品のことだ」

 柿沼のおじいさんは、骨董品(こっとうひん)を収集するのが趣味だ。日本のみならず、海外でも古くて風変わりな焼き物や美術品、彫刻などを買い集め、別荘の敷地の中に建てた大きな倉庫の中で大切に保管している。

 柿沼も去年、いくつか見せてもらったが、おじいさんがなぜそれらをそんなに大事にしているのか、さっぱり理解できなかった。

「ああ、あれね」

「あの倉庫の中には、だれひとり入れるんじゃないぞ」

「ぼくたちの仲間に、じいちゃんが大切にしてるものを取るやつなんかいないよ」

 本当は、あんな古臭いもの、だれも欲しがらないと言いたかったが、ここでおじいさんの機嫌を損ねてはいけないのでやめておいた。

「わしが気にしているのは、そういうことじゃない。とにかく中に入るな、ということだ」

「わかったよ」

「よし、それなら気を付けて行ってこい。別荘のカギは家にあるから、ばあさんからもらってくれ」

「じゃあ、ばあちゃん、近いうちに取りに行くから。じいちゃんも、早く良くなってね」

 柿沼は二人にそう告げると、あらためてお礼を言って病室を後にした。



<第4回とつづく>(2月24日公開予定)

*実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
 


『ぼくらのオンライン戦争』は3月8日発売予定!


作:宗田 理 絵:YUME キャラクターデザイン:はしもと しん

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322005

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