
小説紹介クリエイターけんご厳選! ミステリー・恋愛・ホラー・SFなど、88冊の多種多様な小説を紹介。
100年以上前に発表された作品から、近年刊行されたばかりの新刊まで。
栄誉ある賞を受賞した作品から、新人作家のデビュー作まで。
思わず涙が溢れてしまう物語から、戦慄が走るほどのホラー作品まで。
動画では紹介していない作品も多数収録しています。
連載第5回は「第5章 魂が揺さぶられる物語 ―やる気がみなぎる読書体験をしたい方へ―」から『風が強く吹いている』をご紹介いたします。
・本連載は『けんごの小説紹介 読書の沼に引きずり込む88冊』から一部抜粋して構成された記事です。
『風が強く吹いている』三浦しをん(新潮文庫)
2024年で、二十六歳になる僕は、これまでの人生の半分以上が野球によって支配されてきました。小学三年生のときクラブチームに入り、大学四年生の秋まで白球を追い続けたのです。
そんな僕ですが、大学三年生のときに一度だけ、本気で野球をやめようとしたことがあります。前年までそれなりに良い成績を残せており、「今年こそはレギュラーになる」と意気込んでいた矢先に怪我を負ってしまったのです。
怪我をしたのは身体だけではありません。心も、です。僕の心は完全に折れてしまいました。そこから僕は、練習もプライベートも、すべてに対して気力が湧かなくなりました。部活には顔を出すものの、真面目に取り組むことなく、思考停止で練習メニューをただこなすだけでした。
そんな日々を過ごしていたとき、僕のだらしないマインドを一変させる一冊の小説と出会います。それが、今回ご紹介する『風が強く吹いている』です。
日本の正月の風物詩となっている箱根駅伝。往路と復路合わせて計217・1㎞の長い道のりを走り抜ける大学駅伝です。各チーム十人の代表ランナーたちが、それぞれの想いを乗せて、一本の襷を繋ぎます。
箱根駅伝は関東学生陸上競技連盟加盟大学のうち、前年大会でシード権を獲得した上位十校と、十月の予選会を通過した十校、そして関東学生連合を加えた合計二十一チームしか出場できません。加盟校は、女子大を除けば約一五〇校ですから、箱根駅伝に出場するのは狭き門なのです。
数ある運動競技の中でも、特に長距離走は、まぐれがない競技です。運頼みでは、まず出場は叶いません。
そんな箱根駅伝に、陸上競技未経験の部員までいる無名の大学が、わずか一年という短い期間で出場することは可能だと思いますか?
『風が強く吹いている』は、問題児である天才ランナー・蔵原走(カケル)と、長距離走へ熱く情熱を燃やす清瀬灰二(ハイジ)の二人を主力とした、陸上競技未経験者を含む寛政大学陸上競技部の、箱根駅伝出場という無謀な挑戦をかけた物語です。
個性的なキャラクターとドラマティックな展開に読む手が止まらず、翌日に野球部の練習があることも忘れて、夜通しで一気読みしたことを覚えています。
読了と同時に自分の情けなさを自覚しました。こんなところで立ち止まってはいけない、もう少しだけ頑張ろうと思えたのです。
この小説を読んでいなければ、僕は野球をやめていたかもしれません。あのとき踏みとどまり、再び全力で取り組んだことは、今の自分を築く土台となっています。
カケルとハイジが率いる寛政大学の箱根駅伝出場は叶うのか、そして、その後に続く物語は……。
スポーツ経験の有無にかかわらず、何かにチャレンジするすべての人の原動力になる、熱い小説です。
新しい読書体験で、ぜひ「読書の沼」にお入りください
本書では、数多の小説の中から、多種多様な88冊を選んで紹介しています。僕自身もさまざまな作品を読むことで、新たな気づきを繰り返してきました。本書で紹介している作品をきっかけに、読書の幅を広げてもらえることができるなら、それは僕にとって幸せなことです。
あなたにとって、大切な一冊が見つかりますように。
【書籍情報】