子どもの発達に特性があるからこそ、その子に合った「居場所」をどう見つけるか。これは、多くの保護者が直面する切実な課題です。この問いに対し、新たな視点を提供するコミックエッセイが発売されました。
著者は、前作『生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』でも大きな反響を呼んだモンズースーさん。最新作『発達障害っ子の中学受験』では、周りと比べるのではなくその子の「得意」を伸ばすこと、そして多様な学びの場から「選べる」ことの重要性を、取材を通して描き出します。
親子が少しでも楽になるためのヒントを、モンズースーさんにうかがいました。
著者プロフィール
モンズースー
長男を出産後、ADHDと診断される。基本のんきで前向き。第29回コミックエッセイプチ大賞受賞後に始めたブログ『漫画 生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』がアメブロ総合1位を記録。2016年にデビュー作『生きづらいと思ったら 親子で発達障害でした』(KADOKAWA)を刊行し、大きな話題を呼びロングセラーとなる。
―あとがきでは中学受験を「自分とは無縁の別世界の話」と感じていたと書かれています。そこから、「発達凸凹だからこそ中学受験」という考えに至るまで、どのような発見や心境の変化があったのでしょうか?
きっかけは、「発達障害のある子が中学受験を勧められた」という趣旨の記事を読んだことでした。全く考えてもみなかった選択肢に衝撃を受け、そこから「発達障害のある子にとって、中学受験にはどんなメリットがあるのか」「どんな学校があるのか」を調べ始めたんです。
当時は今より情報が少なかったのですが、調べていくうちに多様な学びの場があることを知りました。そして、その多様な選択肢と、発達障害のある子たちが抱える「困りごと」を照らし合わせてみたとき、ある発見があったのです「環境を変えれば、そもそも困らなくて済むことがある」と。
■「本人を変える」のではなく「環境を選ぶ」という発想の転換
「学校でジュースが飲めなくて泣いてた子がいたけど、飲んでいい中学なら困らない」
「制服が苦手で学校が嫌いになった子がいたけど、制服のない学校なら困らない」
「給食が食べられなくて毎日先生に叱られてストレスで円形脱毛症になっていた子も、給食のない学校なら困らない」など
今までは、困ることが前提としてあり、そこからどう工夫して対処するかを考えていたのですが、最初から困らない場所で学べるなら発達障害だからこそ中学受験というのもありなんじゃないかと思いました。
■中学受験はあくまで“選択肢”のひとつ。正解は家庭の数だけある
―「発達凸凹だからこそ」という言葉と、あとがきの「中学受験を推奨したいわけではない」という言葉、どちらも著者としての本心だと思います。この2つの考えが、モンズースーさんの中でどのように両立しているのか、お聞かせください。
必ずしも、中学受験がすべてのお子さんにとって最善の道とは限りません。お子さん一人ひとりの特性やご家庭の環境、地域の学校の状況は本当にさまざまだからです。それに、せっかく私立中学に入っても馴染めずに不登校になったり、受験の経験自体がマイナスに働いてしまったりするケースもあると聞きます。
今回は受験をして私立に進んだ子の話を描かせていただきましたが、地元の公立、私立に関係なく自分に合った場所を選ぶのがいいのではないかと思います。
―本書では特性の異なる4つのご家庭を取材されていますが、この4ケースを選ばれたのには何か意図があったのでしょうか?
ひとくちに「発達障害」といっても、お子さんの特性は本当にさまざまです。そこで本書では、読者の方がご自身に近いケースを見つけやすいように、あえてタイプの異なる4つのご家庭を選びました。
本当はもっとご紹介したいご家庭もあったのですが、各ご家庭のエピソードがそれぞれ濃密で、あまり人数を増やすと逆にわかりにくくなってしまうため、今回は4つのケースに絞らせていただきました。
―本書では「診断を受けるか、薬を服用するか」といった非常にデリケートなテーマにも踏み込んで描かれています。こうしたご家庭の葛藤や決断を取材し、漫画にする上で、最も配慮された点や難しかった点は何ですか?
本書では、「この方法が正しい」「これはダメ」といった正解を示すのではなく、各ご家庭が歩んだ道をありのままに描くことを大切にしました。
なぜなら、子育てに唯一の正解がないように、最適な道はご家庭の考え方やお子さんの状況によって全く異なるからです。後から振り返っても、どの選択がベストだったのかは、誰にもわかりません。
■注目すべきは“苦手”なことより“得意”なこと
―「塾選び」「学校選び」「勉強方法」など、具体的なテーマが立てられています。取材を通して、発達特性のあるお子さんならではの「選び方のポイント」や「工夫の仕方」のなかで、特に印象的だったものを教えてください。
「得意を伸ばす」ということを多くの家庭が共通してやっていたことです。発達に偏りのある子はどうしても周りの子より遅れている部分に注目してしまうのですが、発達が凸凹なので「得意」を持っている子もたくさんいます。そこを伸ばして勉強している子が多かったのが印象的でした。
―専門家のコラムも本書の大きな特徴だと感じました。モンズースーさんご自身が、専門家の先生方のお話を聞いて、特に「これは多くの親御さんに知ってほしい」と感じたのは、どのようなアドバイスでしたか?
どのコラムも素敵なお話でしたが「迷ったときは気持ちが楽な方を選びましょう」
というお話が参考になる方が多いのではないかなと思います。
―取材を終え、改めて「発達特性のあるお子さんの中学受験」が持つ意味とは、どのような点にあると感じられましたか?
受験の理由はご家庭によってさまざまですが、多くの方に共通していたのは、「心身ともに不安定になりがちな中学時代を、少しでも過ごしやすくしたい」という想いでした。
確かに、中学校という独特の空間は、発達に特性のないお子さんでさえ人間関係に悩みやすい場所です。実際、インタビューした方からも『中学時代は二度と戻りたくない』という声があったほど、人生で特に「しんどい」時期でもあります。
その時期をただ耐えるのではなく、願わくば楽しく乗り越えるための手段として、中学受験を選ばれたのだと感じました。
■すべての親子に伝えたい「学ぶ場所は決して一つではない」
―紹介文には「困った毎日から自分らしくいられる居場所へ」とあります。もし今、わが子の居場所が見つからず不安な思いをしている保護者の方がいたら、どのような言葉をかけたいですか?
いろいろな状況があると思うので私から何か伝えられることはないのですが、これだけは知っていただけたらうれしいです。それは、「学ぶ場所は決して一つではない」ということです。本には描ききれなかったのですが、取材の中で中学の支援級を卒業後、通信制サポート校に通われた方のお話などもうかがいました。あまり知られていない制度や場所でも、探してみるとお子さんに合う道が見つかるかもしれません。
―この本を、どのような方に一番届けたいですか? また、読者の方にこの本をどのように活用してほしいと思われますか?
一番は中学受験を考えている発達に偏りのある子の保護者の方に読んでいただけたらと思います。受験のことも子どもの発達のことも周囲には相談しづらいことだと思うので、数例ではありますが、こんな受験をした家庭もあると情報として知っていただき少しでも参考になればうれしいです。また、発達に偏りのある子たちに中学受験という選択肢があることを知るきっかけになってもらえたらと思います。
―今回、中学受験という大きなテーマを扱われましたが、今後、教育や発達障害に関するテーマで、新たに取り組んでみたい、あるいは発信していきたいと考えていることはありますか?
今後のことはまだなにも考えられていませんが、発達障害などの少数派の人たちのことを伝える発信をしていけたらと思います。
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