KADOKAWA Group
NEW ブックセレクト

子どもと一緒に読みたい! 戦争がテーマの絵本

夏が近づき、テレビでも戦争の話題が取り上げられています。2025年は第二次世界大戦が終わってから80年の節目の年。日本ではこれまでさまざまな場面で戦争を考える平和学習が行われ、学校でも子どもたちが学びを続けています。

現在、日本が実際に戦争に参加してから年月が経ち、戦争の記憶を持つ人々も減りました。しかし、世界では常にどこかで戦争が起きていて「戦争とは一体なんなのか、なぜ起きてしまうのか」、実感のない子どもたちはつかみきれない不安を感じているかもしれません。

そこで改めて、平和とはなにか、なぜ戦争はいけないのかを親子で考えてみませんか? そうしたきっかけとなる絵本を今回はご紹介します。

おひさまとおつきさまのけんか



  3~5歳 
「おひさまとおつきさまのけんか」
作・絵/せなけいこ
ポプラ社 1,210円

はじまりは小さなことでした。ある日、おつきさまが空に昇ってくる時間に遅れてしまったのです。おひさまは、やっと昇ってきたおつきさまに「おそいぞ!」とどなりました。あまりの怒りように、おつきさまは「ごめんなさい」が言えなくなって「ふん!」とそっぽを向いてしまいました。それからは、「おひさまは いばりすぎだ!」「おつきさまは なまいきだ!」と、それぞれに仲間が加わり争いはどんどん大きくなるばかり。ついには、おひさまとおつきさまは空の上で戦争を始めます。その結果、空の下で起こったこととは……。

いろいろな争いがありますが、そのきっかけはささいなことだったのかもしれません。争いが大きくなる前に引き返せるポイントもたくさんあったかもしれません。
この絵本でも、「遅刻してきたおつきさまを、そんなにどならなくてもよかったのに」「おつきさまが、素直にごめんなさいをすればよかったのに」と、振り返れば戦争を避ける手段はたくさんありました。
そして、戦争が引き起こした被害は元には戻りません。そうした戦争の本質を小さな子にも分かりやすく示してくれる、平和学習の一歩となる絵本です。

せんそうをはしりぬけた『かば』でんしゃ



 4、5歳~  
「せんそうをはしりぬけた『かば』でんしゃ」
作・絵/間瀬なおかた
ひさかたチャイルド 1,540円

第二次世界大戦前に生まれた電気機関車は顔が“かば”に似ていたので、みんなから『かば』と呼ばれる人気者でした。戦争が始まる前は特急列車として、お出かけをする笑顔の人々を乗せていましたが、始まってからは兵隊さんや武器を運ぶようになり、車内から笑顔も消えました。『かば』は胸のつぶれるような思いで兵隊さんを見送り、銃撃によって穴があいた車体で戦争の中を必死で駆け抜けました。戦後、ようやく車内に子どもたちの明るい笑い声が響き、この平和がいつまでも続くようにという祈りとともに走った、実在した電気機関車の物語です。

『かば』電車は、丸みを帯びた見た目で当時の子どもたちに大人気だった電気機関車。笑顔の子どもたちを乗せるはずだったのに、成長した子どもたちを兵隊として乗せなければならなかったつらさ、自ら銃撃されながらもお客さんと物資を必死で運んだ過酷さ、そうした戦争の悲しみを体現してきました。
しかし戦後、人々が笑顔を取り戻し「平和とは、子どもの笑い声が響くこと」と、平和の尊さを伝えながら走り続けました。
今、『かば』電車は、銃撃を受けた穴もそのままに大宮の鉄道博物館に展示されています。実在したかば電車の存在から作者がインスピレーションを得た胸に迫る物語が、平和とは何かを伝えます。

なぜ戦争はよくないか



  小学校低学年~   
「なぜ戦争はよくないか」
文/アリス・ウォーカー 絵/ステファーノ・ヴィタール 訳/長田弘
偕成社 1,650円

戦争に姿があったとしたら、それはどんな姿でどんな存在でしょうか? 戦争はなんでもできて、こっそり私たちに近づいてきます。どんなものでも破壊して、人間の大切なものや生き物の命を枯らします。そして、ありとあらゆるものを食べつくし、食べつくした後も大地を汚し人の体を蝕んでいくのです。静かな迫力に満ちた絵で私たちに、戦争の実態、恐怖を想像させつつ、「それでも戦争はただしいというのですか?」と静かに問いかけてきます。

「戦争」を擬人化して語ることにより、戦争とは気づいた時には私たちのそばに迫り、やみくもに人々を襲い、あらゆる美しいもの、大切なものを踏みにじっていく……そうした戦争の恐怖、不安感を読み手に思い起こさせます。そして、美しく穏やかな日常と戦争後の重苦しい絵との対比によって、戦争の無慈悲さ、果てしなく続く破壊のむなしさを伝えます。
今もなお世界に続く「戦争」の現状に対しNOを突き付ける、胸に迫る絵本です。

やくそく ぼくらはぜったい戦争しない



 小学校1~3年生  
「やくそく ぼくらはぜったい戦争しない」
作/那須正幹 絵/武田美穂
ポプラ社 1,980円

年を取ったばあちゃんは、ぼくのことを「にいちゃん」と呼びます。ばあちゃんのお兄さん・洋平さんとまちがえているのです。洋平さんは1945年8月6日、原子爆弾で亡くなりました。ばあちゃんが、ぼくと洋平さんををまちがえるようになったのは、ぼくが中学生になった頃、洋平さんが死んだのと同じ年ごろ。「ぼくはばあちゃんが大好きだから、こんな悲しい思い出は作らない、絶対戦争なんかしない」と平和を守る強い決意を伝える絵本です。

この絵本に出てくるばあちゃんは幼い頃に原爆にあい、家族が亡くなり一人ぼっちとなってしまいました。そして今も亡くなったお兄さんが帰ってくるのを待ち続けています。そんな悲しい思い出を繰り返してはいけない、だから「絶対戦争しない」と声を上げていかなければいけないと平和を訴えかける絵本です。
3歳の時に自らも被爆した作者の那須さんは第二次世界大戦後、日本が平和であり続けた理由について「戦争を体験した人々が『戦争は絶対いやだ』と叫び続けたことにある」と言っています。戦争を知らない世代が増えた今、これからも平和であり続けるために私たちは何をすべきか、この絵本から考えさせられます。

きみは、ぼうけんか



   5歳~   
「きみは、ぼうけんか」
文/シャフルザード・シャフルジェルディー 絵/ガザル・ファトッラヒー 訳/愛甲恵子
ブロンズ新社 1,540円

戦争でぐちゃぐちゃに壊れた家の中で、お兄ちゃんは泣いている私に「冒険家になりたくない?」と言って冒険家の帽子をかぶせ、二人は“冒険家”として戦火の町から脱出し冒険の旅を始めました。火の手のあがる町をウマよりも速くかけぬけ、野宿をし、少しの食べ物だけで歩き続けます。「冒険って全然楽じゃない!」、疲れ果てた私をお兄ちゃんは励ましながら、ようやく二人がたどりついた「冒険家の町」とは……。

戦争で建物はぐちゃぐちゃに壊れ、戦車と兵士たちがいる燃えさかる町を、幼い兄と妹が脱出します。おびえる妹へ兄は「冒険だよ」と励ましながら逃避行を続けます。
現代でも戦争で町を焼かれ難民として逃れる人は世界中にたくさんいますが、作者はそうした戦争の悲しみ・つらさを、子どもたちの想像力、遊びの力でなんとか乗り越えてくれることを願ってこの物語を描きました。
この物語では“小さな冒険家”は想像力を糧にして希望を胸に困難を乗り越えましたが、今も、戦争によって安全な生活を奪われた子どもたちがいるという厳しい現状について考えさせられる1冊です。


今回は戦争がテーマの絵本を紹介しました。
次回は、「クジラ」がテーマの絵本を紹介予定です。(7月公開予定)
お楽しみに。
その他にも、さまざまな切り口で本を紹介しています。
そちらもチェックしてくださいね。▶ブックセレクトを見る


この記事をシェアする

ページトップへ戻る