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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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『10%の食塩水と5%の食塩水を混ぜて、7%の食塩水を300g作りたい。それぞれ何g混ぜれば良いか』
連立方程式の応用問題だった。基礎(きそ)の説明もまだ受けていないのに、優希にはちんぷんかんぷんだった。
「米倉。この問題を前に出て、解いてみろ。出来なかったら、さっき黒板に書いたことを誰かに見せてもらいなさい。それを十回書いてノート提出だ」
北側先生は腰(こし)に手を当てた。
愛がゆっくり立ち上がった。優希は上目づかいで愛の背中を見上げた。いきなり応用問題なんて、出来っこない。愛はどう釈明(しゃくめい)するのだろう。
「先生、問題読んでもらえますか? 黒板がまぶしくてよく見えないので」
淡々(たんたん)とした口調だった。
まぶしい?
確かに場所によっては、窓から入ってくる太陽の光と蛍光灯(けいこうとう)の光が黒板に反射して、見えにくい座席もあるのだが、愛や優希の席は真ん中あたりなので、今までそう感じたことはなかった。
北側先生も首を少しかしげながら、問題文を読み上げた。愛は、先生が読み終わると、間髪(かんはつ)を入れずに、
「10% 120g、5% 180g」
とだけ答えた。優希は目を見開いた。動揺(どうよう)を隠(かく)せない北側先生は、もう粉のついていそうもない手を、執拗(しつよう)に払い続けた。
「よ、米倉。途中の式は? 答えの導き方が、だ、大事なんだぞ」
ということは、答えは合っているということなのだろうか。
優希はあっけにとられた。口が半開きになる。
授業に初めて出た愛が、まだちゃんと習ってもいない連立方程式の応用問題を、どうして瞬時(しゅんじ)に、暗算で、解いてしまえるのか。
何か裏技(うらわざ)を教えてもらっているに違いない。どこの塾(じゅく)に行っているのだろうか。それともすごい家庭教師をつけているのだろうか。訳を知りたい。
「式はかったるいので、いりません」
北側先生が狐(きつね)につままれたような表情になった。愛は続けた。
「先生。気分がすぐれないので、保健室に行ってもいいですか」
怒りの色がすうっと消えた北側先生は、
「お、おい。だいじょうぶか?」
なかばうろたえながら尋(たず)ねたが、愛はそれには答えず、足早に教室を飛び出した。ちらりと見えた横顔は、冷たいプールから上がった人みたいに、蒼白(そうはく)だった。
放課後になり、優希は誠(まこと)と連れだって、四階にある生徒会室に向かった。愛はあのあと、教室に戻(もど)ってくることはなかった。休み時間は愛の噂話(うわさばなし)がちらちら聞こえてきた。
優希も愛のことが、頭から離れなかった。
「あ、荻野(おぎの)くん。目安箱(めやすばこ)」
優希は、階段にかけた右足を止めた。
「あっ、忘れた」
誠が手でおでこを押さえた。優希は大げさにため息をついた。
「確認(かくにん)してくるから、佐々木さん、先に行ってて」
誠は回れ右をすると、昇降口(しょうこうぐち)に設置してある目安箱を目指して、階段を一段飛ばしで駆(か)け下りた。華奢(きゃしゃ)な誠には大きすぎるリュックが、背中で跳(は)ねている。
「待ってるから、あわてないで。危ないよー」
優希の声が、階段に反響(はんきょう)した。
次の踊(おど)り場まで上がって優希が待っていると、誠が息せき切って駆け上ってきた。
「だから、そんなにあわてなくてもいいって」
優希が呆(あき)れたように首を傾(かたむ)けると、
「ち、違うんだ。佐々木、さん、目安箱に、意見。意見が、入ってた!」
頬(ほお)を紅潮(こうちょう)させた誠は、吐(は)き出す息の合間に、言葉をつないだ。
「えっ、どんな?」
優希も目を見開いた。こんなことは初めてだ。
誠は片手に握(にぎ)りしめた用紙を、一瞬躊躇(ちゅうちょ)してから優希に差し出した。
<第14回 生徒会の見えないルール へ続く> 4月24日公開予定