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2025年入試出題で話題の小説『透明なルール』ができるまで


社会を取り巻く「同調圧力」に疑問を投げかけ、2025年中学入試問題で20校以上に出題された小説『透明なルール』(著・佐藤いつ子)。同作は10代へ贈る新たな文学賞「第1回未来屋アオハル文学賞」にも入賞しました。小学校高学年から大人まで幅広く共感の声を集めた小説が生まれた背景と、印象的なカバーイラストのこだわりをご紹介します。

青春小説の王道テーマから、「生きづらさ」へ

佐藤さんは、これまで少年サッカーにおける挫折と友情をテーマにした『キャプテンマークと銭湯と』、合唱コンクールを舞台に爽やかな恋愛模様を描いた『ソノリティ はじまりのうた』など、青春小説の王道のテーマをみずみずしいタッチで描いてきました。
あさのあつこさんの推薦を受け、『駅伝ランナー』でデビューして以来、毎年、受験の問題文として出題され、先生や司書の皆さんからも注目を集めています。

そんな佐藤さんが『透明なルール』でテーマにしたのは、学校にはびこる「見えないルール」。
成績が良いことがなんだか恥ずかしくて隠したり、めずらしい趣味を友達に言えなかったり。既読スルーは絶対NG、クラスで目立つ子のSNSの投稿には、すぐに反応しなくちゃダメ――。学校生活をうまく生き抜くための「見えないルール」に、誰しもが従っている。
でも、自分らしく本音を話したり、行動したりできないのはなぜ? と、ふと疑問に思うことはありませんか。
そんなもやもやした等身大の気持ちに寄り添う本作では、3人の登場人物が中心となって物語が進んでいきます。

後から生まれた「主人公」

【佐藤さんによる、登場人物メモ】

・主人公:父子家庭。勉強が得意で、高校はトップ校を狙っている。生徒会所属。繊細なところがあり、空気を読もうとするタイプ。レコード鑑賞が密かな趣味。

 ・誠:椿中で主人公のクラスメイトであり、同じ生徒会所属。こけしが趣味。学校ではいじられキャラ。マイペースな天然タイプ。

 ・愛:数学が得意で、音や光などに過敏な性質をあわせ持つギフテッド。小学校のころ質問ばかりして浮いてしまい、名門私立中学では浮かないように努力するあまり、不登校になってしまう。この春、椿中学に転入し籍は置くが、フリースクールに通うことで、次第に自分を取り戻し始める。

メモの中で、主人公に名前がないことに気づいたでしょうか? 実はこの作品は、「愛」と「誠」という、ふたりの物語が種となって生まれたのです。
自分の軸を持ち、才能と生きづらさをあわせ持つ「愛」。
いじられキャラだけれど、マイペースな「誠」。
当初は、誠が愛と共に、理不尽な校則=「ブラック校則」に立ちむかう物語でした。

【佐藤さんによる、あらすじメモ】

椿中学は校則も厳しく、抑圧的な先生が幅をきかしているような、とても窮屈な中学。
いじられキャラの2年生の誠は、『部活に入ること。もしくは生徒会に所属』という校則のもと、入りたい部活もなかったので、仕方なく生徒会で雑用のような係をしている。
ある日、誠が野球部の流星たちからいじられているところを、同級生の愛にたまたま目撃され、帰宅部を貫いている愛と接近。自由奔放な愛の性格や行動に衝撃を受ける。
誠と愛は、理不尽な校則や、目に見えないルール(同調圧力)を壊そうと、生徒会のメンバーらと立ち上がる。

その後、佐藤さんと担当編集が打ち合わせを重ねる中で、
「ブラック校則」は時代の移り変わりとともに、廃止されていく。むしろ、無意識のうちに誰しもが絡み取られてしまう「見えないルール」こそ、息苦しさの本当の原因なのではないか、という議論が生まれました。
そこで、「見えないルール」にとらわれる主人公の「優希」が誕生。「誠」と「愛」は彼女に影響を与える重要な役として、3人の物語が走り出しました。

優希が感じる人間関係の生きづらさには、小学生から大人まで、共感する部分があるはずです。
また、誠と愛の言葉には、モニター読者から「勇気をもらった」「もっと早く出会いたかった」という熱い感想が寄せられました。

ひとめぼれしたカバーイラスト

カバーイラストは、物語の行方が見えると同時に、「どんなイラストレーターさんにお願いするか」「色味や雰囲気はどうするか」を考えていきます。
優希の「本音を言えない苦しさ、もやもやした感情」を表現しつつ、作品が持つ希望やあたたかさを感じられるイラストを求めて、作家さんを探す中で目に着いたのが、赤(aka)さんのイラスト。

「どこか、もの言いたげな表情」「色彩や質感のあたたかさ」「大胆な構成」に惹かれ、お声がけしました。

赤さんからいただいた構成案は、格子柄をベースにしたものと、リボンが波打つ柄のもの。



ブックデザイナーさんと相談し、後者に決定。
主人公の髪型や顔立ち、体つきは、著者にもひとつひとつ確認しながら造形していただきました。

最後の最後まで調整を重ねたのが、髪と制服の色彩です。
ひとめ見て「学校の制服」と分かるように、シャツは明るい色にした方がよいか、リボンは赤などの色がよいか、と細かくご検討いただきました。

髪の色は、当初は全員同じ色でした。



グレー、青、白、と色々試していただいた後、「赤・青・緑」とそれぞれが異なる今の形にたどりつきました。
制服も髪色に対応し、それぞれが異なる配色に。ただし、リボンやネクタイの部分で、お互いの色を拾う「ゆるやかなつながり」を感じられるアイディアには、思わず立ち上がってしまうほど、感動しました。
想像をはるかに超え、小説の世界をイラストイメージに落とし込んでくださった赤さん。児童書の売り場でも異色の存在感を放っており、「ジャケ買いした」との声も届いています。



内容も、装画も、こだわりぬいた『透明なルール』。
書店で見かけたら、ぜひ手に取ってくださいね。


著者: 佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六変形判
ISBN
9784041145418

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著者の最新刊『わたしのbe』好評発売中!

佐藤いつ子さんが次なるテーマとして選んだのは「ルッキズム」。
中高生の過度なダイエットや整形手術が社会問題化する時代に、多感な思春期の心に寄り添う、瑞々しい物語が生まれました。
朝日中高生新聞で2025年4月から連載開始後、「見た目に対する考え方が変わった」「もっと早くに、この本を読みたかった」「もやもやした気持ちが浄化された」と大きな話題を呼んだ小説です。
2026年・2027年の入試国語での出題が予想される本作にも、ぜひご注目ください。

  • あらすじ

容姿に自信がない文香は、高校デビューを夢見つつも、自分を変えるきっかけがつかめず、消去法で書道部に所属している。そこで出会ったのは、ひときわ端整な顔立ちをした佑京だった。心惹かれる文香だが、「自分なんて」と恋心を封印してしまう。
書と真剣に向き合う佑京の姿に心を打たれた文香は、やがて書道そのものに魅せられ、「美しい字を書く」楽しさにのめり込んでいく。文化祭での書道パフォーマンスの大役を担うことになり、仲間とともに練習を重ねていたある日、佑京の秘密が明かされ、書道部は空中分解の危機に。はたして、佑京が隠していた秘密とは?
ルッキズムに悩む人、夢中になれることを探しているすべての人に贈る、熱くまばゆい物語!


著者: 佐藤 いつ子

定価
1,760円(本体1,600円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041165331

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