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ものがたり

【ためし読み】『透明なルール』第14回 生徒会の見えないルール


小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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 しわになった用紙を広げた瞬間、優希は体の内側に冷や汗(あせ)をどっとかいた。

 ――生理用品を女子トイレに常備してほしい

 優希は言葉を失っていたが、

「あの、佐々木さん。お願いがあるんだけど……」

 誠の声に我(われ)に返った。

「何?」

 誠が優希の顔をのぞきこんだ。一点の曇(くも)りもない眼鏡レンズの奥で、瞳(ひとみ)が揺(ゆ)れていた。

「この意見、生徒会で佐々木さんが報告してくれないかな?」

 誠の目がしがみついてくる。

「どうして、わたしが!」

 思わず強い口調になった。誠がぱっと顔を離した。

「わたしは書記もやってるし、会計も手伝ってるし、生徒会でいろいろやってるの。目安箱は荻野くんの仕事じゃない」

 優希は誠に押しつけるように、用紙を持つ手をぐいと伸(の)ばした。誠は狼狽(ろうばい)した様子を隠しきれず、

「……わかった。ごめん」

 用紙を受け取った。

 誠がなぜ優希に頼(たの)んだのかは想像がつく。内容がデリケートなことだから、男子の口から言うのは恥(は)ずかしいのだろう。

 優希だって、あのことじゃなかったら、代わりに言うくらいたやすいことだ。誠が嫌(いや)なら、別に代わってあげても構わない。でも……。

 強く言ってしまったことへの後悔(こうかい)とともに、誰が書いたのかという疑念がわき上がった。自分と同じように、生理用品で困っている人が他(ほか)にもいたということだ。

 メモの字は男子っぽい殴(なぐ)り書きだったが、まさか男子が書くなんてありえない。きっと自分の字がバレないように、わざと乱雑に書いたのだろう。

 あるいは、瞳子たちが書いたのだろうか? 生理用品を何度も保健室にもらいに行っているのが、もしやバレている?

 一瞬頭をかすめた思いに、優希は恥ずかしさで身が縮むようだった。頭を小さく振り、そんなわけない、と思いを振り払った。

 生徒会が始まった。

 ひと通りの連絡(れんらく)事項を、生徒会長の村上(むらかみ)さやか先輩(せんぱい)が読み上げた。今日はあまりたいした議題はないようだ。

「北側先生からは特に何も言われてないけれど、みなさんの方から、何か話し合っておきたいことはありますか?」

 北側先生は、生徒会の担当教諭でもある。さやか先輩がくりくりした愛嬌(あいきょう)のある目で、メンバーを見わたした。特に挙手する者はいない。

「あっそうだ、目安箱のこと忘れてた。荻野くん、どうだった? 先輩が目立つように赤く塗(ぬ)ってくれたけど、またゴミとか入ってなかった?」

 さやか先輩が苦笑まじりで、誠に視線を向けた。誠はひと呼吸置いてから、神妙(しんみょう)な面持(おもも)ちで答えた。

「今日、入ってました」

「ゴミ?」

 すかさず三年の男子がまぜっかえし、どっと笑いが起きた。優希は書記ノートから、目を離せなかった。

「いえ、ゴミじゃなくて……」

 誠はポケットからしわになった用紙を取り出した。口を開いたり閉じたりして、なかなか言い出せない。

「荻野くん、何て書いてあったの? 早く読んで」

 さやか先輩が少しイラついたような声を出した。中三ともなれば、さっさと生徒会を切り上げて受験勉強をしたいと思っていても、それほど不思議ではない。

「は、はい。すみません」

 誠は顔を上げると、一気に言った。

「『生理用品を女子トイレに常備してほしい』って書いてあります」

「荻野、キモいぞー」

 さっきの男子がからかうと、点火されたみたいに、誠の頬が燃えた。

「ちょっと、ふざけないで」

 さやか先輩は男子生徒をたしなめると、続けた。

「生理用品を女子トイレに常備って、それ必要かな? それくらい身だしなみじゃない」

 さやか先輩が首をひねると、

「だよね、保健室にだってあるんだから、いらないよね」

 三年生の副会長の女子生徒も同調した。

「……」

 このふたりの意見に、瞬時に空気が支配された。

 生徒会室が、目に見えない圧のようなものに覆(おお)われる。

「他に意見ある人」

 さやか先輩がざっと見わたす。

 誰も何も言わない。いや、誰も何も言えないのだ。会長と副会長の意見が一致(いっち)しているのだ。言えるわけがない。

 優希は、ひたすらノートを凝視(ぎょうし)し続けた。

「じゃ、そういうことで」

 さやか先輩が切り上げようとしたので、優希は弾(はじ)かれたように顔を上げた。

 えっ、そういうことでって?

 心の中の声は、口から出ることはなかった。

 すると、誠が椅子(いす)を鳴らして、突然(とつぜん)立ち上がった。

ーーー先輩の言葉に支配された空気の中、立ち上がった誠と、緊張しながらじっと見守る優希。
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