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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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翌日、優希(ゆうき)は、一、二時間目の健康診断(けんこうしんだん)のあいだはしのげたものの、中休みになって、学校の女子トイレから出ると、げんなりして頭(こうべ)をたれた。やっぱり生理になってしまったのだ。
「ねぇ、中庭行かない?」
瞳子(とうこ)の言葉に、楓(かえで)たちも賛成した。いちおう疑問文ではあるが、瞳子が言うと、ほぼ決定事項(じこう)だ。
瞳子は、無自覚の女王とでもいおうか、意識してマウントを取ろうとしているようには見えない。本人は努力などしていなくても、きっと今までずっと、自然とヒエラルキーのトップにいたのだろうと、優希は想像する。持ち前のオーラと華(はな)やかさで、人を惹(ひ)きつける魅力(みりょく)があるのだ。
「あ、わたしちょっと、生徒会室に行かなきゃ」
優希は肩(かた)をすくめた。
「そうなんだ。じゃ、またあとで」
談笑(だんしょう)しながら遠ざかる三人の姿が、見えなくなるまで見送った。
瞳子たちは、昨日いちごパフェを食べに行った話をしない。優希もあえて話題を振(ふ)ったりしない。いっしょに食べに行こうという約束は、なかったことになってしまうのだろうか。
勝手に行っちゃってごめん、また優希とも行くから、って言ってくれれば、それでいい。でも、すまない気持ちがあるなら、SNSに投稿(とうこう)したりしないか……。
それとも投稿するってことは悪気がないから? いや、意地悪だったりするのかな。わたしって、実はハブられてる?
優希はどんよりした足取りで、生徒会室ではなく保健室に向かった。
保健室のスライドドアはぴたりと閉じられていた。一度深呼吸をする。
誰(だれ)もいないことを願いながら、音を立てないようにそろそろとドアを引いた。素早(すばや)く視線を左右に走らせた。奥のベッドのカーテンが引かれている。誰か寝(ね)ているみたいだ。
出直そうとドアを閉めかけると、
「あら、佐々木(ささき)さん。どうしたの?」
奥から出てきた養護教諭(ようごきょうゆ)の浜(はま)先生が声をかけてきた。浜先生は明るくてよいのだが、声が大きい。出来るなら、人差し指を口もとに立てたい。
「あの……先生。急に生理がきちゃって」
かろうじて聞き取れるくらいの、小さな声で言った。
「ああ了解(りょうかい)、ナプキンね。佐々木さんはしっかりしているのに、意外とうっかりさんね。これで何回目?」
浜先生は笑いながら、戸棚(とだな)のところに行った。優希は唇(くちびる)を噛(か)みしめた。
悪気がないのは分かっているが、事情を察してくれるどころか、事情など考えたこともない浜先生に、歯噛(はが)みする思いだった。
浜先生から手渡(てわた)された生理用品数個を、優希はすぐにポケットにねじこむと、お礼もそこそこに保健室から逃(に)げるように去った。
午後になるとお腹(なか)がしくしく痛んできた。しかもこれから、北側(きたがわ)先生の苦手な数学の授業が始まると思うと、気分は底辺をはいずり回った。
数学の授業は緊張感(きんちょうかん)が違(ちが)う。それでも理不尽(りふじん)な校則がなくなったおかげで、北側先生の怒鳴(どな)り声をあまり聞かずにすんでいるのは、本当にありがたいことだ。
チャイムが鳴ると同時に北側先生ではなく、辛島(からしま)先生がひとりの女子生徒を連れて、後ろのドアから入ってきた。
振り返ったとき、優希は息をつめた。目が釘付(くぎづ)けになった。
……やっぱり、あの子だ。
<第12回 ひりひりの数学 へ続く> 4月22日公開予定