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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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もちろん、お父さんに頼(たの)めば代金はもらえるが、なかなか言い出しづらい。
家計を心配するあまり、中学生になってから、お小遣(こづか)いも必要なときにもらう申告制(しんこくせい)でいいと、自分から言ってしまった。そのときはまだ、生理用品のことなど頭になかった。
せめて、自由に使えるお小遣いがあったなら。今さらながら、悔(く)やまれる。
夜になって、X会の通信教育のワークを終えると、優希はスクールバッグの中から、実力テストの問題用紙を取り出した。自信のなかった数学をもう一度、解き直そうかと思ったが、パラパラとめくっただけで、やる気が失(う)せた。
出来た気になっていた英語や国語も、今になって思えば、勘(かん)で解答した問題が何問かある。去年のテストでは、終わった瞬間、ガッツポーズしたいくらいの手応(てごた)えがあったが、今年はそれにはほど遠い。
難易度が高かったから、みんなも出来ていなければいいけれど。両手で作った頬杖(ほおづえ)に、あごを沈(しず)めた。
スマホを手に取った。瞳子(とうこ)たちがSNSに投稿(とうこう)をあげているかも知れない。
しょっちゅうチェックするのが、癖(くせ)のようになっていた。投稿を見つけたら、いち早く反応したい。
「あ……」
小さな声が漏(も)れた。瞳子と楓(かえで)とまどかの三人が、近くのショッピングモールのフードコートで、いちごパフェをつついている写真がアップされていた。
その店のいちごパフェが美味(おい)しいという噂(うわさ)があって、このあいだ学校で、今度の休みにみんなで食べに行こうと約束したばかりだった。
今日は部活が早く終わったのだろうか。三人とも私服だから、一回家に帰ったと思われる。だったら、連絡(れんらく)をくれてもいいものなのに。
スマホのスケジュールアプリには、週末のところにすでに「いちごパフェ」と入れてある。
平日はともかく、部活に入っていない優希にとっては、週末のスケジュールが埋(う)まっていると、安心する。何も予定が入っていないと、自分だけが取り残されているような気がして、焦(あせ)るし落ち着かない。
一年のときは、水泳で忙(いそが)しい加奈(かな)のスケジュールの合間を縫(ぬ)って、ふたりで遊びに出かけた。二年になってからは、まだ加奈と遊ぶ機会がなく、瞳子たちとの予定が入ったことをことさら喜んでいたのだ。
もう一度、本当はここに自分も写っているはずだった投稿写真を見つめた。「いいね」をつけようとして、画面すれすれのところで指先が止まった。
全然「いいね」なんて思ってない。むしろ、約束していたのに、勝手に行ってしまわれて、もやもやしている。
でも、瞳子たちの投稿に「いいね」をつけなかったことはない。スルーするのは不自然だ。
優希はコメントに「わたしも食べたかったー」と打ったが、嫌(いや)みっぽいかなと気になり、消した。「美味しそう」と打って、そこまで媚(こ)びる自分がみじめで、やはり消した。
この投稿は自分たちのグループだけが見ているわけではない。実際、流星(りゅうせい)やクラスの子たち、テニス部の他の子も、すでに「いいね」を押している。
テニス部の他の子たちもいっしょに写真に写っていたら、どんなに気が楽だったか。部活の流れでみんなで食べに行ったのなら、納得(なっとく)できる。
クラスのみんなは、この写真に優希が写っていないことで、早速(さっそく)ハブられていると思ったりするのだろうか。
たまたまSNSにあげられた、たかが一枚の写真。そんなものにいちいち心惑(まど)わされている自分が痛い。でもやっぱり、されど一枚の写真、なのだ。
見ていないふりをしてスルーしようか散々迷ったあげく、結局「いいね」だけ押して、優希はスマホを裏に返した。
<第11回 どんよりした心と体 へ続く> 4月21日公開予定