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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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流星たちがいなくなると、優希は、
「ね、荻野くん。あえて目立つようなこと、しない方がいいかもよ。いじられちゃうよ」
と忠告してみた。
「目立つこと?」
誠が不思議そうに見つめてくる。
「ローファーとかさ」
「ああ。でも、僕はローファーが好きなんだよね。スニーカーとかって、僕、全然似合わないしさ」
誠は下駄箱からローファーを取り出すと、目を近づけた。指紋がついてしまっていないか、真面目(まじめ)に確かめているみたいだ。おろしたてなのかは分からないが、ローファーはつやつやと黒光りしている。
やがて、誠はローファーを地面に大事に置くと、
「じゃあ、また明日」
リュックのファスナーを中途半端(ちゅうとはんぱ)に閉めて背負い、帰ろうとした。
「荻野くん。家の鍵は見つかったの?」
優希が誠の背中に声をかけると、一歩を踏(ふ)み出した誠は立ち止まり、
「そうだった。鍵だ、鍵」
とあわててリュックを下ろした。
「朝出かけるとき、急いでたんだよね。……あ!」
誠はぶつぶつひとりごとを言うと、制服のズボンのポケットに手をつっこんだ。
「あった」
優希は苦笑しながら、
「見つかってよかったね。明日は生徒会の日だから、目安箱(めやすばこ)のチェック忘れないでね」
と、昇降口のホールに設置してある、赤い目安箱に目をやった。
「あ、うん。分かった」
しっかり者の優希はまだしも、誠は校則さえなければ、生徒会から最も遠い存在だ。人前で発言するのも苦手そうだし、要領も悪いし、リーダーシップのかけらもない。
結局誠は、生徒会で雑用のような仕事をやらされている。
生徒会のミーティングがあるときに、目安箱に何か入っていないかチェックしておくのが、誠の大切な役目である。なのに、よく忘れる。
そもそも目安箱には、ゴミとかいたずら書きとかばかりで、まともな意見など入っていたことがない。
この春卒業した生徒会の先輩の置きみやげで、木目調(もくめちょう)で目立たなかった目安箱は、赤に塗(ぬ)り替えられた。おかげで、かなり存在感は増した。効果を期待したいところだ。
「じゃあね」
スニーカーに履き替えた優希は、結局、誠より先に立ち去った。
同い年なのに、誠は弟みたいに頼(たよ)りない。優希には兄弟(きょうだい)がいないが、弟がいたらこんな感じなのかな、と一瞬頭をよぎり、ぶるんと頭(かぶり)を振った。
優希は家に着くと、制服を着替(きが)える前に、レコードプレーヤーの前に座った。プリーツスカートが床(ゆか)に広がった。
プレーヤーの下のラックには、きゅうきゅうにレコードが詰(つ)められている。ずいぶん処分してしまったらしいが、お父さんのコレクションだ。
人差し指に力を入れて、当てずっぽうに一枚を引っ張り出す。1980年代のブリティッシュロックバンドのアルバムだった。
タロットカード風の背景に、メンバーの写真が額縁(がくぶち)みたいにはめ込まれている。ビジュアルもいいけれど、曲もいい。飽(あ)きるほど聴(き)いたお気に入りの一枚だ。
約三十センチ四方のLPレコードのジャケットは、CDに比べるとうんと大きい。
LPレコードは、音楽だけではなくジャケットのインパクトも強く、それだけでアート作品さながらだ。眺(なが)めているだけで楽しいところも、レコードの好きなところだ。
ジャケットから黒いレコードを慎重(しんちょう)に抜(ぬ)き出すと、ターンテーブルにセットした。
スイッチを押しレコードを回転させ、一番外側の(みぞ)に合わせて、レコード針をゆっくりと落とした。
ジッという、針がレコードに触(ふ)れるノイズのあと、軽快な前奏が始まった。音が鳴り出すまでの瞬間(しゅんかん)は、いつも決まってワクワクする。
優希は音量を上げると、鼻歌まじりで手を洗いに行った。
しばらくすると、
「ただいま〜」
玄関(げんかん)からお父さんの声がした。優希は洗面所から首だけ伸(の)ばした。
「おかえり。今日はずいぶん早いね」
<第9回 お父さんには言えないこと へ続く> 4月19日公開予定