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ものがたり

【ためし読み】『透明なルール』第7回 いじられキャラのクラス委員


小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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 帰りの挨拶が終わると、教室はとたんに騒然(そうぜん)となった。

「優希、バイバイ。先行くね」

 部活に急ぐ瞳子たち三人を見送ると、優希はゆっくりと階段を下りた。

 なんだか今日は体が重い。下腹(したばら)が張っているような気がして、スカートの上から少しさすった。ひょっとしたら、もうすぐ生理になるのかも知れない。

 初潮から一年は過ぎたのだが、まだ周期が安定していなくて、数ヶ月空いてしまったり、三週間しか経っていないのに、きてしまうこともある。なかなか予想がつかなくて、困っている。

 昇降口に続く踊(おど)り場まで来ると、下駄箱のあたりは人(ひとなみ)が去ったあとなのか、人もまばらだった。と、出口を抜けて足早にすっと去っていく、女子生徒の後ろ姿に目を引かれ、足が止まりかけた。

 まっすぐ切りそろえられた厚みのある黒髪。既視感(きしかん)がある。

 あ……。

 図書館だ。春休みに図書館で見かけた少女かも知れない。

 あわてて階段を駆(か)け下り、上履きのまま昇降口を出た。でも、部活の生徒たちや下校する生徒たちに紛(まぎ)れて、さっきの女子生徒の姿は分からなかった。

 上履きのままだったので、あきらめて下駄箱のところに戻(もど)ると、同じ生徒会の荻野(おぎのまこと)がいた。誠はしゃがみこんで、何やらリュックの中をあさっている。

 優希は自分の靴を取る前に、米倉愛の下駄箱を確認した。そこには、真新しい上履きがあった。もう帰ったということだ。

 直感めいたものが走った。

「ねえ、荻野くん。さっきから、ずっといた?」

 誠は顔を上げると、目をぱちぱちさせた。

「さっき? まあ、いたって言ったら、いたけど……。リュックの中に入れたはずの、家の鍵(かぎ)が見つからなくて」

 鍵の話はスルーして、優希は続けた。

「同じクラスの女子、いたかな?」

「え? いないと思うけど。でも、どうだったかな。自信ないな」

 誠はゆっくり首を傾(かたむ)けた。誠はのんびりマイペース型だ。あまり周囲に注意を払(はら)っているとも思えないが、

「ああ、そっか。米倉さんは同級生だけど、顔が分からないから、いても同級生とは思わないよね」

 優希はあごに人差し指をついた。

「米倉さん? ずっと欠席の子?」

「うん。朝は運動靴が、下駄箱に入ってたんだよね」

「そうなの?」

 誠はまた、目をしばたたかせた。

 すると、流星たち野球部の男子が、ぞろぞろとやってきた。他のクラスのホームルームが終わるのを、待っていたのだろう。流星は誠を見かけると、

「まっこん、またローファー? これ新しくね?」

 誠の下駄箱から、黒いローファーをひょいとつかみ上げた。

「だいたいローファーって、お前は女子か」

 色白の誠の頬(ほお)が、ぼっと赤くなる。

「わっ、これ本物の革(かわ)?」

 流星の隣の野球部員が顔を近づけて、ローファーを撫(な)でた。

「ああ、指紋(しもん)がついちゃう」

 誠が咄嗟に立ち上がったので、爆笑(ばくしょう)の渦(うず)となった。

「やっぱ、まっこん、おもろいな」

 流星はローファーを下駄箱にしまうと、

「まっこんは今日、何すんの? 部活もないし、暇人(ひまじん)はいいよなぁ」

 ぱこんと誠の後頭部をたたくと、歩き出した。

「暇人、また明日(あした)〜」

 他の輩(やから)も流星に続いた。

 部活に入っていないことだけでも、すでにビハインドなのに、どうして誠はわざわざいじられそうなローファーなんて履いてくるのだろう。

 暇人ーー。その言葉は自分にも向けられている気がして、小さく傷つく。


<第8回 わたしのひそかな趣味 へ続く> 4月18日公開予定

『透明なルール』は4月24日(水)発売予定!


著者: 佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六変形判
ISBN
9784041145418

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 音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人におすすめ! 『透明なルール』佐藤 いつ子さんの『ソノリティ はじまりのうた』



著者: 佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041124109

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