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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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帰りの挨拶が終わると、教室はとたんに騒然(そうぜん)となった。
「優希、バイバイ。先行くね」
部活に急ぐ瞳子たち三人を見送ると、優希はゆっくりと階段を下りた。
なんだか今日は体が重い。下腹(したばら)が張っているような気がして、スカートの上から少しさすった。ひょっとしたら、もうすぐ生理になるのかも知れない。
初潮から一年は過ぎたのだが、まだ周期が安定していなくて、数ヶ月空いてしまったり、三週間しか経っていないのに、きてしまうこともある。なかなか予想がつかなくて、困っている。
昇降口に続く踊(おど)り場まで来ると、下駄箱のあたりは人波(ひとなみ)が去ったあとなのか、人もまばらだった。と、出口を抜けて足早にすっと去っていく、女子生徒の後ろ姿に目を引かれ、足が止まりかけた。
まっすぐ切りそろえられた厚みのある黒髪。既視感(きしかん)がある。
あ……。
図書館だ。春休みに図書館で見かけた少女かも知れない。
あわてて階段を駆(か)け下り、上履きのまま昇降口を出た。でも、部活の生徒たちや下校する生徒たちに紛(まぎ)れて、さっきの女子生徒の姿は分からなかった。
上履きのままだったので、あきらめて下駄箱のところに戻(もど)ると、同じ生徒会の荻野誠(おぎのまこと)がいた。誠はしゃがみこんで、何やらリュックの中をあさっている。
優希は自分の靴を取る前に、米倉愛の下駄箱を確認した。そこには、真新しい上履きがあった。もう帰ったということだ。
直感めいたものが走った。
「ねえ、荻野くん。さっきから、ずっといた?」
誠は顔を上げると、目をぱちぱちさせた。
「さっき? まあ、いたって言ったら、いたけど……。リュックの中に入れたはずの、家の鍵(かぎ)が見つからなくて」
鍵の話はスルーして、優希は続けた。
「同じクラスの女子、いたかな?」
「え? いないと思うけど。でも、どうだったかな。自信ないな」
誠はゆっくり首を傾(かたむ)けた。誠はのんびりマイペース型だ。あまり周囲に注意を払(はら)っているとも思えないが、
「ああ、そっか。米倉さんは同級生だけど、顔が分からないから、いても同級生とは思わないよね」
優希はあごに人差し指をついた。
「米倉さん? ずっと欠席の子?」
「うん。朝は運動靴が、下駄箱に入ってたんだよね」
「そうなの?」
誠はまた、目をしばたたかせた。
すると、流星たち野球部の男子が、ぞろぞろとやってきた。他のクラスのホームルームが終わるのを、待っていたのだろう。流星は誠を見かけると、
「まっこん、またローファー? これ新しくね?」
誠の下駄箱から、黒いローファーをひょいとつかみ上げた。
「だいたいローファーって、お前は女子か」
色白の誠の頬(ほお)が、ぼっと赤くなる。
「わっ、これ本物の革(かわ)?」
流星の隣の野球部員が顔を近づけて、ローファーを撫(な)でた。
「ああ、指紋(しもん)がついちゃう」
誠が咄嗟に立ち上がったので、爆笑(ばくしょう)の渦(うず)となった。
「やっぱ、まっこん、おもろいな」
流星はローファーを下駄箱にしまうと、
「まっこんは今日、何すんの? 部活もないし、暇人(ひまじん)はいいよなぁ」
ぱこんと誠の後頭部をたたくと、歩き出した。
「暇人、また明日(あした)〜」
他の輩(やから)も流星に続いた。
部活に入っていないことだけでも、すでにビハインドなのに、どうして誠はわざわざいじられそうなローファーなんて履いてくるのだろう。
暇人ーー。その言葉は自分にも向けられている気がして、小さく傷つく。
<第8回 わたしのひそかな趣味 へ続く> 4月18日公開予定