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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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午前中の授業は実力テストでつぶれたが、午後は普通に授業がある。実力テストの出来は、英語と国語はともかく、数学の自信が全くない。
テストに全集中したので疲(つか)れていたが、五時間目は大好きな辛島先生の英語の授業なので助かった。
辛島先生の授業は、メリハリがあって面白い。英語の発音もネイティブみたいに流暢(りゅうちょう)で、スラッとした容姿に前下がりのボブスタイルも格好良く、優希の憧(あこが)れでもある。
昼休みが終わり着席すると、優希はぽっかり空いた目の前の席をあらためて見た。空席に慣れてしまって、ふだんは気にも留めなくなっていた。実際、朝教室に入ったときは意識したのに、午前中の実力テストの間は、忘れていた。
ぼんやりしていたら、みんなの教科書を広げる音でハッとした。辛島先生が教科書を片手に、声を上げた。
「はい、今日も音読から始めます。わたしが一文ずつ読むので、そのあとについてきて」
辛島先生が流れるように英文を読み上げると、みんながそのあとに続いた。優希は声を落として、辛島先生の読み方を真似(まね)た。なかなかいい感じだ。
お父さんの影響(えいきょう)で、昭和に流行(はや)った洋楽のレコードを、家でよく聴(き)いている。
うちにはまだ、レコードプレーヤーがあるのだ。聴いているうちに、歌詞を知りたくなり、歌詞カードを見ながら歌っていたら、いつしか発音が良くなった。これは友だちには言えない密(ひそ)やかな趣味(しゅみ)である。
「さて、今日は誰に読んでもらおうかな」
全体での音読が終わると、辛島先生がみんなを見回した。優希は、指名されないようにそっと目を伏(ふ)せた。
「じゃ、牧さん。2パラグラフお願いします」
瞳子があてられた。瞳子の英語はたどたどしく、ときどき発音も間違(まちが)えて、辛島先生に直されている。瞳子が終わると、
「続きは、うーんと、佐々木さん」
うつむいていたのに、今度は優希があたってしまった。ゆっくり立ち上がり、つばを飲み込んだ。
「イット イズ ファン トゥー シング ソングス……」
口がうまく回らない。優希がカタカナ英語でひと通り読み終えると、辛島先生は少し首をかしげながら、
「はい。間違ってはいないのだけど、もう少し抑揚(よくよう)をつけてごらん。平坦(へいたん)に読むのではなく、最初の一文だと、〝Fun〞にアクセントを持ってくるように、伸ばし気味にしてごらん。〝It is〞も区切って読まないで、続けてイリーズって聞こえるくらいに」
と言うと、手本を示した。
「佐々木さん、やってみて」
優希は教科書をがっちり持ち上げると、慎重(しんちょう)に英文をなぞった。
「うん。さっきより良くなったよ。はい、座って」
優希はすぐに腰(こし)を下ろした。こちこちに固まっていた肩から力が抜けていく。
英文が自然に読めない。みんなの前でいい発音で音読するのが、なんだか恥(は)ずかしい。
「英語の成績を伸ばすには、まず繰(く)り返し音読することです。音読だけやって他は何もやらない日があってもいいくらい、音読は最優先だからね。一日十分とか、時間を決めて続けるといいよ」
辛島先生はみんなを見わたした。
五時間目が終わると、瞳子はわざわざ優希の前の席の椅子をくるりと後ろに向けて、すとんと腰掛(こしか)けた。楓とまどかも集まってくる。
「一年のとき二組だった子に聞いたんだけどさ。優希ってめっちゃ頭いいらしいじゃん」
瞳子にいきなり言われ、面食(めんく)らった。
「そんなことないって」
優希はさらりとかわした。褒められているはずなのに、居心地が悪い。早く話題が変わってほしい。
「去年の実力テストって、校内トップテンに入ってたとか?」
瞳子が肩を寄せてきた。
「いや、そんなじゃないって」
優希は小さく首を振った。咄嗟(とっさ)に嘘(うそ)をついた。
「でもさ、優希。英語のテストにスピーキングなくて、良かったね」
瞳子の言葉に、一瞬(いっしゅん)きょとんとする。
「あぁ、優希って案外、日本語英語っていうの? カタカナ読みだったよね」
楓が笑ったので、
「スピーキングあったら、ヤバかったわ」
優希は肩まですくめていた。
調子を合わせている姿を滑稽(こっけい)だと、遠くから見ている自分にふたをする。加奈といるときは、もっと自然に振る舞(ま)えたのに。
「あ、時間ない。わたしトイレ行ってくる」
瞳子は急に立ち上がると、出口に走った。
「うちもー」
楓とまどかも続いた。優希は別にトイレに行きたくはなかった。三人が走り抜けた出口をぼんやり見つめていたが、我(われ)に返りすぐにあとを追いかけた。
<第7回 いじられキャラのクラス委員 へ続く> 4月17日公開予定