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ものがたり

【ためし読み】『透明なルール』第4回 ハラハラの編み込み


小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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 新学期が始まって、半月ほどが経(た)った。

 優希は校門に続く道を脇(わき)にそれると、そっと息を吐(は)き出した。

「おはよう。挨拶(あいさつ)は大きな声で」

 校門のあたりから、生徒指導主任の北側(きたがわ)先生の声が、ここまで飛んでくる。

 北側先生は、理不尽(りふじん)な校則がなくなって、髪型・服装チェックはさすがにしなくなった、というか出来なくなった。

 新しい校長先生は、その校則廃止の推進役(すいしんやく)だったらしい。

 なのに北側先生は、しょっちゅう校門の脇で仁王立(におうだ)ちして、朝の声かけに勤(い)そしんでいる。そういうつもりはなくても、威圧感(いあつかん)は相変わらずだ。

 優希は身をかくすように、塀(へい)に体を沿わせた。始業式の翌日から毎日なのだが、この待つ時間は慣れることがなく、いつも優希をじりじりとさせる。

 一昨日(おととい)は、遅刻(ちこく)しそうになった。自分は余裕(よゆう)を持って家を出てきているのに、本当にハラハラした。

「優希、おっまたせ〜」

 突然(とつぜん)、後ろから背中をぽんとたたかれ、肩が少し跳(は)ね上がった。優希はぎこちない笑顔で、振り向いた。

「瞳子、おっはよー」

 なるべく明るく返した。瞳子は曲がり角から校門の方に首を伸(の)ばした。

「ったく。今日も北側いるじゃん。マジうざい」

 瞳子が顔をゆがめた。

「さ、早く編んじゃおうよ」

 優希は瞳子の背後に回ると、ポケットから黒いヘアピンを取り出した。肩甲骨(けんこうこつ)くらいまで伸びた、瞳子のまっすぐなロングヘアは、朝日をあびてつやつやと輝いている。

「瞳子、本当に綺麗(きれい)な髪だよね。長い髪、いいなぁ。編むのがもったいないよ」

 お世辞(せじ)ではなく、本心から羨(うらや)ましいと思う。ちょっと癖(くせ)のある髪質の優希は、髪を伸ばしたくても、伸ばせない。

「優希もロングにしてみれば」

 こともなげに瞳子は言ってくるが、ショートヘアですら、雨の日はうねりがひどくなって爆発(ばくはつ)し、押さえるのに苦労している。ロングなんてとうてい無理だ。瞳子は、自分の容姿に興味が集中しているから、人の髪質などたぶん気にしていない。

「痛っ」

 頭頂(とうちょう)からヘアピンで筋をつけて、髪をふたつに分けるとき、力が入りすぎたみたいだ。

「あ、ごめん」

 優希は、ふたつに分けた豊かな髪を、右側からゆるい編み込みにしながら結っていく。さらさらの髪は、指にからむことがないから、しっかり持っていないと、指からすべり落ちそうになる。でもきつく持つと、また痛がられそうで、神経をつかった。

「ほんとはそろそろ、髪おろしたいんだけどね」

 瞳子がすねたような口調で言った。

「だよね。三年生は、今まで禁止されてたポニーテールの女子、何人か見かけたけど、それでも少数派だもんね。まだまだ様子見なのかな。はい、出来たよ」

 手際(てぎわ)よく仕上がった。優希はポケットから手鏡を出して後ろから映すと、瞳子は自分の手鏡を合わせ鏡にして、入念にチェックする。

「うん、完璧(かんぺき)。優希は本当に手先が器用だよね」

 瞳子は満足げにうなずいた。毎日編み続けていたので、上達したのかも知れない。

「さ、行こう」

 優希は足もとに置いたスクールバッグを持ち上げると、さっと歩き出した。

「あー、今日は午前中ずっと、実力テストだよね。だるいわぁ」

 瞳子がダラダラと歩くので、歩調を合わせた。

「でもさ、実力テストは成績に関係ないじゃん」

「ま、そうだけどさぁ。でもだから余計に、そんなテストのために、じっと椅子(いす)に座ってなきゃいけないのが、苦痛」

「だね」

 優希は適当に相づちを打った。本当は、昨夜実力テスト対策のために、夜更(よふ)かししたのだが、言わない方がよさそうだ。

「おはよー」

 後ろから、楓とまどかが合流してきた。

 始業式の日、優希がくじで引いた席は、瞳子の前の席だった。瞳子の髪をたまたま編んであげたことがきっかけで、テニス部の三人の仲良しグループに割り込めたのは、本当に幸運だった。

 まさにくじ運が良かったとしか言いようがない。そうでもなければ、優希が瞳子たちと接点があったかどうか、あやしいものだ。

 テニス部の女子たちは、瞳子を筆頭に華(はな)やかで目立つ子が多い。いっしょにいれば、少なくともいじめやいじられ対象になることはない。そして、昼休みや中休みに、身の置き場に困ることもない。

 毎朝待ち合わせをして、髪の毛を編み込みにするのを頼(たの)まれてしまったけれど、グループに入れたことを思えば、たいしたことではない。

 四人でじゃれあいながら校門に近づいたとき、

「優希」

 と声をかけられた。


<第5回 超名門からの転校生 へ続く> 4月15日公開予定

『透明なルール』は4月24日(水)発売予定!


著者: 佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六変形判
ISBN
9784041145418

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 音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人におすすめ! 『透明なルール』佐藤 いつ子さんの『ソノリティ はじまりのうた』



著者: 佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041124109

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