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小学生も中学生も共感まちがいなし!
派手な人気者の意見が通る、見た目や成績で目立つといじられる、生理の悩みは友達に話したくない・・・。クラスの「同調圧力」や、友だち関係で悩んだことがある人に、読めば勇気がわく物語!
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担任が辛島先生だったことだけが、三組になって嬉(うれ)しいことだった。
優希は一年のときも、辛島先生の英語の授業を受けていた。辛島先生は教員二年目の溌剌(はつらつ)とした女性の先生で、授業も楽しくて分かりやすく、とても人気のある先生だった。
新学期の最初の席は、名前の順番で座るのが普通(ふつう)だが、こうした趣向(しゅこう)を凝(こ)らしてくるのも辛島先生らしくて、なんとなくワクワクする。くじを引いて教室に入ると、黒板には座席表が貼ってあった。優希の席はちょうど教室の真ん中あたりだ。
振り返ると、優希の席のあたりで、牧瞳子たち女子三人が早速(さっそく)たむろしていた。名前は分からないけれど、瞳子以外の二人も確かテニス部の女子たちだ。声高(こわだか)に喋(しゃべ)っている三人のところだけ、オーラが放たれているように、浮(う)かんで見えた。
きっとあの子たちが、クラスの中心人物になるんだろうなあ。
優希はちょっぴりためらったあと、自分の席に向かった。瞳子がすぐに、優希に気付き、
「ここの席?」
と目の前の席を指して、尋(たず)ねてきた。
「うん」
優希が笑みを浮かべると、
「わたしの前の席だね。名前は? 一年のとき何組だった? 部活は?」
瞳子は矢継(やつ)ぎ早(ばや)に質問を投げてきた。
「あのね、瞳子。人に聞くときは、自分から名乗らなきゃだよ。えっと、あたしは河合(かわい)まどか。瞳子と同じテニ――」
まどかが話し終える前に、
「ごっめーん。わたしは牧瞳子」
「うちは楓(かえで)。庄司(しょうじ)楓。三人とも女(じょ)テニ」
三人の会話のテンポが速過ぎて、目をきょときょと動かしながら、
「わたしは佐々木優希。一年のときは二組だったよ。部活はやってなくて、生徒会」
優希はやっと、自己紹介(しょうかい)することが出来た。
「へえー。生徒会って珍(めずら)しいね。なんか優等生っぽいよね」
瞳子の小さな顔には、目鼻口がくっきり整然と配列されている。とりわけ大きな目を見開いたので、そのきらきらしている瞳(ひとみ)に思わず吸い込まれそうになった。
「そ、そんなことないよ」
優希が戸惑(とまど)っているそばから、
「あ、やっぱ白ソックスだよね」
瞳子は優希の足もとを見て、話題を変えた。
「今日、みんなの様子見てどうしようかと思ってたけど、ブラック校則廃止(はいし)されてもなんか変わらないね。先輩(せんぱい)たちも全然だったし」
瞳子は不満そうに唇(くちびる)をゆがめた。
「先輩が先陣(せんじん)切って、髪型なり服装なり変えてくれないと、やりにくいよね。テニス部の先輩、ちょっと怖(こわ)いし」
まどかが肩をすくめると、
「先輩たちはさあ、これから受験だし内申(ないしん)とか心配してんじゃない。悪目立ちしたくないとかさ」
楓も同調した。
「だよねー。あーあ、このダッサい、ただのふたつ結びだけは、やめたいわ。本当は髪の毛おろしてもいいはずなのにね」
瞳子が両肩から下がった髪の束を、両手で引っ張った。
「いきなり髪おろすのも、勇気いるよね」
「たしかに」
三人の会話がぽんぽんと続くのを傍観(ぼうかん)していた優希は、
「よかったら、編み込みやってあげようか」
と、ふと言ってみた。優希は手先が器用で、小学生の従姉妹(いとこ)に編み込みヘアを何度もやってあげたことがある。
「え、出来るの? 今?」
瞳子の瞳が輝(かがや)いた。
「うん、まあ。分け目つけるピンとブラシがあれば」
「あるある!」
瞳子は黒板の上の壁時計に目を走らせた。
「まだ間に合いそう」
と、いきなりバッグからポーチを取り出すと、優希の手を引っ張って、トイレに走り出した。
<第4回 ハラハラの編み込み へ続く> 4月14日公開予定