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【怪盗レッド・少年探偵 響の秋木真さんの贈る、だれも見たことのない新ヒロイン!!】
「名探偵のひとり娘」なのに、夢を認めてもらえない七音(なお)。でも、かまわない。あたしなりのやり方で、探偵を目指す――!
新シリーズを、どこよりも早くためし読みしてね!(全4回)
【このお話は…】
清瀬グループの社長のもとに届けられた、「教授」からの犯行予告状。
くわしい話をきくために、警察署にやってきた七音と響(ひびき)たち。
ついでに、なにかを知っているらしい、転校生の紅月色葉(こうづき・いろは)までいっしょに!?
いったいどうなるの!?
※これまでのお話はコチラから
6 清瀬社長の風格
警察署につくと、響が先頭に立って進んでいく。
入口に立っている警察官が響の姿を見て、背筋を伸ばして敬礼をする。
「お待ちしておりました! 猿渡警部がお待ちです」
「ありがとうございます」
響はていねいにお礼を言って、警察署の中に入る。
あたしと色葉も、警察官に頭を下げてから、あとについていく。
色葉は興味深そうに、きょろきょろとまわりを見ている。
警察署の中なんて、そうそうくることないし、ものめずらしいよね。
響が迷いなく、警察署の中を進んでいくと、むこうから手を挙げて出迎えてくれる人がいた。
「待っていたよ白里くん、七音くん、咲希くん……それにきみが白里くんが言っていた子だね」
猿渡警部が、あたしたちを見まわし、最後に色葉に目をとめて言う。
もじゃもじゃ頭の警部さんで、年齢は40代後半ぐらいだ。
「……よろしくお願いします」
色葉がさすがに緊張した様子で、猿渡警部にあいさつする。
響が前もって、話を通したらしい。
響の持つ「特別捜査許可証」の力もあるけど、今までにつちかった猿渡警部との信頼関係のほうが、大きいのかもね。
「よろしくたのむ。さて、さっそくだが、くわしい話をしたい。待ってもらっている方もいるからな。こちらにきてくれ」
待ってもらってる人?
あたしは疑問に思いつつ、ついていく。
猿渡警部に案内されて、警察署の奥に進むと、応接室と書かれた部屋の前で止まる。
「失礼します」
猿渡警部が、ドアを開ける。
部屋の中央にテーブルがおかれ、その四方に3人ぐらいがすわれるソファがおかれている。
そのソファの1つからスーツをきっちりと着こなした30代後半ぐらいの男性が立ちあがった。
さっき猿渡警部が言っていたのは、この人のことかな。
「清瀬グループ社長の清瀬幸人です」
わ、清瀬グループの社長だったんだ。
そんな立場の人が、ここにいたことにあたしは、心の中でおどろく。
「清瀬幸人さんは、今回の予告状が届いたパーティーの主催者だ。会場側の責任者として、きみたちと直接、話がしたいということで同席されている」
猿渡警部が説明する。
「ぼくが白里響です。よろしくお願いします」
響は、おとな相手でもまったく動じずに、あいさつする。
いつも事件でおとなの相手ばかりしているから、なれているのかもね。
まあ、それはあたしだってそうだけど?
内心ちょっと、びっくりしたことなんか、絶対、顔には出さないんだから。
「きみの活躍は調べさせてもらった。たよりにしている。それにきみたちもだ」
幸人さんが、あたしたちの顔を見まわす。
咲希以外、あたしたちは小学生。
それでも、幸人さんは、あなどったり失望したりするような様子はない。
それどころか、完全に「対等の相手」として話してる。
見た目なんかじゃ判断しないってわけ。
よく観察すれば、あなどりの気持ちとかは、かくそうとしても、どうしてもにじみ出てしまったりするものだけど、一切ない。
さっすが、清瀬グループの社長ってところね。
って、大企業の社長が、みんなそうなわけじゃないって、あたしも響も知ってるけど。
この清瀬幸人さんって人が、できる人なんだ。
あたしたちもそれぞれ名乗り、ソファにすわる。
「――さっそくだが、今回の予告状を見てほしい」
猿渡警部が、ビニールに入った予告状をテーブルの上におく。
真っ白なカードに、ととのった文字が印字されている。
貴家の持つすばらしい宝石、ブルースカイを、私のコレクションに加えようと思う。
海の上にただよっている間にいただきにあがるので、
丁重に出迎えてもらえるとうれしい。 ――教授
「えらそうな、予告文ね!」
まるで、こちらを見透かしたような内容だ。
教授らしいとも言えるけど、それがよけいに腹が立つ。
「海の上にただよっている……というのは、今度行われる船上での展示のことですね」
響がたしかめるように言う。
「そうだ。娘の誕生日を記念して当家所有の美術品を展示することにした。その展示のメインが『ブルースカイ』だ。これは先々代の清瀬家の当主が手に入れたもので、数十億円の価値があるといわれるブルーダイヤモンドだ」
「す、数十億……」
咲希が、つばをゴクリと飲んだのがわかる。
「展示を中止には、しないんですか?」
あたしは、まっすぐにきいてみる。
だって、一番かんたんにブルースカイを守るのは、展示を中止することだからね。
わざわざ、教授が盗みだすすきを作ることはない。
教授の予告通りにしなければ、教授のポリシーからいって、今回は狙わないかもしれない。
「いや。すでに招待状を出しているし、清瀬グループ全体の事業でもある。なにより父が犯罪者には屈せず開催するとゆずらなくてね。なんでも教授というのは『人を傷つけない』ということは徹底しているらしいじゃないか。それで、展示とパーティーはそのまま行うことにしたんだ」
「教授が人を傷つけないのは、あくまで『これまでは』という話です。これからも同じだと決めつけるのは、危険です」
響が、すかさず訂正する。
「そうね。相手は犯罪者よ。ポリシーと言ってても、気まぐれで変わるかもしれない」
あたしも、きびしい顔でうなずく。
「人の考え方が変わらないかどうか」なんて、だれにもわからないんだから。
「それは重々承知している。だから、万全な警備態勢をしきたいと考え、最新の警備システムに加え、きみたちにも警備をたのむことにしたんだ」
幸人さんは、あたしたち1人1人の顔を見まわす。
あたしは、小さく目を見ひらく。
――いま、幸人さんは「きみたち」って言ったんだよね。
「探偵・白里響と、その仲間」じゃなくて。
それだけで、あたしの背筋が、ぐんっと伸びるような気がする!
「まかせてください!」
あたしは、思わず声を張る。
響だけじゃなく、あたしのことも、たよりにしてくれた。そのことがうれしい。
でも、うれしいという気持ちとうらはらに、冷静な考えも、めぐらせてる。
――幸人さんが、これだけ信用を伝えてくれるってことは、いままで響やあたしが教授と対決してきたことや、その結果も、知ってるはずだ。
たしかに、今の日本にいる人の中で、教授の犯行を阻止できたのはあたしたちしかいないんだ。
――今は、小笠原源馬……パパがいないんだからね。
「展示とパーティーが行われるときいていますが、どういったかたちになるんですか?」
響が、落ちついて質問をつづける。
さっきの話だと、展示とパーティー開催の予定を、変えることはできない。
その上で、教授から宝石を守りぬくしかないってことね。
すでに、教授は盗みの準備をはじめているんだろうから、こちらは出おくれている。
あと、幸人さんの言った「最新の警備システム」っていうのも気になる。
警報器の類なら、そこまで大げさに言わない気がするし。
「平日の5日間は、一般展示だ。この期間は、チケットを買えば、だれでもブルースカイの展示を見ることができる。そして、週末の土日は招待客のみを乗せて船を沖合いに出し、パーティーを行う。全7日間の日程だ」
幸人さんが説明する。
一般展示――、ね。
ふだんは見られない宝石らしいし、たくさんのお客さんがおとずれるはずだ。
「われわれ警察は、一般展示される5日間が危険だと考えている。チケットを手に入れれば、だれでもブルースカイに近づけるわけだからな。変装した教授がまぎれこんでもおかしくない」
ふーん、警察は、そう考えるわけね。でも……。
「そうとはかぎらないんじゃない? ――一番危険なのは、パーティーのある2日間。でしょ?」
あたしは猿渡警部に、ずばりと指摘する。
「ん? しかしパーティーのある週末、船はクルーズに出てしまうんだよ。わざわざ逃げ場がないタイミングを選ぶのか?」
幸人さんは、合理的な考え方をするみたいね。
だけど、見のがしてることもあるよ?
「逃げ場がない、ということ以外には、有利なことも多いです」
響が、横から口をはさんでくる。
うん。そうなんだよね。
「有利だと? それはどういうことだ?」
「だって、一般展示中は逆に、船にいられる人と時間はかぎられるでしょ。でも、パーティーの2日は、乗船した人たちはずっと船の中にいる。逆に盗むすきがある――とも言えるってわけ」
「そ……そうか!」
あたしの説明に、幸人さんと猿渡警部が目を見ひらく。
「それに、一般展示中は、つねにほかの客の目がありますが、パーティーのある2日間は、招待客がずっと監視しているというわけにはいかないでしょう」
あたしと響が、つづけて説明する。
「そうか、沖合いに出る間を狙われる可能性は低いと考えていたが、たしかに……」
幸人さんが、考えこむ顔をする。
「教授が狙うのはパーティーのある2日間だと、響くんたちは推理するんだな」
「ほぼまちがいなく」「そうだと思う」
猿渡警部の問いに、響とあたしは同時にうなずく。
まどわされそうになるけど、狙いやすいのは船がクルーズに出ている間。
教授が、それをわからないわけがない。
「わかった。なら改めて、パーティーのある2日間の警備をお願いしたい」
幸人さんが心を決めた表情になって、あたしや響たちのほうを見る。
「わかりました。お引き受けします」
「あたしたちも、いっしょでいいんですね?」
念のため、幸人さんに確認する。
……口にするのはくやしいけど、「特別捜査許可証」を持っているのは、響だけだから。
はっきりと、たしかめておきたい。
「ああ、きみたち全員にたのんでいる」
幸人さんが、きっぱりと言いきってくれる。
よっし!
あたしは心の中で、ガッツポーズを固める。
「まかせてください! 教授の盗みは阻止してみせますから!」
探偵・小笠原源馬にも、つかまえられなかった「教授」。
前回、響も、事件は阻止はしたけれど、逃げられてる。
だから、今度はあたしが――探偵七音が!
今回の事件では絶対に、悲しむ人を出さないんだ!
7 教授のポリシー
「――すごい。2人は本当に探偵だった」
警察署からの帰り道。
色葉が、いつもどおりの淡々とした変わらない表情でつぶやくように言う。
口調は落ちついているけど、しずかな興奮が伝わってくる。
警察署で静かだったのは、口をはさみづらかったんだと思う。
でも、あの場にいる「4人」に警備をたのまれた以上、色葉も警備に加わることになるよね。
「本当に探偵だからね。――でもいいの? 色葉まで警備に加わることになっちゃったけど」
あたしは、色葉にたずねる。
「いまさら仲間はずれにされるのは、こまる」
色葉があたしのことを、じっと見る。
「べつに、仲間はずれになんかしないけど……危険だから」
「平気。覚悟はしてる」
色葉はそう言うけれど、あとで猿渡警部から色葉の保護者に確認をとってもらうことになるかな。それは、あたしもそうだけど。
ママは前から、あたしが事件にかかわることに、いい顔をしない。
でも最近は、勝手に動くより確認をとってくれるほうがまだいい、と思うようになったみたい。
あきれられてるっていうことかも、しれないけどね。
「そこまで心が決まっているならいいけど……相手は教授なんだから、どんなに警戒してもしたりないって、思っておいてね」
あたしは、念を押す。
「教授……」
色葉が、深刻そうな表情で、その名前をつぶやく。
……うーん。やっぱり、色葉が「教授」について、なにかあるのは、まちがいなさそう。
「ついていきたいっ!」って言いだしたときも、目の色が変わっていたし。
いったい、どんな事情なんだろう……。
ただの小学生が、教授の存在を知っているってこと自体、あり得ないのに。
だからこそ、響も色葉をほうっておかないことにしたんだろうし。
「ねえ響くん。船の警備には、パーティーの日だけ行くつもり?」
咲希が、響にたしかめている。
「いえ。展示している平日も、見にいこうと思います。学校が終わってからになりますが」
「そうね。現場の様子を知りたいし、本当に教授が狙わないかどうかは、あくまで推理でしかないし」
あたしも言う。
教授が平日の一般展示中に、ブルースカイを盗んでいく可能性も、ないわけじゃない。
港に停泊中の船だって、「海の上にただよっている」からね。
「教授が、ぼくたちの考えの裏をかいて平日の間に狙った場合は、警察にまかせるしかない。おおぜいの一般客の中では、ぼくたちにできることは限られていますから」
響が、きびしい表情で言う。
本当は、響はずっと会場にはりついていたいんだと思う。
教授が獲物を狙っているかもしれないときに、いつもどおり毎日、学校生活を送るなんて、やきもきするもんね。
「そうね。でも、教授が一般客にまぎれてくるなら、こっちにできるのは船に出入りする人の持ち物検査を厳重にすることぐらいよ。」
平然とした声で説明しながら、あたしだって気持ちがはやってる。
理屈では、わかってるんだけどね。
「教授は本当に、一般展示を狙わない?」
色葉が、たずねてくる。
「うん、そう思うわ。理由はさっき言ったとおりだけど……それだけじゃないの。これは教授と会ったことがあるから、言えることなのかもしれないけど――沖合いの密室のような船の中のほうが、教授の好みって気がするから」
「好み……」
犯罪者について、なにごとも決めつけるべきじゃないけど。
今までの教授は、彼の「ポリシー」にそって犯罪を行っているのは、たしかだから。
「教授って、どんな人物?」
色葉が、あたしの顔をのぞきこんでくる。
「どんなって……犯罪者だよ。でも、ほかの犯罪者とちがってやっかいなのは、やつは、犯罪に美学を求めるってところ」
「美学?」
「自分で、自分の犯罪のやり方に、わざと、しばりをもうけているのよ。人を傷つけないとか、より注目を集める方法をとるとかね。だから、わざわざ予告状を出したりする」
「予告状を出さないほうが、盗みやすいのに」
「そういうこと。わざわざ相手を警戒させておいてから盗もうっていうんだから、腹のたつやつでしょ」
今回だって、そう。
成功の確率を上げることよりも、「予告状を出して、守ろうとする人たちをかわして盗む」というかたちにこだわってるってことね。
「だが、そこまでしても、犯罪をやりとげる能力が、教授にはある」
響が、きびしい顔でつけくわえる。
「そこが頭の痛いところね」
ちょっとした警戒では、教授には関係ない。
こっちが有利だと考えていることも、教授にはひっくり返されてしまったりもする。
その発想力が、教授の脅威なんだと思う――って犯罪を行う力をほめたくなんかないけどね!
「それが、教授……」
色葉は、真剣な顔でつぶやく。
やっぱり、なにか考えているみたい。
ちらりと響を見ると、視線があったけど、なにも言わない。
色葉のことは、あたしにまかせるつもりみたい。
今ここで、色葉にたずねても教えてくれるとは思えないから、あえてきくことはしない。それに……。
かんたんには口にできない事情があるのは、みんな同じ。
あたしにだって、パパっていう事情がある。
響にも咲希にも、それぞれ胸にかかえているものがある。
それが色葉にあっても、不思議なことじゃない。
とはいえ、それがあの「教授」にかかわるっていうのが、気になるところではあるけど……。
そんなことを考えつつ、あたしたちはそれぞれ解散した。
清瀬グループ社長、清瀬幸人さんは、
「特別捜査許可証」を持っている響だけでなく、「探偵七音にも、この事件を依頼したい」と、はっきりと言ってくれた!
敵は、カリスマ犯罪者「教授」。簡単じゃないけど――負けられない!
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