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ものがたり

話題のシリーズが全文無料!(期間限定)『探偵七音はあきらめない』 第2回 小笠原源馬のセーフハウス


【怪盗レッド・少年探偵 響の秋木真さんの贈る、だれも見たことのない新ヒロイン!!】

「名探偵のひとり娘」なのに、夢を認めてもらえない七音(なお)。
天才と比べられても、凹まない。
あたしは、あたしなりに、理想の探偵をめざす――。
信念をもって真実を追う七音ちゃんが、とにかくかっこいい!
話題のシリーズを、このチャンスにぜひ読んでみてね。
(2024年7月31日までの期間限定・全8回)



※これまでのお話はコチラから

4 白里響の意外な判断

「――色葉。どうして、あたしと響を尾行をしていたの?」
 人の通らない路地で、あたしと響は、色葉とむかいあっている。
 色葉は制服姿ではなく、グレーのシャツに、ジーンズのズボンをはいている。
「好奇心が止められなかった」
 色葉が、平然と答える。
「……へ?」
 思わず、気のぬけた声が出た。
 意味がわからない。
 響も、けげんそうな顔をしてる。
「2人は警察に協力して、事件を解決している。だから、興味があった」
「ちょ、ちょっと待って! どうして、そのことを知っているの?」
 口止めはされていて、警察と一部の事件関係者しか知らないことなのに。
 どうして、色葉が?
「人の口に、戸は立てられない」
 色葉はそう言って、そっと口もとに人差し指をあてる。
 た、たしかに、そうかもしれないけど……。
 だからといって、色葉が、どうやってその情報にたどりつくっていうの!?
「――紅月さん、きみの目的はなんだ?」
 響が、まっすぐに色葉にたずねる。
「2人に興味がある。だから、ついてきた」
 ふむ……。
 あたしは、思わず考えこんでしまう。
 色葉はそう言うけど、――真の目的は、べつにあるように思えるんだよね。
 たぶん、響も気づいてる。
 響が、小さく首をかたむけて、合図を送ってくる。
 あたしと響は、少し色葉から距離をとって、おたがいにしかきこえない声で相談をかわす。
「七音、どうする?」
 響が、きいてくる。
 あたしに判断を確認するなんて、響にしては、めずらしいね。
 あたしは、手をほおにあてて考える。
 たしかに、色葉のとった行動や言動を見ると、あやしいって思う。
 ただ、その行動や言動の1つ1つには、悪意は感じられないんだよね。
 尾行すること自体、いいことではないけど、しつこくつけまわしたってわけでもないし。
 だとすると、この間の――「相談したい」って言葉に関係があるんじゃないかな。
 それなら……。
「目的はともかく、信用してもいいんじゃない」
「ぼくも同意見だ。もし彼女がウソをついていても悪意からではないという可能性が高い。なら、つけまわされるより、直接接近したほうが、めんどうがない」
 響の考えは、さらに冷静だ。
「その言い方って……響って、どこまでもドライよね。色葉はクラスメイトなんだよ?」
「探偵として、見誤るわけにはいかない」
「はいはい、わかったわ。でも、あたしは色葉のこと、うたがうつもりはないから。色葉はそういうんじゃない気がする」
 不思議な子では、あるけどね。
 なら、うたがうより、もっとよく知るほうが先だ。
「勘か」
「それもあるよ。それだけじゃないけどね。わるい?」
 あたしは、響をジロリと見る。
「いや。七音にはぼくより判断するための材料が多いんだろう。それならぼくから言うことはない」
「じゃあ、決まりね」
 あたしは、ふりむいて色葉に近づいていく。
「決まった?」
 色葉は、表情が変わらないせいもあってか、やけに落ちついているように見える。
「ええ。あなたを信用する。あたしたちが事件にかかわってることは、秘密にしておいてもらいたいけど」
「約束する」
 色葉は、大きくうなずく。
 ま、これで、だれかに逆恨みされてるってことじゃなかったから、ひと安心だよね。
 そう思っていると、響がスマホを取りだして電話に出る。
 どうやら、着信があったみたい。
「はい白里。……はい、大丈夫です。……警護ですか? え? 『教授』が……!?」
 響の声に、緊張が走る。
 その言葉に、あたしは思わず響のそばによって、聞き耳を立てる。
『教授』って言葉と、響の様子に、不吉な予感がする。
 まさか、アイツがまた……!?
 少し話して、すぐに響は電話を切った。
「響、今、『教授』って聞こえたけど」
 あたしは、すぐに確認する。
「ああ。あいつから、予告状が届いたそうだ」
 聞きまちがいじゃなかった!
 あたしの胸が、ドキンと跳ねあがる。
 ――教授!
 ふつうは、大学のえらい先生のことをそう呼ぶけど、今あたしと響が言っているのは、まるでちがう存在だ。
 天才犯罪者。千の顔を持つ男。犯罪芸術家……。
 いろいろな表現をされているけど、そいつが自分で名乗り、警察からも呼ばれている名前が「教授」だ。
 今まで、さまざまな事件をおこしてきていて、真っ昼間の銀行から10億円を盗みだしたり、150メートルの高さの展望台に展示されている絵画を盗みだしたり、高速で移動する列車の中から宝石を盗みだそうとしたこともあった。
 不可能と思える状況を、可能にする犯罪者。
 それが、教授なんだ。
 そして、教授は――小笠原源馬が、ただ1人、つかまえられなかった犯罪者でもある。
 パパと教授は、これまで何度も直接対決をしている。
 犯行を阻止したことはあっても、教授本人をつかまえることは、できなかったんだ。
 その教授が、また予告状を出してきた!
「予告状はどこに!?」
 あたしは、響につめよる。
「それは静乃さんのところに行ってから話そう。それより……」
 響が、色葉のほうを、ちらりと見る。
 なに?
 あたしも色葉に目をむけると、彼女はまっすぐな目を、あたしと響にむけてきている。
「ついていきたいっ!」
 いきおいよく、色葉が言う。
 よく見ると、色葉のにぎった手が、ぷるぷるとふるえている。
 そしてなにより。
 色葉は、「教授」という言葉に反応してる。
 ふつうなら、「大学の先生」のことだと思うはずなのに……。
 しかも、犯罪者としての「教授」の名は、警察関係者や事件関係者しか知らない情報だ。
 ということは、色葉はもとから――「教授」の存在を、知っているっていうこと?
「ああ。ついてきていい」
 響が、あっさりと答える。
「ありがとう!」
「ちょ、ちょっと響、本当にいいの?」
 あたしが小声で響に確認すると、響も小さな声で答える。
「彼女は『教授』の意味を知っている。野ばなしにして勝手に動きまわられるほうがこまる」
 ――なるほどね。
 さっき言っていたとおり、近くにいてもらったほうが、動きをつかみやすいっていうことだ。
 色葉と教授がどんな関係か、どのぐらい、なにを知っているかはわからないけれど、色葉がなにか行動しようとしても、近くにいれば把握できる。
 響らしい合理的な考えだ。
 でも、近くにいてもらったほうがいい、っていうのは、あたしも賛成。
 そのほうが、もっと色葉のことを、よく知れるだろうから。
「それじゃあ、いっしょに行きましょ」
 あたしたちは路地を出て、大通りにむけて歩きだす。


5 小笠原源馬のセーフハウス

 あたしたちがやってきたのは、ちょっと古めの広い木造の一軒家。
 木製の1メートルぐらいの門があって中に入ると、玄関はめずらしい引き戸のドアだ。
 家の茶色い木の柱は、年代を感じさせる色合いだけど、それがまた温かみを感じさせる。
 門から玄関まで歩いている途中、家の横側には、手入れの行き届いた花壇もあった。
 ここが名探偵・小笠原源馬のセーフハウスだなんて、近所の人も気づかないと思う。
 本当に、ただの民家の1つにしか見えないから。
「いらっしゃい。……あら、お客さんですか?」
 玄関に出てきたのは、30代半ばぐらいの女性だ。
 彼女が倉田静乃で、パパの探偵事務所でアシスタントをしていた女性だ。
 おとなしそうに見えるけど、パソコンを前にすると、まったく雰囲気がかわる。
 何台ものパソコンをめまぐるしく同時に使って、ハッキングから情報収集まで、さまざまなことをこなす、小笠原源馬の完璧なアシスタントなんだ。
 そんな静乃に、あたしも響も助けてもらうことがある。
 あ、静乃のことを呼び捨てにしちゃうのは、昔から知っているからだよ。
 べつに、だれにでも呼び捨てってわけじゃないからね!
「この子はクラスメイトだよ。ちょっと、事情があって、いっしょにきてもらったの。あたしや響のことも、知ってるから」
「紅月色葉です」
 色葉が、ぺこりと頭を下げる。
 静乃が、一瞬だけ、視線をするどくして色葉を見た。
「倉田静乃よ。よろしくね」
 静乃は、すぐにいつもの表情にもどって、にっこりとほほ笑む。
 とつぜんだったけど、静乃も受け入れることにしたみたいね。
 あたしと響が連れてきたんだから、判断を信用されてるんだと思うけど。
 それにしても、響が本当にこの場所にまで、色葉を連れてくるとは思わなかった。
 尾行で、いずれここを探りあてられるくらいなら、連れてきたほうがいいってことなのかな。
 家の中に入り、ろう下の途中にある、ふすまを開ける。
 中は和室で、制服姿の女子高生がすわっていた。
「こんにちは、響くん。七音ちゃん。……そちらは?」
 女子高生の名前は、朝永咲希。
 咲希は、響の探偵の助手をしている。
 見ためは小動物っぽいかわいらしさがあるんだけど、芯は強くて、かんたんにはあきらめない粘り強さがある。
 それに、ちょっとした特技の持ち主なんだよね。
「クラスメイトの紅月さんだよ。事情があって、連れてきたの」
 あたしがかんたんに紹介すると、色葉がまたていねいに、頭を下げる。
 さっきも思ったけど、色葉、ちょっと緊張してる?
 ……いや、ちがうかな。
 緊張にはちがいないけど、おどおどしている様子はない。
 興奮してる――といったほうが近いのかも。
 小笠原源馬のセーフハウスにきた、となったら、喜ぶ人もいるかもだけど……たぶん色葉のはそのせいじゃないよね。
「教授」っていう言葉に反応してたんだから、そう考えるのが自然だ。
「紅月色葉です」
「わたしは朝永咲希。探偵・白里響くんの助手だよ」
 咲希は、ひとなつっこい笑顔で答える。
 咲希も、とつぜん色葉がここにきたことに、おどろいた顔をしない。
 もちろん知らなかったはずだし、これまであたしたちが、だれかをここに連れてきたこともないのに。
 ううん。
 だからこそ逆に、「特別で事情があるんだろう」と察したのかも。
 咲希はそういった空気を読むのも得意だ。
 あたしは、和室の座布団の上にラフな感じにすわった。
 響にむかって、よびかける。
「それで? 響、話してよ。教授の予告状ってなに?」
 響と色葉も、座布団についた。
 自分で切りだしておいてなんだけど、色葉の前で話して本当にいいのかな、とチラッと思う。
 でも、ここまで連れてきたんだから、きかせていい話かどうかは、響が判断するだろう。
「さっきの電話のぬしは、猿渡警部でした」
 響の口調が、ていねいな探偵の話し方に変わる。
 ……というか響って、あたし以外が相手だと、だいたいていねいに話すんだよね。
 ま、いいけど。
 猿渡警部っていうのは、パパ――小笠原源馬ともふるい仲で、最近では、響やあたしとも何度も事件を解決したことがある、警部さんなんだ。
 猿渡警部がいるからこそ、あたしたちが警察の捜査協力ができてるってところもある。
 響がつづける。
「このたび、清瀬グループのご令嬢の誕生日を記念して、清瀬家に伝わる歴史的価値のある宝石『ブルースカイ』の展示が行われるそうです。そして教授は――そのブルースカイを盗むと予告してきました」
「ふーん……」
 清瀬グループっていうのは。
 日本でも3本の指に入る、大企業だ。
 飲食店、アパレル、医療、ロボット技術など、あらゆる方面で活躍している。
 いちいち気に留めることはなくても、なにげなく入った店とか、手にとった商品が、清瀬グループとかかわりがある会社なことも、めずらしくない。
 それぐらい、大きくて有名な企業なんだ。
 その企業の創業者であり、今の社長でもあるのが清瀬家。
 だから、清瀬グループってよばれてるの。
「その『ブルースカイ』は、どこで展示されるわけ?」
 あたしは、質問する。
「船の上だ」
「………………は?」
 船?
 って、海にうかぶ、あの船よね。えーと?
「もしかして、清瀬家の豪華客船ってこと!? わあ、ミステリー小説みたい!」
 咲希が、はずんだ声で言う。
「そうです。客船の上で、パーティーをする予定だそうです」
「うれしそうじゃない、咲希」
 めずらしく、はしゃぐ咲希に、あたしは言う。
「だって、七音ちゃん。船の上のパーティーなんて、本当にミステリーみたいで! ……あっ、ちゃんと探偵としての仕事だってわかってるよ?」
 咲希は言ってから、はずかしそうに顔を赤らめてる。
「咲希がそれを忘れるとは、思ってないよ。それに、たしかにあたしも豪華客船でのパーティーなんて、はじめてかも」
 船の旅を楽しんでいる場合ではなさそうだけど。
「説明をつづけてもかまわないですか?」
 響が冷静な声で確認する。
「あっ、ごめんなさい。大丈夫です」
 咲希が、あわてて居住まいをただす。
「――『ブルースカイ』の展示は清瀬グループ所有の大型客船で行われます。公開期間は1週間。港に停泊した状態で5日間。そして、最後の2日間は、客船を沖合いに出してクルーズをしながら、パーティーが行われることになっているそうです」
 わあ……。
 さすが清瀬グループともなると、「誕生日パーティー」の規模がちがうね。
「ふん。で、教授は、その1週間のうちのどこかで宝石を奪いにくるってわけ」
「ああ。くわしくは、警察で予告状を見せてもらいながらきこう」
 響がうなずく。
「なら、次にいくのは猿渡警部のところね」
 あたしたちは、立ちあがる。
 色葉も、ついていくのがとうぜんって顔だ。
 行く先がどこかも、知らないはずなのに。
 度胸があるっていうか、無鉄砲っていうか。
 あたしは、心の中で肩をすくめる。
 とはいえ、ここまで巻きこんだら、ついてきてもらったほうが安心だよね。
 そうしないと、勝手に動きそうだし。
「いってらっしゃい、響くん。七音ちゃん」
 静乃に見おくられて、あたしたちは猿渡警部のいる警察署にむかうことにした。

 


第3回へ続く



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新書判
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新書判
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