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ものがたり

怪盗レッドスペシャル 特別編 探偵七音とちびアスカ!?

「怪盗レッド」の秋木真さんの、もう1人の「かっこいい」ヒロイン・深沢七音(ふかざわ・なお)ちゃんが活躍する最新刊、
探偵七音はためらわない』が6月12日に発売!

「ためらわない」という言葉にふさわしい、アクティブなカバーイラストが印象的!
発売を記念して、秋木さんが七音とアスカが交差するショートミステリーを書き下ろしてくれたよ!
おとな相手にも一歩も引かない七音のかっこよさ、ぜひ読んでみてね!


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「急に呼びだすなんて、猿渡(さるわたり)警部も人づかいがあらいんだから」

 ……まあ、この前あたしが解決した窃盗(せっとう)事件についてだから、しょうがないけどさ。

 あたし――深沢七音(ふかざわ・なお)は、警察署にむかって、住宅街をぶらぶら歩いていた。

 このあたりには、あまりきたことがない。

 先週、窃盗事件の捜査のためにきたのが初めてだった。

「こんなところに、公園があったんだ」

 大きなものではなくて、住宅のあいだにはさまれた、こぢんまりとした公園だ。

 その公園で、ボールをけっている子どもたちがいる。

 みんなあたしより年下。

 小学校の1~2年生ぐらいかな……。

 その中で、すらっと背の高い、長い髪をポニーテールにした女の子に目がとまった。

 遠目に見ても、その子だけ、はっきりとわかるぐらいボールさばきがうまい。

 反射神経もかなりよさそうで、動きにキレがある。

 それでいて、みんなにボールがまわるように、さりげなくコントロールする余裕もあるみたい。

 相手がけりやすいボールを送っているし。

 1人の子がけったボールが大きくそれかけ、

「アスカちゃん、ごめん!」

 すると、ポニーテールの子は、「よっ!」と言いながら足をのばして、らくらくボールを止めた。

「だいじょうぶだよ!」

 アスカちゃんっていうんだ。

 ボールさばきのうまさも目を引いたけど、なにより、やさしい子なんだな、とあたしは考えながら、公園のわきを通りすぎる。


 ――それから1時間後。

 警察署で猿渡警部と話した帰り道、あたしは同じ公園の前を通りかかった。

 まだ、あの子たちはボールをけっているかな?

 ふと興味がわいて、公園の中に目をむける。

「あれは……」

 ボール遊びをしていた子たちの前に、さっきはいなかった20代半ばぐらいの男性がいた。

 あのポニーテールの子――アスカちゃんを中心に、その男性となにか言い争っているように見える。

 なんだろう?

 どうせ、このあとの予定もないし。

 あたしは、公園の中に入っていった。

「……だからっ! わたしたちじゃないです」

 アスカちゃんが、男性にむかって言っている。

「そんなわけねえ! 証拠はあるんだよ!」

 男性が大きな声を出すので、1年生ぐらいの小さな子が、おびえたようにアスカちゃんの背後で身をちぢめる。

「あの……なにかあったんですか?」

 あたしは、声をかける。

 あたしだって、まだ小学生だけど、低学年の子たちがおとなともめているのに、見すごすなんてできないよ。

「なんだおまえ? こいつらの知り合いか」

「いえ。通りすがりです」

 あたしがはっきりと答えると、男性は少し面くらったような表情になる。

「? 関係ないなら、すっこんでろよ」

「でも、トラブルがあったんでしょ。子ども相手にあんまりさわぐと、近くの人に警察を呼ばれちゃいますよ」

「くっ……」

 男性は、「警察」という言葉に、顔をしかめる。

 自分がおとなげない態度をとっていることは、わかっているのかも。

 警察がくれば、子ども相手に怒鳴りつけるおとなのほうが、注意される可能性がある。

 あたしは、わざとにこっと笑って、話しかけた。

「ねっ。少し冷静になりましょう。なにがあったんですか?」

 すると、アスカちゃんが説明してくれる。

「この人の車に、サッカーボールをぶつけたって言われたんです。でも、わたしたちのボールがそっちに飛んだことはないから、ちがうって言ったんですけど」

 目が大きくて、ハキハキとしたしゃべりかたからも、年齢以上にしっかりしていそうだ。

 あたしは、今度は男性のほうにむきなおって、たずねる。

「車にサッカーボールがぶつかった、というのは本当?」

「本当だよ。ボンネットに、くっきりサッカーボールのあとが残ってるんだ。傷はついてないけど、あやまるぐらいしてもいいだろ」

 男性の口調は、さっきより少しばかりトーンダウンしている。

 やっぱり「警察」という言葉が効いてるみたい。

「車を見てもいいですか?」

 あたしは、男性にお願いする。

「ああ、いいよ。ひと目見ればわかるからな」

 男性は、すんなりうなずいて、歩きだした。

 あたしと、アスカちゃんたちもついていく。

 ――この様子だと、アスカちゃんたちに、ありもしないことで言いがかりをつけているわけではなさそうだ。

 男性に連れてこられたのは、公園と道路をへだてた駐車場だった。

 何台か車がとまっていて、その中のピカピカにみがかれた黒い乗用車が、男性のものらしい。

「これだよ。くっきりとあとがついてるだろ!?」

 男性が指さしたのは、車のボンネット。

 泥がついていたサッカーボールのあとが、そのままかわいたのか、しっかりと五角形のかたちが残っていた。

「でも、わたしたち、公園の外にボールを飛ばしたりなんてしてないです!」

 アスカちゃんが、まっすぐに男性を見て言う。

 ほかの子たちも、うなずいている。

「そうはいっても、ここに証拠があるだろ!?」

「――たしかに、証拠ね」

 あたしの言葉に、アスカちゃんたちが「えっ」と顔をこわばらせる。

「あるわね、この子たちがやっていないっていう証拠が

「!?」

「なんだって?」

 男性が、けげんな顔になる。

「サッカーボールの大きさって、いろいろあるの。知ってる?」

「そりゃ……子どもが使うのと、大人が使うのでは、サイズに差があるんだろうな」

「そう。この子たちが使ってるサッカーボールは『3号』って言われるもの。これは幼稚園とか小学校低学年が使うサイズ。一般的なサッカーボールよりも、直径が3センチぐらい小さいの」

「それがどうしたっていうんだ! ボールの大きさがちがうからって、この泥のあとがこいつらのボールじゃないってことにはならないだろ。ボールが小さくても、五角形の大きさは同じだろう!?」

「それが、ちがうのよ。サッカーボールは、切頂二十面体っていうのでできていて、どの大きさのサッカーボールでも、五角形が12枚と六角形が20枚の組み合わせなの。だから当然、ボールの大きさによって五角形と六角形の大きさはちがってくる。3号のボールは、一般的に使われる5号のボールより、五角形も六角形も、小さくなるの」

「それじゃあ……」

 男性は、車のボンネットについたボールのあとに目をやる。

「ね? この車についたあとは、この子たちの使っていたサッカーボールの五角形より、大きいでしょう?」

「じゃあ……おれの、かんちがいだってことか……」

 男性は、気まずそうにひたいに手をあてる。

「……そうか。わかった、おまえたちじゃなかったと認めるさ。もう行っていいよ」

 男性のぶっきらぼうな言い方に、アスカちゃんがムッとして、口を開きかける。

 あたしはそれに気づいて、さっと動いて、アスカちゃんの前をふさいだ。

「誤解がとけてよかったです。じゃあ、あたしたちは帰りますね!……行こう」

 あたしにうながされ、アスカちゃんは口をとがらせながら、しぶしぶといった感じで公園にもどった。

「……災難だったね」

 あらためて、あたしはアスカちゃんたちに声をかける。

「助けてくれて、ありがとうございました!」

 アスカちゃんが先頭にたって、ボール遊びをしていた子たちが、口をそろえてお礼を言ってくる。

「たいしたことじゃないわ。通りすがりだし。それよりごめんね、割りこんじゃって。でもあの人にくってかかっても、謝ってはくれなそうだったから。まったく、おとなげのないおとなだったわね」

 おとなには、もっとちゃんとおとならしくふるまってほしいのに。

 その点、不満だった気持ちをきりかえて、あたしにお礼を言ったアスカちゃんたちは、本当にりっぱだ。

「あの……お姉さんってサッカーの選手なんですか? ボールについて、すごくくわしかったけど」

 アスカちゃんが、興味しんしんといった目をむけてくる。

 サッカー選手ね。

 なるほど。おもしろい考え方をするなあ。

 あたしは、小さく首を横にふる。

「ちがうよ。あたしは……探偵だよ」

 あたしは笑ってみせる。

「えっ!? たんていっ!?」

 アスカちゃんが、きょとんとした顔になる。

 小学校低学年じゃあ、絵本の中でしか知らないかも。

「じゃあ、トラブルも解決したし、あたしはいくね」

 あたしは言うと、公園の出口にむかって歩きだす。

 ここからだと、家までそこそこある。

 あんまり帰るのがおそくなると、ママを心配させちゃうからね。

「えっと……ありがとうございましたー!」

 背中のほうから、アスカちゃんの声が追いかけてくる。

 ほかの子どもたちのお礼の言葉がつづいた。

 あたしは、背中をむけたまま片手をあげて、そのまま立ち去る。

 予定外だったけど、あの子たちを助けられてよかった。

 それに、あのアスカちゃんって子――おもしろい子だったな。

 こんな出会いがあるなら、急に呼びだした猿渡警部に感謝してもいいかも。

 そんなことを考えているあたしの顔は、自然と笑っていた。


おわり


 


「怪盗レッドスペシャル」はこれからもつづくよ!
6月12日発売の『探偵七音はためらわない』もぜひ読んでみてね!


作: 秋木 真 絵: ななミツ キャラクターデザイン: しゅー

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322968

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作: 秋木 真 絵: ななミツ キャラクターデザイン: しゅー

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322814

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【先行ためし読み!】怪盗レッド25



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