中学生だけど、みんなにはヒミツで「正義の怪盗」をやってる、アスカとケイ。
そんな2人のかつやくを描いた「怪盗レッド」シリーズは、累計125万部を超える、つばさ文庫の超・人気シリーズです!
今回は、アスカとケイが、お父さんたち、「初代怪盗レッド」の活動記録を発見するお話です。
1
「ケイ、そのパソコンどうしたの?」
土曜日の午後2時。
わたしは、家のリビングで、ノートパソコンを使っているケイに声をかける。
いつもは、部屋においてある自分のパソコンを使っているのに、リビングにいるし、さわっているのが、見かけないパソコンだから、気になったんだよね。
「……父さんに借りた」
ケイが、パソコンのほうを向いたまま、こたえる。
「圭一郎おじさんから? 自分のはどうしたの?」
わたしは、ケイとわたしがいっしょに使っている部屋のほうを見る。
「……あっちには今、べつの作業をさせてる。そのあいだに、ほかの調べものをしておきたかった」
「なるほど」
わたしはうなずきつつも、『パソコンにべつの作業をさせてるって、どういうことだろう?』と頭の中で首をかしげる。
まあ、でも、はじめの質問にはこたえてもらったし、あんまりケイのじゃまをするのも悪い。
わたしは、部屋に向かおうとする。
――と。
「これは……!」
ケイが、めずらしく、少しおどろいたような声を出す。
その声が気になって、ケイのほうをふり返る。
「どうかしたの?」
「アスカ……これ」
ケイは、自分がさわっていたおじさんのノートパソコンの画面を、わたしに見せるように、少しずらす。
説明するより、見せたほうが早いってことかな?
わたしはケイのそばまで行って、ノートパソコンの画面をのぞきこむ。
「なになに……このフォルダ……え、『怪盗レッド活動記録』? なにこれ、ケイがつくったの?」
「ぼくじゃない。これは……父さんのパソコンに、元から入っていたデータだ」
ん? それってつまり……。
「初代怪盗レッドの、活動記録ってこと!?」
わたしはびっくりして、思わず声が大きくなる。
「そういうことになる」
ケイが、うなずく。
「で、でもさ。おじさんも不用心じゃない? こんなに簡単にフォルダが見つかるようにしておくなんて」
パソコンの画面を見ると、フォルダの中には、ナンバーがふられたファイルが、たくさん入っている。
まちがって、だれかに見られたりしたら大変だ。
「いや、簡単じゃなかった。見えないようになっていたフォルダを見つけて、セキュリティがかかっていたのを、ぼくがさっき、こじ開けた」
…………へ?
「そ、それって、おじさんは隠しておいたのに、そのフォルダをケイが無理やり開けちゃったってこと?」
「そう」
ケイは、なんでもないことのようにうなずく。
「怒られるよ」
やさしいおじさんだけど、そんなことをしたら、さすがに怒ると思う。
「いや。父さんはいつも、『侵入されるようなセキュリティにするのが悪い』って言ってるから」
お、おじさん……。
それでいいの?
いや、すごくケイとおじさんらしいけどさ。
「父さんのセキュリティを破れたのは、これで3回目」
ケイは、心なしか、うれしそう。
というか、ケイでも、3回しかセキュリティを破れたことがないんだ……。
前にケイが、『パソコンのあつかいは、まだ、父さんにかなわない』って言ってた気がしたけど……。
「……それで、これを見る?」
ケイが、わたしにきいてくる。
「見たいけど、本当にいいのかなぁ?」
わたしは、人のパソコンの中身を、勝手に見ちゃうことに、抵抗をおぼえる。
「……父さんが、絶対に見せたくないと思うなら、このファイルが入ったパソコンを、ぼくに貸したりしなかった」
そういうものなのかな。
おじさんについては、当然だけど、息子であるケイのほうがくわしい。
そのケイが言うんだったら……。
それに正直、わたしも初代怪盗レッドの活動って、どんなだったのか、気になるし。
「じゃあ、ちょっとだけ」
わたしの言葉に、ケイがマウスを操作して、フォルダの中のファイルから、1つを選んでダブルクリックする。
画面に、ファイルの中身がうつしだされる。
怪盗レッド活動記録⑯ 翼15歳 圭一郎13歳 美華子10歳
タイトルと、その次に、わたしのお父さん―翼―や、ケイのお父さんの圭一郎おじさん、そして2人の妹で、わたしたちのおばさんにあたる、美華子さんの年齢が書いてある。
この活動をしたときの、それぞれの年齢ってことかな?
ということは、お父さんたちがまだ、小中学生だったってことだ!
怪盗レッドを結成したばかりのころかも。
わたしはさらに興味をひかれて、ケイといっしょに、その記録を読みすすめていった。
2
「――圭一郎、本当にここから入るのか?」
ぼく――圭一郎の指示に、翼兄さんが顔をしかめている。
その気持ちもわからなくもない。
ぼくが潜入ルートとして考えたのは、煙突だからだ。
今回、ぼくたち「怪盗レッド」が動いたのは「古い屋敷で、盗まれた美術品のオークションが開かれる」という情報をつかんだためだ。
下調べで、ほぼまちがいないとはいえ、出品されるのが盗品だという証拠はない。
だから、その証拠をつかむために、オークション会場の屋敷に潜入する必要があった。
そこで、ぼくが考えた潜入ポイントが、煙突だったわけだ。
この古い屋敷は、今の家にはほとんどない煙突がついている。
煙突は、今はもう使われてはいないと調べがついているから、潜入するにはちょうどいい。
「すすだらけに、なりそうだな……」
どんよりした表情で、翼兄さんが言う。
夜の12時をまわっていて、あたりは暗い。
闇夜にまぎれて、3人で屋敷の煙突前まで無事にやってこられた。
問題は、ここからだ。
「翼お兄ちゃん、ファイト!」
美華子ちゃんが、明るく翼兄さんをはげます。
「美華子、おまえなぁ……自分はここから入らなくていいから、ほっとしてるだろ」
「そんなことないよ~」
妹の美華子ちゃんは、そっぽを向いてこたえる。
この煙突から、中に入るのは、翼兄さんだけだ。
ぼくには、煙突から潜入するような身体能力はないので、翼兄さん1人で煙突から入ってもらい、中から屋敷の部屋の窓を開けてくれることになっている。
美華子ちゃんには、その間、ぼくの護衛として、ついていてもらうことになる。
……小さな女の子に守られるっていうのも、複雑だけどね。
さすがに、これまでに何回も経験して、なれてきたけど。
「じゃあ、行ってくる。そっちも気をつけろよ」
翼兄さんは、ため息をつきつつ、煙突の中に、するりと入っていく。
ぼくと美華子ちゃんは、このまま待機だ。
近くの部屋の窓までいくのに、それほど時間はかからないはずだ。
だけど……。
3分、5分、10分たっても、翼兄さんからの通信がこない。
「どうしたんだ? なにかあったんじゃ……」
「う~ん……翼お兄ちゃんのことだから、だれかに見つかっても大丈夫だとは思うけど」
美華子ちゃんは、首をかしげる。
「いや。今回の作戦では、だれにも見つからないで、窓を開けてほしいんだけど……」
そんなことを話していると、屋敷の中から、さわぎのような声がきこえてくる。
これって、まさか……。
『おっ、圭一郎か』
翼兄さんから、通信が入る。
「なにがあったの、兄さん」
『すまん、屋敷の中を迷ってたら、見つかった……はあっ!』
通信機の向こうで、翼兄さんとだれかが大乱闘をくりひろげているようすが、すぐに頭に思いうかんだ。
こっそり潜入して、盗品売買の証拠をおさえて、もどるだけのはずだったんだけど……。
当初の計画が、くずれている。
「翼兄さん、なんで迷ったの? ルートは説明してあったはずだけど……」
『すまん! 煙突の中ですすが目に入ったから、洗面所に行こうと思ったら、あやしいヤツらとはちあわせた』
そうか。つかわれていないから大丈夫と思っていたけど、ろくに掃除もされていないことまでは考えていなかった。