中学生だけど、みんなにはヒミツで「正義の怪盗」をやってる、アスカとケイ。
そんな2人のかつやくを描いた「怪盗レッド」シリーズは、累計125万部を超える、つばさ文庫の超・人気シリーズです!
今回は、ちょっと(だいぶ?)遅れちゃったけど、アスカの誕生日のお話。
人気者のアスカだから、いろいろな人がお祝いをしたがっているみたいで…!?
「怪盗レッドの記録係」である秋木真さんから、アスカへの誕生日プレゼントとして書かれた小説です。楽しんでね!
1
「――ケイ、ここに置けばいいんだよね?」
わたしは、今日の仕事で手に入れてきた、美術品をとりだした。
これは、悪いやつの犯罪の証拠。
ケイにみちびかれてやってきた廃墟のビルに、ぽつりとあったロッカーの扉を開け、そこに美術品を入れる。
『ああ。警察へは知らせた』
ケイから、インカムに返事がある。
ケイが、怪盗レッドの名前で、警察にこのロッカーのことを連絡すれば、今日の仕事も終わり。
あとは警察が、美術品を本来の持ち主のもとに返してくれるし、うまくいけば、悪いやつらのことも捕まえるはず。
「オーケー。それじゃあ、わたしもここからはなれるね」
もたもたしていて、警察とはちあわせしたりしたら、大変だからね。
わたしがビルからはなれたとき、入れちがいで、パトカーがビルに近づいてくる音がきこえてきた。
わたしは、あらかじめ決めてあったポイントで、レッドのコスチュームから洋服に着替える。
ふぅ……。
今日も無事にレッドの仕事を完了できたし、いそいで帰ろうっと。
2
家に着くと、ケイが先に、わたしたちの部屋にもどっていた。
「ただいま」
パソコンに向かうケイの背中に、声をかける。
ケイはちらりとわたしを見ただけで、すぐ視線をパソコンの画面にもどす。
「……明日は……いや、もう今日か。前に知らせたとおり、レッドの予定はない。休みだ」
「うん、りょーかい」
ケイにしては、めずらしくていねいに知らせてくれる。
けげんに思っていると、ふと気づく。
……そっか! 今日って。
レッドの仕事が、7月19日の夜から始まって、終わったのは日付が変わった20日。
つまり、今日はわたしの誕生日だっけ!
レッドに集中しすぎてて、今まで忘れてたよ。
実咲たちが、誕生日パーティーをしてくれる予定なんだよね。
楽しみだなぁ。
おっと。そんなことを考えてると、睡眠時間がますます減っちゃう。
明日は学校だし、そろそろ寝なくちゃね。
おやすみなさーい!
3
「アスカ先輩! 誕生日おめでとうございます!」
奏が、満面の笑みで黄色いブーケをわたしてくる。
「ありがとう、奏! 実咲、優月、水夏も」
わたしは、奏のうしろにいる3人にも目を向ける。
ここは、お父さんが働いているイタリアンレストラン。
今日は定休日なんだけど、特別に貸しきりにしてもらったんだ。
午前授業だった今日、学校が終わってから4人とお店にきて、わたしの誕生日パーティーを開いてもらうことになっていた。
「料理はどんどん作るから、遠慮せずに食べてくれ」
お父さんが、奥のキッチンから顔をだして、言う。
すでに、おいしそうなマルゲリータピザや、シーフードサラダが、テーブルにならんでいる。
「じゃあ、おじさんの言葉に甘えて、さっそくはじめちゃいましょう」
実咲が、オレンジジュースの入ったコップを持つ。
みんなも、それぞれジュースの入った、コップを持った。
「あらためて……アスカ、お誕生日おめでとう、かんぱーい!」
コン、とみんなとコップをあわせて、わたしたちは乾杯する。
オレンジジュースを飲んでから、さっそくマルゲリータピザを、ひと口。
チーズがとろりと口の中でとろけて、トマトソースの味とあわさって、ほおが落ちそう!
やっぱり、お父さんが焼いたピザは最高だよ!
「それにしても、せっかくお店を貸しきれたんだから、もっといろんな人に声をかけたらよかったね」
お父さんが追加で運んできてくれたパスタをとりながら、実咲に言う。
ん?
実咲たちが、ため息をつきながら、顔を見あわせてる。
え? わたし、なにか変なこと言った?
「アスカの誕生日パーティーに来たいっていう子は、ほかにもいたんだけどね。だけど、希望者が50人を超えてさ。さすがに、そんな大きなパーティーをやるわけにはいかないでしょ?」
ご、50人以上!?
そんなに希望者がいたの!
実咲の言うとおり、さすがに、その人数を集めたら、大変なことになっちゃうよ。
「アスカが助っ人に行ってる部活の子が多かったわ。それで、私たちで手分けして、事情を説明して、今回は遠慮してもらったわけ」
「みんな、そういう事情ならって、すぐに納得してくれたよ」
水夏と優月が、教えてくれる。
「1年生だけでも、アスカ先輩の誕生日パーティーがあるなら行きたいって子が10人以上いましたよ! 遠慮して言いだせなかった子は、もっといたと思いますけど」
奏も、事情説明に協力してくれたらしい。
「なんだか、みんなに手間をかけさせちゃって、申しわけないなぁ。わたし、ぜんぜん知らなかったから……」
知ってたら、わたしも説明とか手伝ったのに。
「アスカの誕生日なんだから、気にしなくていいの」
実咲たちは、なんでもないこと、とばかりに笑う。
「うん。みんな、ありがとう」
わたしは、実咲たちにお礼を言う。
「とにかく、今日は誕生日パーティーなんだから、楽しまなくちゃ!」
水夏に言われて、わたしたちはもう一度、乾杯し直した。
いろんな話をしながら、お父さんが作ってくれる料理を食べる。
それから2時間ほどして――
「それじゃあ、そろそろパーティーもおしまいにしないとね」
実咲が時計を確認して言う。
もうそんな時間なんだ。すっごく早く感じたよ。
「最後に、わたしたちからアスカに、誕生日プレゼント! ほら」
水夏が、きれいにラッピングされた袋を、手わたしてくる。
「え? だって、最初にきれいなブーケをもらったよ? それにパーティーの準備だってしてくれたし」
わたしは、びっくりして、実咲たちを見る。
「プレゼントを用意しないわけないでしょ?」
実咲が、あきれたように、肩をすくめる。
「開けていいの?」
「もちろんだよ」
優月に許可をもらって、わたしはラッピングをていねいに、開いていく。
中から出てきたのは……。
「わあぁ……シュシュだ。しかも4つも!」
「1人ずつ、アスカ先輩に似合う布を選んで、みんなで作ったんです! わたしからは赤のです」
奏がうれしそうに、赤いシュシュを指さす。
「わたしは、青だよ」
「黒と白のチェックはわたし」
「黄色い布を選んだのは、わたしだよ。気に入ってくれるといいな」
実咲、水夏、優月がそれぞれが作ったシュシュを、指でしめす。
どれもカラフルで、おしゃれだ。
「ありがとう! 大切に使わせてもらうね!」
わたしは、ラッピングにつつまれたシュシュを、ギュッとだきしめる。
こんなにお祝いしてくれる友達がいて、最高の誕生日だよ!