角川つばさ文庫の伝説級シリーズがウルトラパワーアップして帰ってきた! 白石ゆの19歳! 今度は角丸書店で伝説の雑誌『パーティー』を復活させちゃいます!? 出版社でもドタバタ大活躍(?)の予感、笑ってトキメク最強ラブコメ☆
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7 あきらめたくない!
ギー! くやしい! くやしすぎる!
どうしてあんな意地悪するのよおおおおおおおおお!
しかも何で落とされるのか全然わかんないんだけど!
「宝井元編集長だって絶対に出したいはずなのに──ん?」
会議室を出た先にある、自動販売機のつり銭入れの中をのぞきこむヘンなおじいちゃんがいるんだけどっ。
「あの? 何してるんですか?」
「副業じゃ。副業」
取り忘れらしい小銭を見せて、「ほれ臨時収入」と言いながらおじいちゃんはニコリと笑った。
「臨時収入って……忘れ物ですよね? 勝手に使っちゃっていいんですか!?」
あたしがおじいちゃんに向かってそう言うと、おじいちゃんは無言で貼り紙を指さした。
えーっと。なになに。
『取り忘れの小銭は、おじいがおいしく使わせて頂きます』と書いてあるではないですか。
「わわっ。ぬかりない!」
「大事なことじゃからな。今日は小銭たくさん集まったから、お嬢さんにもごちそうしよう」
「えーっ。いいんですか!? それじゃあココアでもいいですか?」
いいのかなと思ったんだけど、あたしは自動販売機の中のココアを指さしながら、そう告げた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。うまっ」
おじいちゃんに手渡されたココアは、トゲトゲしていたあたしの心をほぐしてくれた。
「おじーちゃん本業は何ですか?」
「まぁ、何でも屋かの。今は掃除してる」
掃除のおじいちゃんか。こんなお年でえらいなぁ。
あたしなんか生まれた時からずーっと汚部屋の住人だもんなー。(えばるなって!?)
「掃除をすると良いこともあるんじゃよ」
「どんなことですか?」
「俯瞰(ふかん)で物事を見ることができるんじゃ」
「俯瞰? えーっとたしか、物事をより広い視点でとらえるというアレ?」
「それじゃそれじゃ」
ずずっとお茶を飲みながらおじいちゃんは笑う。
「あたしも掃除をすれば、そのスキルが身につくのかな」
もはやそんな余裕はないように思われるが……。
「お嬢さんは頑張りたいことがあるのかい?」
「うん、あたしは『パーティー』っていう雑誌を絶対復刊させたいんだ!!」
「会社を見てまわったらどうじゃ」
会社を見ると何かがわかるのかな?
「決裁者をその気にさせるというのは、大人をその気にさせるということだ。どんな大人がいてどんな想いで仕事をしているか見ない事にはわからないじゃろ」
おじいちゃんはずずっとお茶をすすりながらそう言う。
なるほど、そういうことか──って!
「おじーちゃん、会議室にいたの!?」
緊張していたせいか、まったく気づかなかったよー!
「いたいた。すぐ近くにおったぞ」
えええええええっ。そうなの!? 存在感なさすぎだよ──っ!
「誰にも気づかれないくらい存在感が消せたとしても、会議室に勝手に入っちゃダメじゃない!?」
「掃除してたから問題ない」
えーっ。問題ありありだと思うけど!
「大変だ! 編集部の人たちがバタバタ倒れてるぞー!」
「食中毒か!? まさかあの編集部にあったおやつが原因か?」
フロアにいた編集者さんたちがあわてた声で騒いでいる。
ええええっ。なんだか殺伐としてるけど大丈夫かな。
え? 編集部のおやつを食べたくせに、なんでそんなに他人事なのかって?
あたし1週間経ったパンを食べてもおなかを壊さなかったくらい丈夫だから大丈夫!
「ちょっと邪魔だからどいて!」
「すみません!」
ギャ! 野次馬してたら怒られちゃった!
「って、もうこんな時間! おじーちゃん、ごちそうさまでした!」
おじいちゃんにペコリとお辞儀をすると、あたしは急いで自分たちの部屋に戻ったんだ。
「ただいま戻ったよー。ひえっ」
部室にたちこめる異様な雰囲気に、思わず悲鳴をあげてしまう。
「しおりちゃん、このおびただしい数のブードゥー人形はなに?」
ざっと見ただけでも20体近くあるんですが……。
「宝井元編集長を呪おうと思いまして、さっきの会議室に落ちていた髪の毛をかたっぱしからブードゥー人形にこめてるんです」
げ。さっき編集部で起きてた原因不明の腹痛の正体ってそれでは!?
「ダメダメダメ! 無差別呪詛。ダメ絶対!」
「黒崎の父親だぜ? 髪の毛なんか落とすようなへましねーんじゃねーの」
「……たしかに。無念ですが、エンマ君の仰る通りですね」
「それから黒崎って親父と仲悪かったよな?」
エンマからたずねられる。
「うん。めちゃくちゃ嫌ってた時期もあったけど──なんで?」
「黒崎から聞き出した情報で社会的に抹殺してやろーかと思ったんだけど、くそ。さすがにガードが堅いな」
しおりちゃんとエンマの本気を感じ、あたしは二人に向かって手を合わせた。
「わー! 気持ちはわかるけど、呪いも社会的抹殺も王子のパパだしカンベンしてあげてー!」
「呪うのが無理なら正攻法でいくしかないですね。ゆのさんは言われっぱなしでくやしくないんですか?」
「そんなことねーぞ、飛びかかろうとしてたよな?」
ギャ。エンマってば、見なくていいところまで見てんだから。
「オマエさ。今でもやっぱり勝負パンツはいちごパンツなんだな? 暴れると見えるぞ」
「そ……そんなことないよ!」
「図星って顔に書いてある」
ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ。おそろしい!
「なんでそんな情報持ってるの!?」
「見えてたからに決まってんだろ」
ひえええええっ。見えてたっていつ!?
シレッと表情を変えずに答えるエンマを見て、「ウソだよね!?」と何度も問いかけるが、返事はなし。
うおおおっ、冗談であってくれー!(祈)
「そーいえばカレンさんは静かね」
「そりゃー。愛しのカケルがいるからだろ。会議室の後ろのすみにいるの見つけた瞬間、誰かさんの目がハートになってたもんな」
「!」
「色気づいてますね」
「仕方ないじゃない! 最近あのクソ野郎、ぜんぜん会ってくれないんだから」
「そういえば小春さんは?」
「うちらの企画がヤバいから呼びだされて怒られてるんじゃない?」
「何がそんなに悪かったの? せっかく人が出した企画をよく知りもしないのに落とすなんて、信じられなくない?」
「信じられないのは、いきなり関係ない部署の人間の企画に口を出すオマエだあああああああっ!」
「みんな、ごくろうさま」
エンマが叫んだと同時にドアが開き、女性がすっと現れた。
げ! 小春さん!?
なんかいっきに老け込んでいらっしゃいますが、気のせいでしょうか!?
「あたしのせいですみません……」
小春さんは、あたしがまだ納得いっていない事に気づいていたみたいで……。
ポンとあたしの背中をたたいたあと、ほほ笑みながら口を開いた。
「ねえ、みんな。毎月日本で新刊って何冊出ると思う?」
あたしたちは顔を見合わせる。
「毎月150冊くらいとか?」
「いやいや。マンガも入れたら300はいくんじゃないか?」
「でも毎月の話ですよ?」
「現在、日本では毎年7万点もの本が出版されているというデータがあるわ。ということは、ひと月あたり6000点ね。1日あたりに換算すると200冊が出版されている計算ってわけ」
ひ───っ! い……1日で200点んんんんんんっ!?
「ね。ビックリするでしょ」
「ビックリするというか……なんか怖くなっちゃいます」
「そう。その中で戦っていかなければいけないの。だから本会議はキラリと光る企画であることをアピールしないといけない。これは大人と大人の真剣勝負なのよ」
小春さんの言葉を聞き、あたしは考え込んだ。
「そうか。本屋さんで売ってる本を作るためには、そんな過程が必要だったんだ……」
200点の中でうもれない本を作るって、そんなことあたしにできるのかな?
うがー! 弱気になっちゃいかーんっ!
スーハースーハー。深呼吸をしてから目を閉じる。
頭がグルグルしてくる。あたしたちは何をすればいいんだっけ!?
宝井元編集長の話ぶりだと、解決しないといけない部分がいくらかありそうだった。
だけど、それが全然思いつかない。
そんなとき、ふと、おじいちゃんの言葉が頭をよぎる。
「あの……。他の部署を見学させてもらえませんか?」
「他部署を見学か。それは何のために?」
小春さんのまなざしはかつての保護者のようなものではなく、あたしが一人の大人の編集者として問われているのが伝わってくる聞き方だった。
「部活として雑誌を作っていた時とはぜんぜん違うなって思って。新しい企画を考えるためにも、どんな人が同じ出版社で働いているか知りたいんです」
きっとあたしは『何がわかっていないか』ってことすら、わからない。
だから実際に働いている人たちを見て、リアルな本作りを少しでも肌で感じた方がいい気がする。
きっとおじいちゃんはそんな事を考えて、アドバイスをくれたんじゃないのかな?
「たしかにな。さすが編集長。オレサマもどいつの情報を握ればいいのかわかるしな」
いやいや。おじいちゃんの案なんだけどね。
ん? エンマ、あんたなんか物騒なこと言った!?
エンマは聞こえないという顔をしてる。
「わかったわ。他の部署には私から伝えておく。見学していらっしゃい」
と小春さんは笑った。
出版社って、編集者以外の仕事ってどんなのがあるんだろう?
実はそのあたりのことはまったく知らないんだよね。
時間がないから早く新しい企画について考えなきゃと思いつつも、ワクワクしているのは、あたしだけじゃないはずだ。(確信)