「まさか、林間学校の班まで、天川と同じになるとはなあ」
スタンプラリーが始まって、班ごとに動き出してすぐだった。クラスメイトの柴界人くんが、青い帽子をいじりながら言った。
班決めは、完全くじ引きだったから、わたしもびっくりしたよ。
「クラスもなんだかんだ、一年からずっと同じだし。おれたちくらいじゃね?」
「そうかもねえ」
柴くんは、男子のリーダー的存在で、ちょっと苦手だった。
でも、運動会を晴れにするお願いをかなえる中で、てるてる坊主が消えちゃう事件が起きたときに話を聞いて、変わった。
わたしと同じ気持ち――悪いことをしたわけじゃないのに、つい、周りのみんなの反応をこわがっちゃう気持ち――柴くんも持ってるって知れたんだ。
おかげで今は、気軽に話せるようになったの。
「来年も同じクラスだったらおもしろいよな!」
「もう来年の話? でも、そうだね! そうなったら、自慢できるね!」
はあ~、すごく平和だよ~。お外でおしゃべりするのって、教室とちがっていいね~。
ほわ~としていると、目の前に黒い蝶が飛んできた。
「はっ! 悪天蝶!」
「なに?」
木の葉っぱにとまった蝶を、柴くんはまじまじと見つめる。
「この蝶、あくてんちょうって言うのか? 天川、くわしいんだな」
「えっ。あっ、たぶんちがう。見まちがいだったみたい。ハハハ……」
つい、蝶を見たら反応しちゃった。自然がいっぱいだから、いろんな蝶が飛んでるんだよね。
でも、本物の悪天蝶なら、昼間でもかがやくくらい光ってるはず。
のんびりしてる場合じゃないね。神社にお願いしに来た子を、さがさないと!
「ねえ、柴くん。聞きたいことがあるんだけど。きのう、お天気神社に来てない?」
「お天気神社? ああ、天川の家の。行ってないけど、なんで?」
「えっと。神社に、落とし物があって。同じ五年生の子の物っぽかったから」
とっさに、ごまかした。でも、こういう聞き方をすれば、不審に思われないかも。
同じ班のほかの二人にも、声をかける。
「ねえ、三希ちゃん、花桜梨ちゃん。聞いてもいいかな?」
学校の情報通で、おしゃれな月島三希ちゃん。
バスケクラブにいて、背の高いクールな田所花桜梨ちゃん。
二人は見た目も性格も真反対なのに、すっごく仲がいい大親友で有名なんだ。
「きのう二人で、うちのお天気神社に来たりしてない? じつは、落とし物があって……」
「あたしは行ってない」
先に、花桜梨ちゃんが答える。
「三希のことは知らないけど」
「うちだって、行ってないし。なに? 気になるの?」
「べつに。天川さんの質問に答えただけじゃん」
「ちょっと! そういう言い方が、ムカつくんだけど」
あれ? 二人は、大親友のはず……。
「ほんと、もう話しかけないでよね!」
「話しかけてきたのは、そっちじゃん。もういいや。さっさとスタンプ集めて、終わらせよう。一番近い、アスレチック広場からでいいよね」
「それ、うちが言おうと思ってたし! 天川さん、柴くん、行くよ!」
ふんって、二人はそっぽを向きながら歩き出す。
「ったくさー。マジでこまるよなあ」
柴くんがこしに手を当てながら、ため息をつく。
「柴くん、知ってるの? 二人、なにかあったの?」
「天川、知んないの? あいつら最近、大ゲンカして、ずっと口きいてないんだって。みんな、コソコソ話してたじゃん」
え~! 大の仲良しで有名な二人が、ケンカ~?!
「なんでケンカしちゃったの? 最近って、いつの話?」
「そこまで知らねーよ。でもみんな、びっくりしてる」
二人もケンカかあ。どうしよう。
間に入ったほうがいいかな? でも、余計なお世話かもしれないし。
でもでも、同じ班のメンバーなのに、知らんぷりするのは……。
ああ~。お願いの依頼人もさがさなくちゃいけないのに、集中できないよ~。
そうこうしているうちに、第一ポイントのアスレチック広場に着いちゃった。
「今回のクイズ・スタンプラリーでは、花や植物のスタンプを集めてもらいます。なので、クイズも、花や植物に関することです。では第一問、わたしはなんの花?」
先生が、クイズが書かれたフリップを出す。
「わたしは、夏の花で、みんなもよーく見たことがあります。そして英語で、モーニンググローリーと言います。わたしは、なんの花でしょうか?」
えっ、英語⁈ わたし、分かんないよ。
柴くんも花桜梨ちゃんも、むずかしい顔をしてる……。
「答えは朝顔でしょ。モーニングは朝、グローリーはかがやき。朝にかがやく花は、朝顔じゃん」
三希ちゃんがスラスラ答えて、先生が「正解です」ってにっこり笑う。
「わあ~、すごい! 三希ちゃんがいてくれて、よかった~」
「お、大げさだし……」
「そんなことないよ。ねっ、柴くん。花桜梨ちゃん」
「まあ、助かったわ。最初からつまずかなくて」
「……そうだね。ありがと」
花桜梨ちゃんは、つぶやくように言った。三希ちゃんは照れて、顔が赤くなる。
「べ、べつに! 塾で英語を勉強してるだけだし……もう、次行くよ!」
んー。三希ちゃんも花桜梨ちゃんも、ほんとうはお話ししたいんじゃないかなあ。
二人なら、このままスタンプを集めながら、仲直りできるかもしれない!