授業以外、人が来ない図工室の前にたどりついた。
体育座りして、ひざに顔をうずめる。
なにやってるんだろう、わたし……。
いつもこうだ。みんなの言葉が気になって、じぶんがどうしたいのか分からなくなる。
じぶんに、自信がないから。自信がついてきたと思ってたけど、気のせいだったんだ。
「空、ここにいたのか。むかえに来たぞ」
声が聞こえて、半分だけ顔をあげる。ハレくんだった。ほかのみんなはいない。
「……アメくんたちは?」
「みんなを落ちつかせて、教室に行かせてる。空も、行くぞ」
「ムリだよ、行けない。わたし……」
「さっきみたいに、じぶんが悪いからとか言うなよ。お前はなにも悪いことしてないだろ」
「……でもみんな、わたしが悪いって思ってる」
「だから、逃げたのか?」
ハレくんはかたひざをついて、わたしに視線を合わせる。
「逃げて、悪いことをしてないのに、悪いやつだって思われてもいいのか?」
「よくないけど。でも、だって……こわかったから」
「じゃあお前は、なんでもこわくなったら、あやまって逃げるんだな」
「……」
「晴れにする儀式のとき、悪天蝶はむちゃくちゃジャマしてくる。それは、クラスメイトたちに責められるよりこわいぞ。そうなったら、空は逃げるのか?」
言葉が出てこない。わたしは、わたしは……。
「空は、かんたんにあきらめすぎだ。あきらめる気持ちが勝てば、天気も晴れにできない。何回も言うが、熱くなる心がないと──」
「わたしにはないよ!」
思わず、大きな声が出た。目に、なみだがたまる。
「あるかなって思ったけど、やっぱりなかったんだよ。わたしはあきらめがはやくて、すぐに逃げちゃうから。ハレくんたちと出会ったときから、なんにも変わってないの」
ああ、いやだな。こんなこと言っちゃうじぶん。
うたがわれて、なにも言い返せないじぶんも。
あやまらなくていいのに、あやまっちゃうじぶんも。
ほんとうに、いやだ。だってこんなの、すごく、くやし──。
「くやしいよな、オレも同じ気持ちだ」
パッと、ハレくんを見る。
「ハレくん。なんで今、わたしの気持ちが……」
「バレバレなんだよ、ウソがへたすぎて。ほら」
ハレくんが、こぼれそうななみだを指ですくってくれる。
「よく見てみろ、外を」
言われて、立ち上がる。廊下の窓から外をのぞくと、太陽がギラギラ光っていた。
「なんでこんなに晴れてるの……?」
「空の心が、くやしいって熱くなっているから、太陽も光ってるんだ。だけど、そのくやしさをかくせば、太陽もかくれる。空、ちゃんと言ってくれ。ほんとうは、どうしたいんだ」
太陽をバックに、ハレくんはたずねる。
わたしは目を閉じて、じぶんの心の中を見つめる。
「わたし……わたしだって、ちゃんとかざったって言いたい。でも、言っても、信じてもらえない雰囲気だった……。だから、やっぱりムリ。わたしは、みんなみたいに強くなれない」
気持ちがぐちゃぐちゃのまま、頭を抱えてしゃがみこむ。
「もう、自信ないよ……」
窓からさす太陽の光が、弱くなる。白い廊下に、影ができて暗くなる。
「空」
ハレくんが、名前を呼ぶ。
「お前は変わった。心は、ちゃんと強くなってきてる。オレが保証する」
「……ほんとに?」
「もちろんだ。それに言ったよな。お前がどんなに自信をなくしても、きっと助けるって。約束はかならず守る。だから、顔をあげろ」
ゆっくり顔をあげる。ハレくんは、わたしに向かってまっすぐ手をのばしていた。
「くやしいなら、あきらめなきゃいいだけだ。オレたちで、うたがいを晴らすぞ」
「……でも、信じてもらえなかったら?」
「信じてもらえるまで、あきらめずにがんばるんだよ。強くなれないから、あきらめるんじゃない。あきらめないから、強くなれるんだ」
「わたしに、できるかな?」
「ああ、強くなってきてるって言っただろ」
ハレくんが、わたしの手をつかんだ。ぎゅっと力をこめて、立たせてくれる。
「空ならきっとできる、信じろ」
ドクンッ。
まただ。まるで、魔法にかけられたみたい。
ハレくんは、ずっとわたしを信じてくれてる。だから、ハレくんが言うと、なんでもできそうな気がする。
わたしの心が熱くなる。立ち上がって、動き出さずにはいられない。
ハレくんは、ほんとうに──太陽みたい。
「分かった。わたしまず、みんなに正直に話すよ」
「ああ。オレもそばにいるから、安心しろ」
「えっと……。ハレくんは、じぶんの席にいてだいじょうぶ。わたし一人で話すから」
「なんでだよ」
「わたしのことだから。ハレくんの言葉じゃなくて、わたしの言葉で伝えなくちゃ。みんな納得してくれない」
ずるいって言われてはずかしくなったのは、そのとおりだって思ったから。わたしが言わなくちゃいけないことを、だれかにまかせて言わせるのは、逃げてるのとおんなじだよ。
「わたしもう、逃げたくないから」
「……そうだな。じゃあ、がんばれ」
ハレくんが、ぽんっと背中をおす。その手は、とってもあったかかった。