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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【2-2 呪われてしまったの! 怪文書が、こんなにも!】
「そう、ボクだ」
そう言って、先輩は目を細めた。
その美しい表情に、わたしも目を細める。前世がモグラのわたしには、あまりにもまぶしい。
先輩の前世は天使だろうか。いや、いまも天使か。やっぱり、ここは天国?
「さがしたよ。ぜんぜん図書室に来てくれないもんだから、柊(しゅう)の教室にも行ったんだ」
「えっ!」
「柊はどこにいる? 居場所を知っていたら教えてくれ、って聞いてまわった。そしたら、きみのクラスメイトはなんて言ったと思う?」
「な、なんて言ったんですか?」
先輩ほどの美少年が、わたしの居場所を聞くなんて、クラスメイトは混乱したはず。
明日から、どんな顔で教室に行けばいいの。
「彼らはこう言ったよ、『柊ってだれ?』って」
「…………」
クラスメイトに下の名前を知られていなかったおかげで、わたしだとバレずに済んだらしい。
「柊って、クラスではなんて呼ばれてるんだい?」
「やめませんか、その話は」
「気になるなぁ」
「うぅ、き、基本、『夜野目(やのめ)さん』です」
「夜野目って苗字(みょうじ)、カッコいいからね」
「あとは『アレ』とか『あの人』とか……」
「名前を呼ぶことさえはばかられているなんて、貴族みたいだ」
「小学校ではよく、『夜野目さんて空気だよねー』って」
「空気! 生きていくのに絶対必要な存在って意味かな!?」
大げさなくらいおどろいてみせる先輩。この人、絶対からかってる!
「夜野目さん、こ、この人は? どういう関係?」
「めっちゃイケメンやん!」
小山内(おさない)さんと水橋(みずはし)さんが目を丸くしている。そうだ、いまはふたりがいるんだった!
どういう関係って……どういう関係なんだろ?
とまどうわたしをよそに、先輩はマイペースに話をつづける。
「それで、柊はどうして仮眠室(かみんしつ)に?」
「保健室のこと、仮眠室って呼んでるんですね」
「ほかには、意外とベッド硬(かた)い室とか、ほんとうに具合が悪いときは行かない室とも呼んでる」
サボる気満々だ。
「えっと、じつはわたし、倒れちゃったみたいで」
「ハハハ」
「笑いごとです?」
「怒られるよりマシだろ?」
「たしかに」
「おいおい、まてまて」
めんつゆ入りのボトルを手にもったまま、まゆをひそめた富士築(ふじつき)先生が割りこんでくる。
「おしゃべりはその辺にしろ。彼女は安静(あんせい)にしなければならないんだ」
しかし先輩は、どこふく風といった感じで平然としている。
「いや、柊はもう平気だよ。そうだろう?」
「あ、はい。富士築先生、わたしは平気です。その、ほんとに、ほんとです……! ほんとに、ほんとで、つまり、その……ほんとにほんとなんですっ……!」
ほんとにほんとの一点張りをしてしまった。ほかに手札ないのか、わたし。
「それなら、いいが……」
富士築先生はしぶしぶうなずいた。
よかった。先輩のおかげで、気持ちを伝えられた。
「さて。柊、それじゃあ行こうか」
「図書室にです?」
「うむ。相談者がまってる」
「やっぱり、わたしも参加するんですね」
「当然。イヤだと言っても、逃がさないよ」
小山内さんと水橋さんが「だからどういう関係!?」と、ヒソヒソ話しているのが横目で見えた。
いや、ほんと、どういう関係なんだろう……。天使とモグラ。なんだか月とスッポンみたい。
とりあえず、ベッドから降りよう。そうしないと、また手をつなぐことになりかねない。
「きみたちが、柊の友だちだね」
「「はいっ」」
とつぜんの先輩からの問いかけに、小山内さんと水橋さんの体が、同時にビクッとはねた。
「柊を借りていくけど、いいね?」
「「はいっ」」
ふたりの視線は、先輩の顔にまっすぐ向けられている。
たぶん、質問の内容なんてまともに聞いちゃいない。
「柊を、ボクがずっとひとり占めしてもいいね?」
「「はいっ」」
ほら! 案(あん)の定(じょう)! というか、なにを言ってるんだ!
「ちょっと先輩!」
「冗談さ、アフリカンジョーク」
「なんでアフリカン!? せめてアメリカンジョークでは!? いやアメリカでも変ですけども!」
「なんだ、大きい声出せるじゃないか」
フッと笑う先輩。つくりものめいた顔がくずれて、生き生きとした表情がのぞく。
「そ、そんな、わたしに元気を出させるためだった、みたいな雰囲気出してもダメです……」
笑顔にトキメキながらも、わたしは必死に抗議(こうぎ)する。
「べつに、そんなつもりはなかったさ。ジョークはジョークであってジョークでしかない」
「わ、笑えませんよっ」
「ボクのジョークはきっと、死後評価されるタイプなんだね」
なんてうそぶきながら、先輩は保健室を出た。わたしがついてくるのを、みじんも疑っていないような足取りで。
「夜野目くん――だったか」
声にふり向けば、富士築先生が心配そうにこちらを見ていた。
「きみは倒れたばかりなんだ。くれぐれもムリはしないでくれ。なにかあったら、遠慮(えんりょ)なく保健室へ来るんだ」
「は、はい、ありがとう、ございます」
こんなに心配してくれるなんて、逆に申しわけない。わたしごときに。
「それと、冷却シートはそこに投げとけ」
富士築先生はゴミ箱を指さした。……え、投げるの?
スポーツテストのボール投げで、なぜかボールを後ろにそらし、マイナス記録を叩き出した、このわたしが?
さすがにそれはマズいので、きちんとゴミ箱に捨てる。
「柊、まだかい?」
しびれを切らしてもどってきたのか、保健室の扉から、ひょこっと顔を出す先輩。
「……えっと、それでは、行ってきます」
富士築先生はだまってうなずく。
小山内さんと水橋さんは、扉からのぞく先輩の顔をボーッとながめていて、わたしの声など届いていないようだった。
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<第12回は2022年12月9日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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