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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【2-3 呪われてしまったの! 怪文書が、こんなにも!】
あいかわらず人がいない図書室に、わたしと先輩の足音がひびく。
窓から入る春風が、カーテンをやさしくふくらませ、先輩の髪をそっとなでた。
「春の匂(にお)いだ」
先輩がボソリと言う。
「わからないかい? 春の匂い」
独(ひと)り言(こと)かと思ったけれど、わたしに話しかけていたらしい。
「なんとなく、わかる気がします。……えっと、春、好きなんですか?」
「好きだよ。春も夏も秋も冬も。衣食住が足りていて、将来になんの不安もないなら、どんな季節も好きだ」
予想外の答えに、うまく反応できない。
「柊(しゅう)は春、好き?」
「そ、そうですね、けっこう好きです。とくに明け方の、空気が澄(す)んでいる時間は」
「春は曙(あけぼの)、か」
「でも、その時間帯に起きるのって、大変なんですよね」
「春眠(しゅんみん)暁(あかつき)を覚えず」
「そもそもわたしは低血圧で、朝は苦手で。なにかこう、パッと起きられる薬でも発売してくれると助かるのですが。いわば睡眠薬(すいみんやく)の逆バージョン」
「睡眠の逆、覚醒(かくせい)……覚醒薬?」
「やめましょうか」
ハハハ、と先輩は無邪気(むじゃき)に笑った。
「小山内(おさない)さんと水橋(みずはし)さん、ふたりともいい子そうだった」
「え、え?」
どうやら、話が変わったらしい。唐突(とうとつ)すぎて、混乱する。
「そう、ですね、ほんとうに、いい友人です」
「柊はさ、恋人はいないの?」
「うへっ!? い、いるわけないですよっ……!」
話の展開が、ほんとわからない!
「いるわけないんだ?」
先輩が興味(きょうみ)深そうに聞く。
「わたしとつきあいたい人なんて、いるわけないです」
「そうかな、人間なんて星の数ほどいるんだし」
星に、手は届きません。
「……星といえば、わたしにとって恋人って、流れ星とか四つ葉のクローバーに近いんです」
「流れ星? クローバー? そんなの、ふつうにあるじゃないか」
「そう、ふつうにあるんです。ほかの人には。みんなが流れ星に気づいても、わたしはいつも見逃して。四つ葉のクローバーだと思ってよろこんでいたら、よく似たカタバミで。ないんです。みんなにはあっても、わたしには、ない」
わたしの人生、そんなんばっかし。
「だから、わたしに恋人ができるなんて、天地がひっくり返ってもありえません」
「天地、ね。地動説だって、はじめは否定(ひてい)されていたけど」
そう言うと、先輩は、流れ星はもともと不吉とされていたとか、カタバミは海外では幸運の象徴(しょうちょう)とされているだとか、雑学を教えてくれた。
もしかしたら、先輩なりになぐさめてくれたのかもしれない。
「柊、見えるかい?」
とつぜん立ち止まって、図書室の奥を指さす先輩。
その指の先には、机にほおづえをついている少女がいた。
「あれが相談者の、小日向比奈(こひなた ひな)さん。ボクと同じ二年生だ」
\小説賞受賞作を応えん/
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つばさ文庫の新シリーズを、ぜひ応えんしてくださいね♪
<第13回は2022年12月13日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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