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こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開!
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪
表紙・もくじページ
【1-8 さあ考えよう。どうして幽霊は泣いているのか】
「……あれで、よかったのでしょうか」
「よかったんじゃない? サラって彼女の名前だろう? 気を許していない相手に、名前を教えたりしないさ。ましてや、もともと名前をまちがっていた相手に」
「うっ、それを言われると……」
「大切なのは、柊が納得(なっとく)できたかどうか、じゃないかな? 柊の世界なんだから」
「わたしは……あれで、よかったと思います。なんとなく、そう思うんです」
「じゃあ、それでよかったんだよ。サラさんに、ボクらの声は届いたんだ」
それから、わたしたちはサラさんが立っていた場所へ向け、手を合わせて黙祷をした。
「さて、今日はここまでにしよう。本格的な供養(くよう)は、また明日」
そう言って、立ち去ろうとする先輩に、わたしは問いかける。
「先輩は、納得したのですか? その、幽霊がいることに」
「いいや」
先輩は肩をすくめた。
「ボクはなにも視なかったし、なにも感じなかった。だから、納得なんてできない。……そうだな、ボクの世界で考えるなら、やさしくて共感力の高い柊が、友だちから幽霊のウワサを聞いて、そんな幻覚(げんかく)を見てしまった、とかね」
あれは幻覚じゃない、とは言い返さない。
大切なのは、わたしの納得。先輩から、そう教わったから。
「わたしも先輩の世界は否定しません。しませんが、一つ訂正(ていせい)させてください」
「なんだい?」
「ウワサを聞いたのは、友だちからではなく、ただのクラスメイトからです」
「なんて悲しい訂正だ……」
「わたしの世界だと、そうなんです。小山内(おさない)さんには面と向かってこわいと言われてしまって」
そのことを思い出すと、心がぐっと重くなる。
「うむ」
先輩はあごに手をあて、考えるそぶりを見せた。
「小山内……か」
「先輩?」
「いや、今回の事件は名前がキーだったろう? 名前、そして誤解が」
名前と誤解。たしかにそうだけど、それが?
「小山内、あるいは長内は、北海道や東北地方に多い苗字(みょうじ)なんだ。その由来はアイヌ語で川の乾(かわ)いた沢(さわ)、という意味のオッ・サ・ナイから来ているって説がある」
「アイヌって、日本の北のほうに古くから住んでいる、先住民族ですよね?」
「そう。つまり小山内さんとやらは、北海道もしくは東北地方出身の可能性がある。少なくとも、ご両親のどちらかは、その可能性が高いだろう」
先輩って、苗字にもくわしいのか。
「小山内さんとやらは、図書室で勉強していただけで、こわいと言ってきたんだろう? それって、いくらなんでも唐突(とうとつ)すぎないか?」
「それは、そうですが……」
「でも、北のほうの出身なら、こんな解釈(かいしゃく)ができる。北海道や東北地方で『こわい』とは、『疲(つか)れる』って意味の方言だ」
「あっ!」
――でもさ夜野目(やのめ)さん、放課後も残って勉強するなんて、かなりこわいよね。
小山内さんの言葉が、脳裏にフラッシュバックした。
「じゃ、じゃあ、わたしは誤解して? 『怖い』じゃなくて『こわい』だった? 小山内さんはただ、疲れるよねって言いたかっただけ? いまの話、もし、ほんとうだとしたら――」
「ボクはほんとうだと思う。だって、そっちのほうがいいだろ?」
そう言ってやさしくほほ笑む先輩に見とれながら、わたしは自然とうなずいていた。
また、だ。また、先輩の言葉によって、世界がガラッと変わってしまった。
いま、わたしの心は羽のように軽い。
まるで、ずっとかけられていた呪いが解けたかのよう。
「柊、これから、駅前のショッピングモールに行くよ。サラさんの供養に使うものを買いたいし、本屋で新刊もチェックしたいし」
「あの、先輩、わたしもいっしょに行ってはダメですか?」
自分の言葉に自分でおどろく。
わたしって、こんなに積極的になれたのか。
「その、サラさんに、me too(わたしも)って言ったので、わたしにも手伝わせてほしいんです」
「あのさあ」
あきれ顔の先輩。その表情を見て、ギュ~ッと心臓がしめつけられる。
まるで、見えない手で、心臓をわしづかみにされたかのような。
うぅ、出すぎたマネをしてしまった。わたしといっしょなんてイヤに決まってるのに。
「きみも行くに決まってるだろう」
「……………………え?」
「なにを意外そうにしてるんだ。柊も行くんだよ。ボクはもう、きみをはなさない」
「ふえっっ!?!?」
顔が熱くなるのがわかる。先輩こそ、な、なにを真顔で言っているんだ!
「ボクはきみをはなさない。だってきみは――見鬼(けんき)の才(さい)をもっているから」
「……は?」
「幽霊とかアヤカシとか、その手の類いを感じる力、それが見鬼の才だよ。柊のような貴重な存在を、怪異好きとして放っておくわけにはいかない。きみは、ずっと僕の側にいるべきなんだ」
「…………」
いや、まあ、そんなところだと思っていましたけどね?
いや、ほんと、期待なんて、これっぽっちもしてませんが?
こ、これっぽっちも……ね?
「今度は固まってしまったよ。おもしろい子だよな、柊は。ほら、行こう」
「っ!?」
先輩が、わたしの手をとり、そのまま歩きだす。
ドキドキしすぎて、さっきとはべつの意味で胸が痛い。
でも、先輩の手を、振りはらいたくないと思う自分がいた。
先輩――真堂(しんどう)レイさん。怪異好きにして、怪異潰(かいいつぶ)しの美少年。
わたしとは、ちがう世界の人なのに、わたしの世界を変えた人。
先輩の指の冷たさを感じながら思う。この人が、いちばん、フシギ。
どんな怪異より、いちばん。
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<第10回は2022年12月2日更新予定です!>
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。
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